Anthropological Science (Japanese Series)
Online ISSN : 1348-8813
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117 巻, 2 号
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原著論文
  • 蔵元 秀一, 譜久嶺 忠彦, 久高 将臣, 西銘 章, 石田 肇
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 117 巻 2 号 p. 55-63
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル フリー
    久米島近世の成人距骨193個体343側,脛骨151個体227側を用い,距骨蹲踞面形状を5型{ストレート型,内側関節面前方延長型,内側蹲踞面型(複合1),内側蹲踞面型+外側滑車面前方延長型(複合2),内側関節面前方延長型+外側滑車面前方延長型(複合3)}に,脛骨は外側蹲踞面有りと無しの2型に分類した。結果,1)男性は女性より,複合2と複合3の出現頻度が高い傾向にあり,複合2の右側で男性の頻度が有意に高い。2)左右差では,女性の複合1で右側の頻度が有意に高い。3)脛骨外側蹲踞面の出現頻度も男性が女性に比べて高い。4)脛骨外側蹲踞面が存在する時は,距骨に外側滑車面前方延長型を伴うことが多い。距骨および脛骨蹲踞面出現頻度から,久米島近世人骨では男性の方が女性よりも蹲踞姿勢を習慣的にとっていると考えられた。距骨蹲踞面形成を運動学的に解釈すると,内側蹲踞面は足関節が伸展(以下,背屈)することにより,距骨内側部と脛骨下端部に靭帯や関節包などの軟部組織がはさまれて形成される。足関節がさらに背屈すると,距骨外側滑車面前方部と脛骨下端前縁部外側が衝突し,距骨の外側蹲踞面が形成されると思われる。本土の縄文時代,江戸時代および近代人骨よりも,距骨蹲踞面と脛骨外側蹲踞面の出現頻度が低いことから,久米島近世人骨においては習慣的な蹲踞姿勢が少なかった可能性を示した。
  • 川久保 善智, 澤田 純明, 百々 幸雄
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 117 巻 2 号 p. 65-87
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル フリー
    南東北(宮城・福島・山形)由来の古墳時代人・古代人と北東北(青森・岩手・秋田)由来の江戸時代人の頭蓋について,計測的分析と形態小変異の分析を行い,これら東北地方の古人骨に,縄文人やアイヌの形態的特徴が,どの程度遺残しているかを調べた。比較資料として,東日本縄文人,北海道アイヌ,関東の古墳時代人と江戸時代人,それに北部九州の古墳時代人と江戸時代人の頭蓋を用いた。計測的分析では,顔面平坦度計測を含めた18項目の頭蓋計測値を用い,マハラノビスの距離(D2)にもとづいた分析と線形判別分析を試みた。頭蓋形態小変異については,観察者間誤差が少なく,日本列島集団の類別に有効であることが知られている6項目に絞って,スミスの距離(MMD)にもとづく分析を行った。D2でもMMDでも,縄文人に最も近いのは北海道アイヌであったが,東北地方の古墳時代人(計測的分析では古代人も含む)がこれに次いでおり,古墳時代でも江戸時代でも,九州→関東→東北→北海道アイヌまたは東日本縄文人という,明瞭な地理的勾配が観察された。同様の地理的勾配は,判別分析においても確かめられた。このような地理的勾配から判断すると,今回研究の対象にすることができなかった北東北の古墳時代人は,南東北の古墳時代人よりも,さらに縄文・アイヌ群に近接するであろうと推測された。もし彼らが古代の文献に出てくる蝦夷(エミシ)に相当する人々であったとしても,東北地方の古代日本人(和人)と縄文・アイヌ集団の身体的特徴の違いは連続的であったと思われるので,古代蝦夷がアイヌであるか日本人であるかという“蝦夷の人種論争”は,あまり意味がある議論とは思われなかった。
  • 長岡 朋人, 嶋谷 和彦, 安部 みき子, 平田 和明, 熊倉 博雄
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 117 巻 2 号 p. 89-97
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル フリー
    古人骨の形態学的研究は,当時の人々の姿かたちを明らかにし,日本人の身体形質の時代的な移り変わりや地域間変異を理解する手がかりになる。特に,近畿地方における古人骨の形態学的特徴の解明は,日本人形成史の研究に不可欠である。それは,近畿地方が日本人の地域差研究の鍵を握るからである。例えば,現代日本人の生体計測値や頭蓋計測値において,近畿地方の人々は短頭で,比上肢長・比下肢長が小さく,日本列島の他地域の人々と異なる形態的特徴を持つ。しかし,近畿地方では古人骨資料の出土例や報告がきわめて少なく,近世やそれ以前における地域間変異を実証した研究は皆無に等しい。本研究の目的は,まず,大阪府堺市から出土した近世人頭蓋の計測を行い,近畿地方の近世人頭蓋の計測的特徴を明らかにすることと,次に,近世における頭蓋形態の地域間変異を検討することである。資料は,堺市の堺環濠都市遺跡から出土した32体,向泉寺跡遺跡から出土した2体の成人男性の頭蓋である。本研究の結果,堺近世人は関東地方や北部九州・山口地方の近世人よりも短頭傾向が強かった。また,顔面が狭く,頭蓋全体の高さが高い傾向があり,現代人的な特徴を示した。今回の結果から,近畿地方の近世人頭蓋は他地域とは異なる形態的特徴を持っていたと推測される。
  • 水嶋 崇一郎, 坂上 和弘
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 117 巻 2 号 p. 99-110
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル フリー
    本研究では,成人期近代日本人(明治・大正期没)の大腿骨を用いて,外形ならびに骨幹中央部の内部断面形状を計測し,特に骨幹部における外形拡大,髄腔の拡張,緻密骨中の空隙の増大,これら三点の加齢変化について年齢横断的調査を実施した。資料には男性77体(20~81歳),女性39体(22~74歳)の右大腿骨を使用した。内部断面計測に際しては高精細のマイクロCT装置を導入した。解析においてはサンプルを三つの年齢群(青壮年,20~49歳;熟年,50~64歳;老年,65歳以上)に区分し,これらの年齢群間で計測値の差の有意性を統計学的に検定した(二標本t検定,Mann-WhitneyのU検定)。その結果,男女に共通して,熟年・老年の骨体中央矢状径・骨体中央横径・外形断面積は青壮年と比較して有意差がなく,従って高齢化に伴う骨幹部外形の拡大パターンは本集団において認められなかった。男性の髄腔部断面積では熟年・老年と青壮年の間で有意差が見られなかった(ただし加齢に伴う緩やかな拡張パターンが認められた)。一方,女性の髄腔部断面積では,高齢な年齢群ほどより大きい傾向があり,20歳代中頃から40歳代までほぼ一定であったが50歳代以降から急激に拡張していくパターンが認められ,閉経に伴う女性ホルモンの分泌減少との関連性が窺がわれた。緻密骨中の空隙に関しては,男女とも高齢個体ほど空隙の断面積が大きい傾向があり,空隙化の著しい個体は特に30歳代中頃以降の女性において見受けられた。本研究では,骨幹内部の力学的脆弱化を補う外形拡大の機能適応は示唆されず,また,男性に比して女性の骨幹部は加齢に伴う弱体化の危険性が大きいことが改めて示された。
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