AUDIOLOGY JAPAN
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56 巻, 2 号
April
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総説
  • 「ストレスと感音難聴に関する考察―特に突発性難聴との関係について―」
    神崎 仁, 増田 正次
    2013 年 56 巻 2 号 p. 137-152
    発行日: 2013/04/28
    公開日: 2013/09/06
    ジャーナル フリー
    いわゆるストレスがどのようにして蝸牛に限局した障害を惹起するかは不明である。一方, 心筋梗塞などではストレスが視床下部-下垂体-副腎軸, 交感神経系を介した免疫系の変化を生じ, 病態の形成に関与していることが分かっている。本稿ではまずストレスがどのようにして免疫系の変化, 睡眠障害, 慢性疲労をもたらすかを紹介する。そしてこうした変化がどのようにして突発性難聴を生じるか, 血管内皮障害仮説やStress response仮説を用いて考察する。特にStress response仮説の中心となる転写因子NF-κBの蝸牛外側壁における異常活性化に関しては詳しく論じる。また, この仮説が聴力の低下に関わっていた可能性のあるステロイド依存性難聴症例も提示する。ストレスはメニエール病の発症にも関与していることが知られている。このことはストレス以外にも様々な要因が存在し, 異なる病態を形成していることを示しており, それが何であるかが今後の検討課題である。
第57回日本聴覚医学会主題演題特集号
「小児難聴者に対する個別化医療と支援」
  • 田中 美郷, 芦野 聡子, 小山 由美, 吉田 有子, 針谷 しげ子, 熊川 孝三, 武田 英彦
    2013 年 56 巻 2 号 p. 153-162
    発行日: 2013/04/28
    公開日: 2013/09/06
    ジャーナル フリー
    新生児聴覚スクリーニングで難聴が疑われ, 1歳頃より難聴が進行した自閉症スペクトラム障碍及び重度知的障碍を伴う難聴児に3歳11か月時人工内耳を装着させた。本児は聾学校へ入る前から手話を導入した言語教育を受けてきた。本児は現在12歳に達したが, 現在のコミュニケーションは聴覚的言語理解は発達しつつあるものの言語表出は専ら手話である。本児は一時期聴覚過敏症があって人工内耳を拒否するようになった。しかし現在はこれを克服して人工内耳を常用している。本児は社会生活を送る上で必要なskillを実体験を重ねて身に付けつつある。これには両親の熱意はもちろん, 地域社会のいろいろな分野の機関や人々の支援があった。両親は我々のアドバイスにも耳を傾けて, 各方面に働きかけてこの体制を築いてきた。この努力の成果として, 言語発達も含めて社会的経験も積んで本児になりに豊かに育ちつつある。
  • 熊川 孝三, 三澤 建, 松田 絵美, 真岩 智道, 鈴木 久美子, 加藤 央, 武田 英彦
    2013 年 56 巻 2 号 p. 163-170
    発行日: 2013/04/28
    公開日: 2013/09/06
    ジャーナル フリー
    新生児聴覚スクリーニングNHSの有用性は確立されているが, refer例において精密検査で正常聴力であった率 (refer偽陽性率) は, ほぼ40%前後と高い. 先天性代謝疾患のマス・スクリーニング偽陽性率が0.01%以下の値であるのに対して, 4自治体によるNHS事業報告ではNHSのマス・スクリーニング偽陽性率は0.0842~0.1482%と8倍以上高かった。このNHSの高い偽陽性率を改善するため, 当院では, 入院中の確認NHS検査でもreferであった例に対しては, 1カ月検診時にAABRによるNHS再検査を施行するシステムを試行してきた。導入時から5年間の1849例のデータを用いてretrospectiveに検討した結果, 初回NHSのrefer偽陽性率は76% (19/25), 退院前の確認NHSの偽陽性率も40% (4/10) であったが, 1カ月時の検診時に行った最終NHS検査での偽陽性率は0% (0/6) にまで減じた。結論として, 入院中に確認NHSでもreferであった新生児に対して, 同一施設にての1カ月検診時に最終NHS検査を行い, その結果で耳鼻咽喉科の精密検査機関を受診させる方式はNHSのrefer偽陽性率を最小限にし, 両親と新生児が受ける負担, 不利益の多くを排除できると考える。検討課題とその対処法についても述べた。
