大腿骨の計測値に基づいた古人骨の体量推定式として,骨頭垂直径による回帰式(FHD法)や骨幹近位部の矢状径と横径の積を用いた回帰式(FSTpr法)が考案されてきた。今回,日本人におけるこれらの推定式の妥当性を確認するため,関東近代日本人の解剖晒骨標本に基づいて検討を行った。FHD法とFSTpr法による既報の推定式を用いて体量を算出し,19世紀末以降の20代前半の平均体重データとの比較から,これらの方法の結果が日本人の実態にどれだけ近いのかを検証した。その結果,男女ともどの方法でも日内変動や季節間変動以上に当時の平均を上回る推定値が示され,特に男性のFHD法では誤差が著しいことが判明した。また推定身長を踏まえた体格指数(BMI)による評価では,どの方法でもBMIの平均が高く,過体重の個体の割合も近年の日本人の実態より明らかに高くなった。既報の推定式が日本人の骨格に適さない理由として,時期や年齢層による差が示唆される一方,基本データに使用されているヨーロッパ系を主体とした多くの集団のBMIが過去の日本人のそれよりも過大であったことが指摘される。日本人骨格のより妥当な体量推定には,日本人の生体計測データに基づいた推定式を作成することが求められる。
ヒトの四肢骨骨体は,個人が経験した活動レベルに応じて太く成長する性質があるため,これを利用して先史時代人の生業活動を類推することが可能である。縄文時代人の四肢骨の太さは,時代や遺跡立地環境によって変異することが知られているが,先行研究には,資料数の不足,遺跡間差や計測者間誤差が十分に検討されていないこと,骨体太さに対する骨サイズの影響をコントロールしていないことなどの難点があった。本研究では,沖縄から北海道にいたる列島各地の先史時代遺跡由来の1003個体分の上腕骨をサンプルとし(うち縄文時代のものは797個体),骨長の影響を除いた骨体太さについて,遺跡間差も考慮した時空変異の解析を行なった。分析の結果,早期以降に時代を追った上腕骨太さの増大が生じたこと,海浜部の遺跡は内陸平野の遺跡より上腕骨が太いこと,同一時期の海浜部遺跡の間でも太さが顕著に異なる場合があること,骨体太さの遺跡間変異パターンは男女で異なることなどがわかった。特に興味深い知見として,男性において,渥美半島の突端に位置する保美貝塚集団の上腕骨が際立って太いことがあげられる。その原因として,外海での漁労活動に加え,漕ぎ舟による活発な海上物資輸送が行なわれていた可能性を指摘した。
ドイツ発育研究会主催の第2回国際サマー・スクールが,ドイツのPotsdam-Gülpeで開催された(2018年7月2日~7日)。このサマー・スクールに参加したので簡単な報告をしたい。
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