AUDIOLOGY JAPAN
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56 巻, 6 号
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総説
  • 「障害者総合支援法に該当しない難聴児を取り巻く諸問題と取り組み」
    杉内 智子
    2013 年 56 巻 6 号 p. 725-734
    発行日: 2013/12/28
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    要旨: 本稿では障害者総合支援法に該当しない難聴児, すなわち軽度・中等度難聴児の現況について概説する。
    軽度・中等度難聴児は音や声にある程度反応があり, ゆっくりでも言語発達がみられるため, 発見や療育・補聴が遅れがちで, 言語力や情緒面などに問題が指摘されてきた。しかし, 近年の新生児聴覚スクリーニングの普及に伴い, 乳児期早期に発見され順調な成育を示す例も報告されるようになっている。その一方で, 新生児聴覚スクリーニング未受検児や遅発性難聴児・重複障害児などもまだ多く混在しており, 乳幼児健康診査のさらなる充実と症例の状況に応じた対応が望まれている。また早期診断によって補聴器装用の早期化とその活用が高まっているが, ほとんどの軽度・中等度難聴児には支援法による経済的な援助がないため, 若き両親にとって補聴器購入が負担ともなっている。この状況に対する各方面からの働きかけによって, 2007年ころから徐々に, 都道府県単位あるいは市区町村での軽度・中等度難聴児補聴器助成事業創設が広まりをみせている。今後はこの事業のさらなる充実とともに, 軽度・中等度難聴児についても療育面でのより積極的な取り組みが期待される。
原著
  • 中津 愛子, 橋本 誠, 菅原 一真, 山下 兼司, 池田 卓生, 下郡 博明, 山下 裕司
    2013 年 56 巻 6 号 p. 735-742
    発行日: 2013/12/28
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    要旨: 難聴児の療育と支援の問題点を調査し, 療育を充実させるための今後の課題を検討した。
    対象は2011年4月から2012年4月までに山口大学医学部附属病院耳鼻咽喉科を療育, または, 難聴の経過観察のために受診した難聴児のうち, 聴取能と言語発達の評価が可能であった20名とした。
    対象児の療育上の問題点には, 難聴発見の遅れ, 受診や補聴器装用に関わる保護者の対応の問題, 療育経過中の難聴の進行があった。また, WISC-IV知能診断検査では, 言語理解指標の合成得点が80未満の児が5名, 言語理解指標の合成得点は80以上だが知覚推理指標の合成得点に比べると有意に低い児が5名認められた。これらの10名は学齢期の児であり, 言語発達の遅れは学校生活全般に支障をきたすと考えられるため, 就学後も定期的に言語指導を行うことが重要であると考えられる。
  • 山本 輪子, 諸頭 三郎, 山崎 博司, 山崎 朋子, 藤原 敬三, 篠原 尚吾, 十名 理紗, 内藤 泰
    2013 年 56 巻 6 号 p. 743-750
    発行日: 2013/12/28
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    要旨: 当科で人工内耳手術を行った先天性サイトメガロウィルス (CMV) 感染児8例の術後の装用閾値, 語音聴取, 言語発達, 発話明瞭度, 使用コミュニケーションモードを評価し, これらの小児における人工内耳の有用性について検討した。8例中4例で精神遅滞の合併を認め, 1例が広汎性発達障害 (PDD), 1例がPDD疑いと診断された。重複障害のない2例では全ての検査項目で良好な成績を示し, 日常のコミュニケーションには音声言語が使用されていた。精神遅滞を合併した4例では術後装用閾値, 語音聴取成績は良好であり, 言語発達は正常には及ばないものの年齢とともに緩やかに改善した。この4例中3例でトータルコミュニケーションが使用されていた。PDD合併例とPDD疑い例では術後装用閾値は改善したが, その他の成績は不良で, コミュニケーションには手話が使用された。先天性CMV感染児では精神遅滞やPDDなどを重複する例があることを留意し, ハビリテーションを実施する必要がある。
  • ―茨城県メディカルセンター近郊のデータから―
    岡田 慎一, 新井 峻, 髙橋 邦明
    2013 年 56 巻 6 号 p. 751-756
    発行日: 2013/12/28
