日本のコモリグモの中には原記載のみによる同定が困難なため, 今日まで採集記録のないものや同定に問題のあるものなどがある。
今回, 東ベルリンのフンボルト大学にある自然科学博物館の MORITZ 博士のご好意により, 日本のコモリグモでタイプ標本とされているもののうち, 次の4種を検討する機会を得た。
1.
Lycosa lacernata KARSCH, 1879
2.
Lycosa ipsa KARSCH, 1879
3.
Pardosa laura KARSCH, 1879
4.
Pardosa astrigera L. KOCH, 1878
Lycosa lacernata は次の点から,
Trochosa ruricola DEGEER と完全に一致する。しかし
T.
ruricola のタイプ標本は見ることが出来なかったので, 原記載およびその後の論文との比較によった。
1. 前中眼は前側眼より大きい。2. 後牙提に2歯をもつ。3. 第1脚腿節, 内側面先端に2本の刺をもつ (図1)。4. 触肢〓節の構造および〓節先端に1本の爪をもつ (図2)。したがって,
L.
lacernata は
T. ruricola のシノニムになる。
Lycosa ipsa については逆に下記の点より, 現在使用されている
Tricca japonica SIMON が
L. ipsa のシノニムになることがわかった。しかし
T. japonica のタイプ標本は今回検することが出来なかったので, 原記載および本種と同定された標本との比較によった。
1. 前眼列は第2眼列より長い。前中眼の長さは前側眼の長さに等しい。前列眼は後曲 (図3)。2. 第1, 2脚〓節および蹠節腹面に数本の太いが短かい刺をもつ (図5, 6)。3. 雌外部生殖器(図7)。
現在まで
Tricca japonica の名はしばしば使われて来たが,
Lycosa ipsa の名はほとんど使用されなかった。しかし年代の先行から,
L. ipsa を用いざるをえない。上記の1および2の特徴から, 本種の属は明らかに
Tricca の属のものであり, 従って本種の学名は
Tricca ipsa (KARSCH) となる。
Pardosa laura KARSCH はわれわれが今まで同定して来たものに一致する。
Pardosa astrigera と
P. T-insignita については, 同種ではないかという疑問があったが, 今回
P. astrigera のタイプ標本を検討し, その結果両種は明らかに別種であることを確認した。両種の区別点については Atypus (71) で述べた通りである。また日本で
P. T-insignita と同定されて来たものは,
P. astrigera とすべきものである。
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