Anthropological Science (Japanese Series)
Online ISSN : 1348-8813
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113 巻, 1 号
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追悼文
総説
  • ―研究の現状と将来の展望―
    海部 陽介
    2005 年113 巻1 号 p. 5-16
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/13
    ジャーナル フリー
    過去20年ほどに渡って繰り広げられてきた現代人の起源をめぐる論争も,証拠の蓄積と分析手法の洗練化に伴って,現在ではアフリカ起源説が基本的に正しいとの認識に落ち着きつつある。これにより私たちは,アフリカで進化し,世界へ広がり,各地で文化を多様化させ,そして現在に至るという,私たちの種ホモ・サピエンスが歩んだ歴史全体の青写真を得ることができた。現在の人類学が目指すべき大きな目標の1つは,この歴史の細部をさらに明らかにし,ホモ・サピエンスの総史を完成させることであろう。本稿では,このような観点から私たちの種の起源研究の現状といくつかの課題を整理し,さらにこうした努力を継続していくことの意義について考察する。ホモ・サピエンスの総史の復元は,世界各地の研究者が共同して取り組むべき大きな課題だが,人間の文化の多様性や人種の成り立ちといった重要な話題について,根本的な理解を得るために必要不可欠な作業である。
原著論文
  • 長岡 朋人, 平田 和明
    2005 年113 巻1 号 p. 17-26
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/13
    ジャーナル フリー
    鎌倉市の由比ヶ浜地域に所在する遺跡からは,これまで数千体の中世人骨がみつかっている。しかし,由比ヶ浜地域の多くの人骨は,頭蓋の集積墓から破損した状態で出土しているため,正確な性別判定は困難である。頭蓋の性別判定は,計測値に基づく判別分析が有効であるが,埴原(1959, 1981)や田中ほか(1979)の判別分析法を中世人骨に直接あてはめることは2つの理由から難しい。1点目は,従来の判別法は,頭蓋全体の計測値から判別式を導いているため,欠損部位が多くみられる中世人骨には実用性が乏しい。2点目は,従来法は現代日本人頭蓋からのデータを用いて導いた式であるため,頭蓋形態が現代人と異なる古人骨,特に長頭・低顔・歯槽性突顎を特徴とする中世人頭蓋の性別判定においては正確性に問題があると思われる。
    本研究では,鎌倉市出土の中世人頭蓋に基づいて性別判定の判別式を求めた。計測部位は,乳様突起など,破損した頭蓋でも遺残しやすい部位である。本研究で求めた判別式のうちの1つは,乳様突起長1項目だけに基づく式でも80%の的中率を上回っていた。また,計測項目を増やして判別式を求めた場合にはより高い的中率が得られた。本研究の判別式は,保存状態が悪い中世人頭蓋の性別判定に有効である。
  • ―橈骨と脛骨の横断面特性―
    菊池 泰弘, 濱田 穣
    2005 年113 巻1 号 p. 27-41
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/13
    ジャーナル フリー
    マカク属5種(ベニガオザル(Macaca arctoides),アッサムザル(Macaca assamensis),タイワンザル(Macaca cyclopis),ボンネットザル(Macaca radiata),ブタオザル(Macaca nemestrina))の橈骨と脛骨において,遠位部から骨幹にかけての骨断面をpQCT(peripheral Quantitative Computed Tomography, XCT Research SA; Norland-Stratec社製)により撮像し,その特性値を算出した。得られたデータから,橈骨と脛骨の同一計測パラメータの相関関係や,体重と骨長あるいは骨断面特性値との相関関係の回帰分析を行った。