  • 北川 可恵, 光澤 博昭, 新谷 朋子, 海﨑 文, 氷見 徹夫
    2013 年 56 巻 2 号 p. 171-177
    発行日: 2013/04/28
    公開日: 2013/09/06
    ジャーナル フリー
    当センターには, 障害をもつ乳幼児が養育者 (主に母親) とともに入院する母子入院システムがある。小児科の全身管理をベースに耳鼻科, 精神科などの各診療科やコメディカルなど多職種による詳細な評価及びリハビリテーションと情報共有で, 一貫性のある療育を行う。母子入院で, 難聴に運動障害と知的障害伴う重複障害児 (重複児) 10例に, 聴力評価と補聴器装用指導及びコミュニケーションの発達支援を行った結果, 全例で補聴器装用が可能になり, 補聴効果を認めた。補聴器装用が困難な重複児は, 広汎性発達障害 (PDD) あるいは対人関係発達の遅れを伴い, 様々な感覚過敏が問題となった。重複児の聴覚補償の考え方として, 子どもの発達段階や体調, 養育者の心身状態に合わせた適切な療育目標の設定と評価, 聴覚活用と合わせた種々のコミュニケーション手段の活用, 補聴環境の整備, 養育者への具体的支援が重要である。
  • ―「難聴支援センター」の構築と実績―
    白根 美帆, 牛迫 泰明, 永野 由起, 池ノ上 あゆみ, 山本 麻代, 近藤 香菜子, 後藤 隆史, 東野 哲也
    2013 年 56 巻 2 号 p. 178-185
    発行日: 2013/04/28
    公開日: 2013/09/06
    ジャーナル フリー
    宮崎大学医学部附属病院「難聴支援センター」は,難聴児・者の聴覚言語機能支援を行う一診療部門である。本センターは,小児については「新生児聴覚スクリーニングセンター」から紹介されるすべての難聴児を対象に,難聴の確定診断後から迅速に療育的介入を行うことを目的として設置された。
    宮崎県では,「新生児聴覚スクリーニングセンター」が宮崎県内の産科医療機関,周産母子センター,小児科医療機関,各市町村保健所など多機関と連携することで,スクリーニングrefer 判定児とともに,スクリーニング未受検児や後天性難聴児も発見し療育へつなげるシステムを構築した。このシステムにより,2010年から2011年に,161名の難聴疑い児を精密検査機関へ紹介した。そして両側難聴と確定診断された29名全例に「難聴支援センター」で療育を開始することができた。「難聴支援センター」を中心とした宮崎県の難聴児支援システムは,乳児期から学齢期に亘る難聴支援の一モデルと考え,その概要を報告した。
  • ―難聴児に対する個別化医療の一考―
    荒尾 はるみ, 權田 綾子, 片栁 友里恵, 河村 舞乃
    2013 年 56 巻 2 号 p. 186-192
    発行日: 2013/04/28
    公開日: 2013/09/06
    ジャーナル フリー
    3歳児聴覚検診の定着化と新生児聴覚スクリーニングの導入, 遺伝子解析による原因解明の劇的進歩, 人工内耳医療を含めた補聴選択肢の拡大, 通級指導の開始など難聴児を取り巻く環境が近年大きく変化している。2012年5月末の時点で当院が関わっている両側難聴児109名の背景と医療内容を確認し, 地域耳鼻咽喉科診療所に求められている医療を検討した。その医療は, 聴覚保全のための聴覚管理・補聴器装用指導・書類作成で8割を占めた。聴覚管理と書類作成を行っている対象児の大半が純音聴力検査で評価可能な学童であった。各難聴児が受けるべき個別化医療の中で, 地域の耳鼻咽喉科診療所が担うべき医療は数多く存在し, 難聴児保護者が身近に相談できる情報提供の場として果たす役割は大きい。さらに, 見逃されている難聴児を拾い上げる重要な検診の場となるべきと考える。その責務を果たすために, 難聴児医療への情報収集に努めなければならない。
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