シノビグモは, 原記載以来, 暫定的な属のもとに
Cispius orientalis YAGINUMA, 1967として長らく用いられてきた. 本属への編入処置は不満足であったので, 外国の学者とも論議したが適当な属を見出せなかった. その後多くの材料を検し, また諸文献に当たって検討した結果, シノビグモを
Cispius として扱うのは妥当でないことを認めた. 新属とすべきだと感じたが, 1種で新属をたてることをためらいつつ今日に及んだ. しかし本種は, 生態的にも分類学的にも重要種であるため, 正確な分類上の位置の決定が要求されてきたので, この際, 単基準であり, また筆者の持論には反するが, 新属
Shinobius をたてることにした. 産卵行動や卵のう保持行動からはコモリグモ科 Lycosidae を思わせるが, 形態的にはキシダグモ科 Pisauridae である. また, 本種はRhoicininaeの諸属に近似する点が多い. Rhoicininaeは今日まで種々の科 (タナグモ科 Agelenidae, キシダグモ科 Pisauridae, コモリグモ科 Lycosidae,ガケジグモ科 Amaurobiidae) に置かれ, 今なおこの問題は解決していない. 今回は EXLINE (1950, 1960) の意見に賛同し, キシダグモ科 Pisauridae として扱った. Rhoicinae の正しい位置づけについては今後, genitalia の分析, 核学的研究, 発生学的研究, 電顕による形態学的研究などの総合により明らかにされることを期待する.
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