吃音者の言語受容に関する聴覚中枢機構を検討することを目的として, 成人吃音者57人を対象に気導, 骨導聴力検査, key tappingを指標とした大脳半球優位性テスト (角田 (1966, 1968) 及び質問紙による調査を行なった。その結果, 以下の知見を得た。
I) 対象吃音者の52.6%に15dB以上の無自覚性の聴力損失が認められた。そのうち感音性のものが33.3%, 伝音性が19.3%であり, 周波数別には4kHz, 8kHzの聴力損失が全体の61.1%を占めた。被験者の平均年令は20.6才であり年令による聴力変化は除外できる。
II) 大脳半球優位性テストの結果では, 対象の正常者には言語音は右耳が, 非言語音は左耳がそれぞれ優位の者 (normal群) が, 83.9%あったのに対して吃音者には38.6%しかなく, その逆, すなわち言語音には左耳が, 非言語音には右耳が優位であった者 (contra群29.6%), 特に失語症など一側の側頭葉障害に特徴的にみられる言語音, 非言語音ともに右耳優位の者 (right群20.5%) ともに左耳優位のもの (left群4.5%) などが多かった。また, この結果は利手とは無関係であった。
III) 大脳半球優位性テストで異なるパターンを示した各グループ間には, 本人の出生順位, 近親の吃音者の数, 言語症状などについての差は認められなかった。自己の吃音に気づいた時期は各グループとも同一であったが, 話すことに不安を感ずるようになった時期の最頻時期は, right, left, no diffを合わせたabnormal群がnormal群, contra群より早期だった。言語症状及び話すときの身体症状は, contra群とabnormal群に特に類似が認められた。
IV) 以上の結果から, 吃音者の中に, 吃音の成因を異にするグループがあり, その一部に脳の微損傷などによる皮質機能の異常例が含まれることが示唆され, 優位半球と聴覚交叉線維の機能的結合の確立と, 言語の発達の関係が吃音の一要因として考察された。
本文の要旨は, 第14回 日本音声言語医学会で発表した。
論文作成に当り, 東京大学疫学教室 (山本俊一教授) の皆様にお世話になりました。また, 東京正生学院 (東京・新宿) の入院生の方々に被験者として協力して頂きました。
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