Anthropological Science (Japanese Series)
Online ISSN : 1348-8813
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ISSN-L : 1344-3992
122 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著論文
  • 山田 博之, 濱田 穣, 國松 豊
    2014 年 122 巻 2 号 p. 133-143
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/19
    [早期公開] 公開日: 2014/08/23
    ジャーナル フリー
    小型類人猿シロテテナガザル(Hylobates lar)について犬歯形態の詳細な記載と大きさの性的二型性を明らかにすることを目的に研究を行った。テナガザルの犬歯は従来いわれているように性的二型性が小さく,雌雄間で形態が非常によく似ている。歯冠頬側面の概形は上顎犬歯でサーベル形,下顎犬歯は不正四辺形を呈する。オスに較べてメスの形態特徴を挙げると,1)サイズが小さい,2)歯冠浮彫像の発達が弱く,全体に丸みを帯びている,3)下顎犬歯の近心shoulderの位置が歯冠高の約1/2にある,4)歯頚隆線がよく発達していることである。歯冠サイズによる犬歯の性差では,上・下顎の歯冠基底部のサイズや歯冠高でオスの方が有意に大きい。一方,下顎犬歯では歯冠近遠心径に対する歯頚部エナメル質の膨らみはメスの方が大きく,有意に強い性差を示す。歯冠の高径,とくに下顎犬歯の尖頭から近心shoulderまでの距離が最も強い性差を示す。犬歯の形態やサイズに性的二型がみられることはペア社会を構成するテナガザルでもある程度雌雄の違いが大きさや形にも存在することを示す。
資料研究報告
  • 竹中 正巳, 蔡 佩穎, 蔡 錫圭, 盧 國賢
    2014 年 122 巻 2 号 p. 145-155
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/19
    [早期公開] 公開日: 2014/09/17
    ジャーナル フリー
    台湾花蓮県萬榮郷馬遠村から出土したブヌン族の頭蓋(男性26例,女性16例)について,顔面平坦度を含む頭蓋計測を行った。周辺諸族近現代人頭蓋との比較から,ブヌン族頭蓋の特徴として,頭蓋長幅示数が中頭およびバジオン・ブレグマ高が低いことが上げられる。顔面頭蓋は比較的高く,前頭部が立体的である。頭蓋計測値9項目(脳頭蓋最大長,脳頭蓋最大幅,バジオン・ブレグマ高,頬骨弓幅,上顔高,眼窩幅,眼窩高,鼻幅,鼻高)から,ペンローズの形態距離を求めたところ,ブヌン族には同じ台湾原住民のパイワン族が最も類似性が強く,タイヤル族が続く。ヤミ族は類似性が弱い。
  • 安達 登, 梅津 和夫, 米田 穣, 鈴木 敏彦, 奈良 貴史
    2014 年 122 巻 2 号 p. 157-166
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/19
    [早期公開] 公開日: 2014/10/16
    ジャーナル フリー
    青森県尻労安部洞窟より出土した2本の遊離歯について,理化学分析に基づいた個人識別をおこなった。これら2本の歯は1つが下顎左第三あるいは第二大臼歯,もう1つが上顎右第二大臼歯と同定され,重複はなかった。これらの試料の炭素・窒素安定同位体比は非常に近似しており,同一人物に由来すると考えて矛盾しない結果であった。また,較正放射性炭素年代はそれぞれ4286–4080 calBP(68.2%)および4280–4080 calBP(68.2%)と測定され,同時代のものと考えて矛盾しなかった。ミトコンドアリアDNA(mtDNA)解析の結果,これらの試料は解析した範囲で塩基配列が一致し,ハプログループは北海道縄文時代人およびアムール川下流域の先住民・ウリチにみられるD4h2と判定された。mtDNA解析の成功を踏まえて,より個人識別能力の高い核DNAのShort Tandem Repeat(STR)解析をおこなったところ,解析した座位の全てで正確な判定が可能であり,その判定結果は完全に一致した。上記の分析結果から,この2本の大臼歯は同一人物に由来する可能性が極めて高いものと考えられた。本研究は,遺跡から解剖学的位置関係を保たずに出土した,相互に接合しない複数の縄文時代人骨試料が同一人物に由来することを,理化学分析によって証明した最初の事例である。
雑報
  • 西田 泰民
    2014 年 122 巻 2 号 p. 167-175
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/12/19
    ジャーナル フリー
    1924年に小金井良精によって行われた千葉市加曾利貝塚における発掘調査については同年八幡一郎が簡略な報告を人類誌上で行ったのみであった。その調査経緯と発掘後の整理について小金井の調査野帳と日記から再構成し,現存する東京大学総合研究博物館の遺物・写真資料と対比検討した。また,記録から現地に協力者がいて,宿舎を提供していたことや,地主との交渉のあり方,発掘費用など,これまで全く知られていなかった調査の全体像を知ることが出来た。明治・大正期は東京人類学会の遠足会に見られるような無計画な発掘が少なくなかったが,次第に分層発掘や出土地点を記録するために調査区を設定した上で発掘を行う方式が定着した。そのような過程を知る上でも重要な記録と考えられる。
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