環境騒音のアナロジーとして, 遮蔽音存在下での心理的, 生理的な周波数選択性が何によって, どのようにして, どの部位で知覚されるかについて, 最近の研究成果の一部から概観した。 周波数選択性を左右する要因には次のような現象がある。
1) off-frequency listeningはconventinal PTCと遮蔽音存在下のFTCによる周波数選択性を尖鋭化する。
2) 結合音, ことに2f
1-f
2はPTCとFTCの低域勾配を急峻化する効果があるが, この効果は結合音の特性からみて, off-frequency listeningによる効果よりも小さい。
3) オリーブ蝸牛束は高い感度, 鋭い同調曲線, 引いては周波数選択性を制御しているので, 周波数選択性は上オリーブ核より高位中枢で成立することが示唆される。
4) 2音抑制は, 一次ニューロンでのFTCの高域勾配内にはほとんど入っていない。 また, 低域勾配の先端部にも入っていない。 従って, 抑制は末梢聴覚系では, 周波数選択性の急峻化に関与していない。 蝸牛神経核では, 特徴周波数を含む広い抑制野を持つType IVユニットがあるが, 大部分は一次ニューロンと同じような反応を持つType Iユニットであることから, 周波数選択性の急峻化に十分な効果を発揮していない。 下丘ニューロンの抑制効果の異なる広い抑制野を伴う興奮性同調曲線は, PTCとよく似ていることから周波数選択性が下丘で成立する可能性が高い。
5) 周波数選択性と臨界帯域符号化の直接的実験は, 同じ動物で各中継核ニューロンと行動反応とで, 同じ測定値を導くことにある。 一次ニューロンでのフィルタの帯域幅は, 行動反応で求めたものよりも狭い。 そこで, 周波数選択性は蝸牛神経のレベルには存在しない。 蝸牛神経腹側核ニューロンからの臨界比の帯域幅は一次ニューロンでの帯域幅より狭い。 これは蝸牛神経腹側核では周波数選択性が蝸牛神経より急峻化することを示す。 しかし, 帯域幅は強度に依存するので, 周波数選択性は蝸牛神経核レベルでは成立しない。 下丘ニューロンで測定された周波数選択性は, 行動反応による臨界帯域フィルタの帯域幅と非常によく似た周波数依存性を示し, また, 帯域幅は強度に依存しない。 そこで, 周波数選択性と臨界帯域は中脳レベルで単一下丘ニューロンと行動 (心理的) 反応でともに成立する。 これは単一下丘ニューロンヘ投射される10以上の線維による機能的回路網で情報処理が行われることによる。
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