Anthropological Science (Japanese Series)
Online ISSN : 1348-8813
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114 巻, 1 号
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追悼文
総説
  • ―コラーゲンの同位体分析を中心に―
    米田 穣
    2006 年 114 巻 1 号 p. 5-15
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    古人骨の化学分析に基づいた食性復元は1970年代から盛んになり,今日では数多くの応用研究が行われている。しかし,その方法論には,いくつかの解決せねばならない問題がある。例えば,生体内におけるコラーゲンの同位体比の変動や,生態系全体に影響を及ぼす植物の炭素・窒素同位体比の変動などである。また,コラーゲンやアパタイトの同位体比における続成作用についても検討が必要だ。これらの問題を中心に最近の研究を紹介し,古人骨の化学分析に基づく先史人類学の現状と展望を議論する。
原著論文
  • 佐伯 史子
    2006 年 114 巻 1 号 p. 17-33
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    縄文人の身長および身長と下肢長のプロポーションを明らかにすることを目的として,男女各10体の交連骨格を復元し,解剖学的方法(anatomical method)を用いて身長と比下肢長を求めた。現代のアジア集団,オーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団の生体計測値と比較した結果,縄文人の身長は男女とも現代のオーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団よりも低く,東アジア集団に近い値を示した。縄文人の比下肢長もオーストラリア先住民,ヨーロッパ集団,アフリカ集団に比べて小さかったが,東アジア集団の中ではやや大きく,特にアイヌと近い値を示した。縄文人の比下肢長が東アジア集団の中では比較的高い値であったことに鑑みると,縄文人と典型的なモンゴロイドとは異なるプロポーションを有する集団との関係を想定する必要も考えられた。
  • 静島 昭夫, 松野 昌展, 金澤 英作
    2006 年 114 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    本研究は頭蓋のX線CT(Computed Tomography)画像から上顎洞の形態やサイズを計測し,分析を行なったものである。近代日本人女性乾燥頭蓋42体84側(平均年齢38.9歳)を資料として,CT装置による撮影を行ない,得られた画像から画像解析ソフトによる上顎洞の前後径,高径,幅径,体積の計測を行ない,本研究と同様の機器・手法で行われた同時代の日本人男性乾燥頭蓋に関する計測結果(野木・金澤,2001; 野木,2002)との比較を行なったところ,前後径,高径,体積の各項目において,男性の上顎洞よりも女性の上顎洞のほうがサイズは小さかった。主成分分析を行ったところ,上顎洞の大きさの変異は第1主成分のサイズファクターで説明されることがわかった。頭蓋の直接計測値との相関については,体積が顔長,頭蓋最大幅,上顔高との正の有意な相関があり,前後径と頭蓋最大長,高径と顔長に有意の相関がみられた。上顎洞底部の形態を大きく3つのタイプ,「ラウンド型」「フラット型」「イレギュラー型」に分類したところ,ラウンド型は他のタイプと比較して全体の体積が小さく,イレギュラー型は大きかった。年齢や歯の残存状態と上顎洞のサイズとの関係をみていくと,20歳代,完全歯列の上顎洞はサイズが最大で,50歳以上,無歯顎へと移行していくにしたがってサイズは減少していった。
  • 河内 まき子, 持丸 正明
    2006 年 114 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    日本人の顔面平坦度が20世紀において変化したかどうかを明らかにするため,生年が約80年異なる男性二群(1894年群,1974年群)の顔面石膏模型を比較した。石膏採取時の年齢は大差ないが(平均年齢29.5歳,26.1歳),1894年群はデスマスク(N = 52),1974年群は座位で採取したライフマスク(N = 56)である。石膏模型上に11の計測点を定義し,それらの3次元座標値をデジタイザで取得し,顔面平坦度にかかわる8項目および4示数を算出した。両群の差をt-検定で検定した。1894年群のうち11体については,頭骨についても10の計測点座標値を取得し,6項目および3示数を算出した。頭骨からの対応する項目との間に有意な相関が系統的に認められた石膏からの項目は,眼窩内側間幅(mf間幅),鼻根―眼窩内側深さ(セリオン―mf深さ),鼻根―眼窩内側扁平示数(セリオン―mf扁平示数)だけであった。鼻根から眼窩内側,眼窩外側,眼裂外側までの深さと扁平示数に有意な群間差が認められ,いずれにおいても1974年群の方が深さが大きく,扁平示数が大きい,すなわち扁平傾向が小さかった。骨格と関連が認められた鼻根―眼窩内側深さと鼻根―眼窩内側扁平示数について,二群の差の原因として計測誤差,栄養状態の違いによる軟部の厚みの差の効果,石膏採取時の姿勢の違いについて検討した。これらだけでは群間差を説明できないことから,過去80年間に鼻根部形態は変化し,立体的になったと考えられる。
シンポジウム特集記事
  • 金澤 英作, 近藤 信太郎
    2006 年 114 巻 1 号 p. 55
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
  • ―歯の発生・変異・進化と分子メカニズムからの考察―
    田畑 純, 近藤 信太郎
    2006 年 114 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    発生過程の歯を歯胚(しはい)といい,将来の歯列ができる場所に歯の数だけ現れる。そして,開始期,蕾状期,帽状期,鐘状期初期,鐘状期後期と呼ばれる発生段階を経て,単純で小さかった歯胚が,より複雑で大きな歯となっていく。硬組織が形成されるのは鐘状期後期であるが,歯冠の形態そのものは鐘状期初期までにできあがるので,歯の形の変化などは全て開始期から鐘状期初期までに生じた何らかの変化が原因と考えられる。歯の変異には,歯質,歯の概形(=外形),歯の大きさ,歯の数,歯の表面の凹凸の5つに大別して整理できるが,このうち,歯の概形,大きさ,数については帽状期までに決まり,歯の表面の凹凸については鐘状期初期に決まることが考えられた。また,こうした形態的な特徴を支配していると思われる分子の候補として,HGFとBMP4が挙げられた。歯の表面の凹凸については,さまざまな構成要素があるが,咬頭形成に関しては,咬頭頂の位置が決まることと,咬頭間の溝の役割が重要であり,前者には二次エナメル結節が,後者にはHGFなどの細胞増殖因子の働きが重要であることが考えられた。
  • 近藤 信太郎, 金澤 英作, 中山 光子
    2006 年 114 巻 1 号 p. 63-73
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/06/23
    ジャーナル フリー
    ヒトの上顎大臼歯と第二乳臼歯に見られるカラベリー結節は最もよく知られた歯冠形質のひとつである。この形質に関しては様々な観点から多数の研究が行われてきた。本稿では最近の研究を紹介するとともに,この形質が歯の人類学に与えた多くの課題を3つのキーワード「分布」,「遺伝」,「系統と発生」にしたがって検証した。「分布」の項では形質の基準,集団間の違い,ヨーロッパ人にカラベリー結節が多く見られる理由を検討した。「遺伝」の項ではカラベリー結節の遺伝,左右側の非対称性,性染色体とカラベリー結節,性差について考察した。「系統と発生」の項ではカラベリー結節の系統発生と個体発生,カラベリー結節は大きい歯にみられるのか,に関して検討した。歯の内部構造の研究方法の開発や分子生物学的な研究によりカラベリー結節は多方面からより詳細に研究され,未解決の課題が解明されることであろう。
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