公的分析は、テナパノルの製造販売業者(協和キリン株式会社)より提出された、透析中の慢性腎臓病患者における高リン血症におけるテナパノルの追加的有用性及び経済評価に関する報告についてレビューを行った。本報告書では、その結果と公的分析が実施した再分析の内容を要約している。
追加的有用性の評価に際して、製造販売業者は、(a)未治療又は、治療されており既存治療でコントロール可能な透析中の高リン血症患者集団において服薬負担(錠数)をアウトカムとし、(b) 治療されており既存治療でコントロール不能な透析中の高リン血症患者集団において血清リン濃度低下効果をアウトカムとした。
集団(a)において、製造販売業者は、テナパノルの7791-007試験を参照すると、鉄含有リン吸着薬のうち比較対照技術として選択されたクエン酸第二鉄に対してテナパノルは服薬負担を軽減すると考えられたため、追加的有用性を有すると説明した。公的分析は、服薬負担はプロセス指標であり、臨床的な有効性、安全性、健康関連QOL(quality of life)の観点のうち、評価対象技術の特性を評価する上で、適切なものとは言えないと判断した。そのため製造販売業者に対し、血清リン濃度低下効果をアウトカムとしたときの追加的有用性評価に関する照会を行った。これに対し製造販売業者は、クエン酸第二鉄、スクロオキシ水酸化鉄のそれぞれでテナパノルとのマッチング調整された間接比較(MAIC)を行い、いずれも統計学的有意な差は確認されなかったがテナパノルで優れる傾向が示された。公的分析は、製造販売業者がMAICに用いたテナパノルの臨床試験には比較可能性の点で課題があることを指摘し、クエン酸第二鉄やスクロオキシ水酸化鉄の臨床試験と比較する上でより適切と考えられるテナパノルの臨床試験を特定した。それらの結果を統計学的な調整をせずに比較したところ、少なくともテナパノルが優れる傾向は認められなかった。以上から、公的分析は製造販売業者のMAICとあわせ、集団(a)においてテナパノルの鉄含有リン吸着薬に対する追加的有用性は示されていないと判断した。したがって、費用最小化分析を実施することが妥当であり、公的分析は独自に費用最小化分析を実施した。
集団(b)において、製造販売業者は、テナパノルの7791-005試験を参照することで、テナパノルを既存のリン吸着薬に追加した場合の追加的有用性評価を行った。当該試験では、プラセボに比較して、テナパノルは統計学的有意に血清リン濃度を低下させることが示されていた(血清リン濃度の変化量の差: -1.76 mg/dL[95%信頼区間: -2.16 to -1.37])。公的分析はこの評価内容について受け入れ、集団(b)において、テナパノルを既存のリン吸着薬に追加することの追加的有用性は示されていると判断した。したがって、費用効果分析を実施することが妥当であり、公的分析は製造販売業者から提出された分析内容について精査した。
製造販売業者は、費用対効果評価においてshort-term phaseとlong-term phaseの2段階からなる分析モデルを用いた。short-term phaseでは決定樹モデルが適用され、血清リン濃度の水準が4段階に分けて決定された。long-term phaseでは、生存、心血管疾患の罹患、死亡の3つの健康状態から構成されるマルコフモデルを用いており、その推移確率はshort-term phaseで決定された血清リン濃度に応じて変動した。各集団で質調整生存年(QALY)をアウトカムとする費用効果分析が実施された。
公的分析は、追加的有用性に関する議論の通り、集団(a)について費用最小化分析を実施した。また服薬負担の不確実性を考慮し、服用錠数による健康関連QOL値の変動を対象とした費用効果分析を感度分析として行った。これらの分析では、比較対照をスクロオキシ水酸化鉄とした。集団(a)の基本分析では、スクロオキシ水酸化鉄と比較してテナパノルは144円の増分費用が生じた。感度分析によっても増分費用効果比(ICER)が1,000万円/QALY以上となる蓋然性が高いことが確認された。集団(b)の分析について、公的分析は製造販売業者の分析を妥当と判断し受け入れた。その結果、既存のリン吸着薬にテナパノルを追加することのICERは、3,414,644円/QALYであった。
以上より、本邦における公的医療の立場において、比較対照技術に対するテナパノルのICERは、集団(a)では「効果が同等(あるいは劣り)、かつ費用が増加」の区間に所属し、集団(b)では「200万円/QALY以上500万円/QALY未満」の区間に所属する可能性が高いことを示唆した。
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