地上性四足歩行のマントヒヒ(Papio hamadryas)および樹上性四足歩行のフサオマキザル(Cebus apella)の分析結果と比較することによって,行動様式の観点からマカク属5種の骨形態特徴を検討・考察したところ,種ごとに特有な特徴が見出された。結果:(1)アッサムザルとボンネットザルは地上性と樹上性のモザイク的特徴を示し,従来どおり半地上性な骨形態特徴を持っていることがわかった。(2)従来,半地上性と言われているブタオザルは地上性的な骨形態特徴を示した。(3)地上性とされているベニガオザルは今回の分析から見ると,樹上性の特徴を強く示した。(4)タイワンザルは地上性とも樹上性とも言えない独自の骨形態パターンを示した。マカク属において,従来言われてきた行動様式と骨形態との関連性について再検討する必要性が示唆された。
  • 瀧川 渉
    2005 年113 巻1 号 p. 43-61
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/13
    ジャーナル フリー
    縄文人と北海道アイヌの両集団間に緊密な近縁関係があるということは,頭蓋や歯冠に見られる計測的特徴や形態小変異などに基づいた各種解析の他,古人骨から抽出されたミトコンドリアDNAの塩基配列に基づく分析からも積極的に支持されてきた。しかしながら,両者の四肢骨形態については,今まであまり十分な検討が行われてこなかった。
    そこで今回,北海道,東北,関東地方を含む東日本における縄文人骨資料をふまえ,北海道アイヌと現代関東人との間で比較を行い,3集団間における四肢骨の計測的特徴について共通点と相違点を確認した。単変量の比較では,まず縄文人と北海道アイヌの遠位骨が現代関東人よりも相対的に長いということ,縄文人男性の腓骨が著しく太く3集団間で最大であること,縄文人とアイヌでは脛骨の扁平性の強さが共通するのに対し,上腕骨の扁平性や大腿骨の柱状性についてはアイヌの方が有意に弱いことが判明した。
    また,3集団間で上肢骨と下肢骨の計測値に基づきマハラノビス距離を求めてみると,アイヌは縄文人と現代関東人のほぼ中間付近に位置づけられるか,やや現代関東人に近接する状況が見られた。その一方,いずれの計測項目の組み合わせでも,縄文人とアイヌの間の距離は,縄文人と現代人の間の距離よりも小さくなることが示された。近現代に至る小進化の過程において,縄文人がアイヌと現代関東人の共通の祖先であると仮定するならば,縄文人からアイヌに至る四肢骨の形質変化は,縄文人から現代関東人への変化よりも小さかったことが示唆される。このような形質変化の違いは,頭蓋計測値に基づいた距離分析の結果ともよく一致する。
  • ―計測時の姿勢による寸法の違い―
    河内 まき子, 持丸 正明
    2005 年113 巻1 号 p. 63-75
    発行日: 2005年
    公開日: 2005/07/13
    ジャーナル フリー
    近年,人体寸法計測を形状スキャナで行なうことが増えたが,その計測誤差について体系だった検討は行われていない。形状スキャナにより得られた人体寸法計測値の誤差は,計測機によるものと計測法によるものとに分けられる。このうち計測法による誤差をもたらす要因には,(1)計測点の決定,(2)被験者の姿勢,(3)接触式と非接触式による体表面形状の差,(5)形状スキャン時の人体の動揺,(6)正立位とは異なる姿勢での計測,が考えられる。本研究ではこのうち最後の要因の影響を明らかにするため,1名の計測者が40名の被験者を,正立位および上下肢の外転角度を変えた6条件下で計測し,得られた寸法値を比較した。この結果,以下のことが明らかになった:1)下肢の外転はわずかでも腸骨稜より下方の腰と大腿の寸法に影響を与えるが,左右の足軸間距離が25 cm以下ならば,骨盤より上方の高さ項目への影響は計測者間誤差の範囲内である,2)上肢が外転すると肩峰が上内側に移動し,肩峰点を定義にふくむすべての寸法が,大きな影響を受ける,3)項目によっては,適切な計測姿勢を採用することによって,伝統的な方法と同等な値を得ることができるが,別物として扱うか,正立位での寸法に換算するしか方法がない項目もある。
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