AUDIOLOGY JAPAN
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59 巻, 2 号
April
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 任 書晃, 吉田 崇正, 村上 慎吾, 倉智 嘉久, 日比野 浩
    2016 年 59 巻 2 号 p. 109-118
    発行日: 2016/04/28
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 内耳蝸牛を満たす内リンパ液は, +80mV を示す特殊な細胞外液である。この高電位は聴覚に必須である。その起源は蝸牛側壁であることが以前より知られてきた。血管条とそれに隣接するラセン靭帯からなる側壁は, 機能的に内外2層からなる上皮様組織とみなすことができる。我々は, 内リンパ液高電位が蝸牛の K+ 輸送機構により制御される側壁の K+ 動態に依存することを, 実験科学および理論科学を介して明らかにした。さらに近年, 複数の K+ 輸送分子が発現するラセン靭帯では, Na+, K+-ATPase のみが蝸牛の K+ 輸送に寄与することを見出した。これらの成果は, 聴覚の仕組みの理解を進めるのみならず, 内リンパ液高電位の低下に伴う難聴の発生機序の解明に貢献すると期待される。

第60回日本聴覚医学会主題演題特集号
「加齢に伴う聴覚障害」
  • ―純音聴力検査と語音明瞭度の比較―
    市島 龍, 佐々木 優子, 枝松 秀雄
    2016 年 59 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 2016/04/28
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 聴覚機能の加齢変化を, 難聴を主訴に受診し純音聴力検査と語音明瞭度を用い399耳 (男性201,女性198) について検討した。年齢は6歳から96歳 (平均54.3歳) で, 10歳毎の9群に分けて検討した。
     聴力閾値は40歳代から低下したが, 語音明瞭度は60歳代から低下し始めた。また, 各年代における聴力閾値のバラつきは, 若年群で大きく高齢化するほど小さくなった。語音明瞭度のバラツキは, 若年群で小さく高齢群になるほど大きくなる逆のパターンを示した。また, 各年代において語音明瞭度が50%以下の割合は, 10~60歳代までは10%以下であったが, 70歳代になると21.5%と増加し始め, 90歳代では61.1%となった。一方, 聴力閾値は80~90歳代の全例が 80dB未満で, 語音明瞭度と乖離した結果となった。
     聴覚機能の加齢変化には, 純音聴力検査と語音明瞭度の2つを併用して行うことが必要と考えられた。高齢者の難聴の振興には様々な因子が報告されているが, 今回の検討では有意な関連因子はみとめられなかった。

  • ―聴力検査―
    井上 理絵, 鈴木 恵子, 梅原 幸恵, 秦 若菜, 清水 宗平, 佐野 肇, 岡本 牧人
    2016 年 59 巻 2 号 p. 124-131
    発行日: 2016/04/28
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 要介護高齢者の難聴の実態を明らかにするため介護老人保健施設の入所者87例 (年齢: 83.5±8.0歳, MMSE: 14±9.0点) に耳内診察と聴力検査を行った。聴力検査では, ボタン押し操作が実施困難な場合はペグさし・発声・挙手等で示される音の検知反応や, 覚醒・音源定位等の聴性行動観察を組み合わせて閾値を評価した。聴力検査の結果の信頼性で対象を4群に分け, 群ごとのMMSE 得点や検査時間を検討した。
     耳内所見は初回診察時には28例 (32%) に耳垢栓塞を認めたが, 耳垢除去後正常例も含め64例 (73%) が両側正常, 11例 (13%) が一側所見あり, 12例 (14%) が両側所見ありだった。
     要介護高齢者の聴力評価において, 認知機能に合わせ反応方式の変更や聴性行動の観察をすることで, MMSE 得点が24点以上の対象は100%, 11点~23点の対象は91%, 10点以下の対象は38%で, 6周波数の左右耳別聴力閾値が測定できた (87例中62例)。62例中56例 (90%) が両側難聴だった。MMSE 得点と聴力に相関は認めなかった。

  • ―介護職員の難聴認識と介入前の対応―
    鈴木 恵子, 井上 理絵, 梅原 幸恵, 秦 若菜, 清水 宗平, 佐野 肇, 岡本 牧人
    2016 年 59 巻 2 号 p. 132-140
    発行日: 2016/04/28
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 要介護高齢者の難聴に対する適切な介入方法を検討するための基礎資料を得ることを目指し, 介護職員に難聴認識と日常の対応について問う質問紙調査を行った。対象は介護老人保健施設 (1施設) に入所中の要介護高齢者87例 (男性38例, 女性49例, 平均年齢83.5±8.0歳) である。良聴耳の平均聴力レベルにより, 正常, 軽度 (25dB 以上), 軽中等度 (40dB 以上), 中等度 (50dB 以上), 高度 (70dB 以上), 閾値なし (左右別閾値が得られない) に分類し, 回答と聴力との関係を分析した。その結果, 聴力レベルにより介護職員が認識する行動特性に違いがあり, 静かな場での聞き返しや聞こえにくさの訴えが40dB 以上で認識される率が高かった。ことばかけの配慮が聴力レベルで異なることも示された。しかし, 難聴認識とそれに応じた適切な対応が十分とはいえない現状も推察され, 介護職員と連携して難聴に対する認識を共有しながら, 聴覚評価と聴覚補償にあたる重要性が示唆された。

  • 長井 今日子, 木暮 由季, 木村 奈々子, 鈴木 哲, 千代田 朋子, 水谷 清隆, 戸蒔 健一
    2016 年 59 巻 2 号 p. 141-150
    発行日: 2016/04/28
    公開日: 2016/11/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 当院は, 耳鼻咽喉科一般診療に加え, 聞こえや言葉の遅れに対する専門外来を併設したクリニックとして, 平成26年6月に開院した。本報告では, 平成26年6月から平成27年6月までの期間に, 補聴器相談目的で受診した高齢者94例の補聴器適合の現況と, 購入後の経過について報告する。対象者の平均年齢は, 78.4歳 (±3.5) であった。94例中71例は補聴器購入に至り (以下補聴器購入群と示す), 23例は補聴器購入に至らなかった (以下, 補聴器非購入群と示す)。補聴器購入群と非購入群で聴力像を比較した。補聴器購入群における, 良聴耳の平均聴力レベルは, 52.1dB (±6.3) (四分法) で, 検査語表 57-S を用いた平均裸耳最高語音明瞭度は, 61.6% (±15.7) であった。補聴器非購入群の良聴耳の平均聴力レベル (四分法) は, 48.6dB (±5.3) で, 平均裸耳最高語音明瞭度は, 67.1% (±10.7) であり, 両者の聴力像の比較では, 有意差を認めなかった。
     ところが,「きこえについての質問紙 (補聴器適合検査の指針2008より引用)」による日常生活での聞こえに関する主観的評価では, 購入群の方が, 非購入群と比較し不良であった。また, 補聴器購入群の購入理由の多くは, 趣味の際の会話聴取改善であった。趣味をもつことで, 社会と積極的に関わるため, 補聴器装用の必要性が高く, 補聴器購入に至ったと考えられた。
      高齢者に対する補聴器適合では,「慣れ」の時間を考慮した手順が重要である。また, 補聴器購入後も定期的な補聴効果や補聴器の装用状況の確認, 補聴器の微調整を行うなど, 継続的なカウンセリング体制の整備により, 補聴器に対する満足度の改善や日常生活における補聴器装用による聴覚活用の向上に貢献すると考えられた。

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