Anthropological Science (Japanese Series)
Online ISSN : 1348-8813
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ISSN-L : 1344-3992
114 巻, 2 号
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原著論文
  • 芦澤 玖美, 加藤 純代, 熊倉 千代子, 楠本 彩乃, 河原 雅典, 川田 順造, 佐藤 陽彦
    2006 年 114 巻 2 号 p. 87-100
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/15
    ジャーナル フリー
    子どもから老人に至るまで,一般日本人のソマトタイプの研究はほとんど行われていない。さらにまた生業,生活環境を考慮したソマトタイプの研究は内外を問わず全く行われていない。本研究は長年一定の職業に就いてきた高齢者が,どのような体形特徴を持つかを知るために行われた。対象は日本の伝統的な生業である農業,漁業に従事する集団と,多様な職業が混在する大都会の集団で,被験者の年齢は50代から90代である。農村被験者男51名,女42名,漁村被験者男53名,女48名,東京都心の被験者男55名,女66名の身体測定を行い,Heath-Carter法によりソマトスコアを算出した。その結果,身体サイズは男女とも農村と漁村の間に差はないが,都心の被験者は体が大きいことが分かった。これには生業に伴うエネルギー消費の違い,食習慣の違いの他に,通婚圏の広さの違いも重要な要因になっていることが示唆された。また,ソマトタイプには地域差ないし生業による差が認められた。都心の男女には内胚葉型が多く,農・漁村では中胚葉型が多かった。特に漁村の女性では中胚葉要素が強く,そのためソマトタイプの男女差は漁村で小さいことが分かった。
  • 瀧川 渉
    2006 年 114 巻 2 号 p. 101-129
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/15
    ジャーナル フリー
    縄文人の身体形質に見られる地域差に関しては,頭蓋や歯の計測的特徴や形態小変異,推定身長に基づく研究が行われてきたが,これらの先行研究から,縄文人の形質の地域差は現代日本人との時代差よりも小さく,全国的にほぼ均質であると認識されてきた。今回,四肢骨の計測的特徴を中心に,北海道から九州までの6地域について,縄文人と現代日本人の地域間変異を比較した。単変量解析では,最大長において縄文人の方が現代日本人よりも地理的な変異幅が大きいこと,骨幹断面示数において縄文人の大半の項目に有意な地域差が見られるが現代日本人にはそれが全く認められないことが判明した。また,両集団の各地域間で四肢骨計測値を基にマハラノビスの距離を求めると,縄文人の地域間距離は現代日本人のそれよりも大きく,二次元展開図でも縄文人の分布領域の方が広くなった。頭蓋計測値で同様の分析を実施したところ,男性では縄文人と現代日本人の平均距離は同程度だが,女性では縄文人の地域間変異の方が大きくなった。この様相は四肢骨と頭蓋の形態を形成する各々の背景の相異を示唆しており,他の解剖学的特徴や遺伝的多型からも縄文人の地域差を検討する必要がある。
  • 白波瀬 亜由実, 鈴木 隆雄, 馬場 悠男
    2006 年 114 巻 2 号 p. 131-137
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/15
    ジャーナル フリー
    神奈川県藤沢市用田に所在する用田南原遺跡において,近世の土坑墓から小人症(侏儒)を示す4才前後の幼児人骨が出土した。本人骨は,保存状態はやや不良であるが,全身各部に渡って保存されているため,ある程度正確な観察と診断が可能であった。本幼児の四肢骨は著しく短く,長骨における軟骨形成の異常による長軸成長障害があったことは明らかである。椎骨は全体的に小さく,歯突起の低形成や腰椎の楔状椎化も認められた。顔面頭蓋には,保存されている部分に関する限り変形が見られなかった。このような形態的特徴や死亡年齢から判断すると,本人骨の症状は軟骨無形成症よりもむしろ先天性脊椎骨端異形成症に該当する可能性が高い。先天性脊椎骨端異形成症は比較的稀な疾患であり,古人骨においては世界でも1例しか報告されていない。日本においては,これまでに古人骨の小人症の報告例はなく,本人骨は初の報告例であるとともに,軟骨無形成症との鑑別などの点において,極めて興味深い古病理学的症例である。
  • 長岡 朋人, 静島 昭夫, 澤田 純明, 平田 和明
    2006 年 114 巻 2 号 p. 139-150
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/15
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,近年資料の蓄積が著しい関東地方の中世人頭蓋の計測を行い,そのデータと文献から収集した頭蓋計測値に基づき関東地方の中世人頭蓋の地域内変異を明らかにすることが第一点である。第二点目は,関東地方と北部九州・山口地方の中世人との比較から中世人頭蓋の地域間変異を考察することである。今回,計測した資料は,鎌倉~室町時代前期の鎌倉市由比ヶ浜南遺跡(単体埋葬墓),中世集団墓地遺跡(No. 372),極楽寺遺跡,室町時代後期の東京都鍛冶橋遺跡,丸の内遺跡から出土した成人男性頭蓋である。文献データとしては,鎌倉~室町時代前期の鎌倉市の由比ヶ浜南遺跡(集積埋葬墓),材木座遺跡,室町時代の北部九州・山口地方の吉母浜遺跡から出土した成人男性頭蓋の計測値を引用した。関東地方の中世人頭蓋は長頭・低顔・歯槽性突顎の傾向が強く,その特徴は他の時代には認められないほど顕著であることが分かった。特に,極楽寺遺跡,材木座遺跡出土の中世人でその特徴が著しかった。関東地方の中世人の頭蓋形態は時期とともに変化し,中世の後期人ほど江戸時代人や現代人との類似性を示した。また,北部九州・山口地方の中世人頭蓋も長頭・低顔・歯槽性突顎を特徴とするが,関東地方のいずれの中世人に比べても現代人頭蓋に類似することが分かった。
資料研究報告
  • 河内 まき子, 近藤 恵, 石黒 三惠, 渡邉 幸奈, 松浦 秀治
    2006 年 114 巻 2 号 p. 151-159
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/15
    ジャーナル フリー
    顔面サイズの世代差を調べるために,青年女性65名(平均年齢22.3歳)とその母親55名(平均年齢51.1歳),青年男性35名(平均年齢25.0歳)とその父親29名(平均年齢56.5歳)について6項目の頭顔部寸法を計測した。男女の下顎角幅と女性の頭長と申告身長に5%水準で有意な世代差が認められた。ステップワイズ判別分析の結果,世代の判別において最も重要な項目は下顎角幅であった。子供世代の方が下顎角幅が小さく,顔サイズが小さい。世代差の原因が骨あるいは軟部組織の時代変化,下顎骨の成長,軟部組織の加齢による増加のいずれによるかは,今回のデータからは不明である。
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