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    要旨: 当センター近郊の7市町 (センターの位置する水戸市および隣接する市町) を対象地域として, 乳幼児期に補聴器装用指導を実施した難聴児について調査した。平成12年から19年の間の出生数46,914人に対し, 同期間内出生の難聴児は78人であり, 出生数に対する難聴児の割合は0.166%であった。そのうちの約75%が感音難聴であった。難聴の程度は軽・中等度難聴児が41例 (52.6%), 高度難聴児が37例 (47.4%) であり, 出生数に対する割合はそれぞれ0.087%, 0.079%であった。難聴のリスク因子がない例が46例 (59.0%), リスク因子がある例が32例 (41.0%) で, リスク因子がない例が比較的多くを占め, 出生数に対する割合は0.098%であった。
    新生児聴覚スクリーニングを受検していた例のうち,passであった例が約20%存在した。
  • 鶴岡 弘美, 石川 和代, 臼井 智子, 増田 佐和子
    2013 年 56 巻 6 号 p. 757-762
    発行日: 2013/12/28
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    要旨: 当科で聴覚管理を行っている聴覚障害児のうち, 通常学校から聾学校へ転校した12名 (男児3名, 女児9名) について検討した。難聴の診断年齢は平均5歳4ヵ月と高く, 6名は就学後に発見されていた。何らかの発達障害や知的障害は6名, 境界例まで含めると10名に認められた。経過中9名で難聴の進行を認め, 6名は平均聴力レベルが70dB以上を超えた時期に転校していた。通常学校で何らかの支援を受けていたのは8名であった。転校の理由は10名が不登校, 学業不振, 不適応で, ほとんどが医療機関または県の児童相談センターの助言で転校に至っていた。転校後のアンケート調査からは, 聾学校で良好な学習環境や友人関係が得られていることが示唆された。今後は, 難聴の早期発見, 合併障害や聴力低下への対応とともに, 通常学校が難聴児の抱える問題に早期に気付き対応できるように啓発し, 支援体制を整えることが必要と考える。
  • 中瀬 浩一, 大沼 直紀
    2013 年 56 巻 6 号 p. 763-768
    発行日: 2013/12/28
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    要旨: 聴能マトリクステストの教育実践上の活用の有用性を聴覚障害幼児50名147回の検査結果から検討した。その結果, 補聴閾値と本テストの素点の間には相関は認められなかった。67式20単語了解度検査と本テストの素点にも相関は認められなかったが, 1語ずつ呈示して実施する単語了解度検査から複数語の連続である文聴取検査への移行は困難を伴う場合もあることが確認できた。また, 語音聴取評価検査 「CI2004 (試案) 」 の幼児用オープンセット文検査と本テストの素点には比較的高い相関が認められた。本テストが34/40以下であれば, 素点が高ければ語音聴取評価検査 「CI2004 (試案) 」 の幼児用オープンセット文検査のキーワード正答数も多くなる傾向があるが, 35/40以上では必ずしも関係があるとはいえないことが確認でき, 既存の語音検査と併用することで相互補完的に子どもの聴取能の評価が行えることが示唆され, 本テストの有用性が認められた。
  • 池ノ上 あゆみ, 永野 由起, 牛迫 泰明, 松田 圭二, 東野 哲也, 藤元 昭一
    2013 年 56 巻 6 号 p. 769-774
    発行日: 2013/12/28
    公開日: 2014/05/09
    ジャーナル フリー
    要旨: 持続する蛋白尿の精査の過程で進行性感音難聴の存在からミトコンドリア DNA3243 変異の診断がついた一例を経験したので報告する。症例は33歳女性。15歳時より難聴, 蛋白尿を指摘され外来にて経過観察されていた。2009年10月, 腎生検目的のため当院内科に入院した。腎生検の結果, 一部に軽度のメサンギウム増殖を認め, 蛍光抗体法では, 係蹄とメサンギウム領域にIgAの顆粒状沈着を認めた。難聴に対する精査目的にて当科受診し, 右42.5dB・左28.8dB (4分法平均聴力レベル) の高音漸傾型の両感音難聴を認めたため, ミトコンドリア遺伝子検査を行ったところ, ミトコンドリア DNA3243 変異を認めた。後日, 電顕にて podocyte や尿細管上皮細胞に腫大した異常ミトコンドリアの集簇を認めた。IgA腎症を合併したミトコンドリア腎症・難聴と診断し, 現在ユビデカレノン投与下で経過観察中である。
    感音難聴患者に原因不明の蛋白尿・腎機能異常を認める場合は, 糖尿病がなくともミトコンドリアDNA3243変異を疑い, 内科と連携した診断・治療を行うことが有効だと思われる。
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