AUDIOLOGY JAPAN
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60 巻, 4 号
August
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 「補聴器の fitting について」
    佐野 肇
    2017 年 60 巻 4 号 p. 201-209
    発行日: 2017/08/30
    公開日: 2017/12/19
    ジャーナル フリー

    要旨: 補聴器を個々の難聴者に適合するように設定していく方法について概説した。 大きく比較選択法と規定選択法という二つの手順が存在するが通常の臨床では両者が併用されている。 規定選択法はハーフゲインルールに始まりその後補聴器性能の進歩に伴って数多くの方法が発表されてきたが, 現在では NAL-NL 法と DSL 法が広く用いられている。 両方法の補聴効果を比較した研究の結果では語音明瞭度の成績では差はみられていないが DSL 処方の方が利得は大きい。 これらの規定選択法で示されるターゲットは基本的には最終的な設定への指標と考えるべきで新規の装用者ではそれより小さな利得から徐々に上げていく方法が提案されている。 欧米で開発されたこれらの処方ターゲットが英語とは音響的特徴が異なる日本語においても妥当であるかどうかについては今後検討する必要があると思われる。

原著
  • ―補聴器装用例について―
    森 つくり, 熊井 正之
    2017 年 60 巻 4 号 p. 210-218
    発行日: 2017/08/30
    公開日: 2017/12/19
    ジャーナル フリー

    要旨: 補聴器装用の重度難聴児1例の3~15歳までの構音能力の発達経過と指導方法を語音聴取能, 言語能力, コミュニケーション手段の発達とともに分析し, 以下の結果を得た。 1)語音聴取能は幼児期に60%台まで改善したが, 就学期以降は徐々に低下し, 15歳時には25%になった。 読話併用時は就学期以降も80%台だった。 言語能力は小学校高学年からは年齢相応になった。 2)構音明瞭度は就学期に80%台になり, その後も構音明瞭度を維持した。 構音の獲得順序は健聴児とほぼ同様だったが, 摩擦音, 破擦音は 15歳時にも完成には至らなかった。 3)本例のような重度難聴児の場合は, 語音聴取能だけでなく, 読話, 指文字, 文字等のコミュニケーション (視覚的) 手段を活用して音韻表象を形成させること, 言語をベースとした指導を行い, 言語能力を一定のレベルに維持すること, 音声言語を日常的に使用することが構音の獲得・維持の重要な要因であると考えられた。

  • 岸野 明洋, 増田 毅, 野村 泰之, 鴫原 俊太郎, 大島 猛史
    2017 年 60 巻 4 号 p. 219-224
    発行日: 2017/08/30
    公開日: 2017/12/19
    ジャーナル フリー

    要旨: MAICO 社製 MB11 BERAphone® に刺激音として搭載された CE-Chirp® は周波数成分ごとに反応するⅤ波のピーク潜時が等しくなるように調節し作製された音である。 今回 CE-Chirp® を AABR に使用した有用性について検証した。 難聴のリスクファクターがない生後1週間以内の新生児599名を対象とした。 Pass 症例は587名 (98.0%), 片側 Refer 症例は12名 (2.0%), 両側 Refer 症例は認めなかった。 平均検査時間は322.3±220.1秒であった。 特異度は98.0%, 偽陽性率は2.0%であった。 CE-Chirp® を刺激音として用いたアルゴリズムにより検査時間の短縮を認めた。 操作の簡便性やコスト面においても優れており, スクリーニング検査として有益であると考えられるが, その正確性については更なる検討と改善の余地があると考えられた。

  • 吉田 亜由, 畑 裕子, 竹内 成夫, 山崎 葉子, 奥野 妙子
    2017 年 60 巻 4 号 p. 225-233
    発行日: 2017/08/30
    公開日: 2017/12/19
    ジャーナル フリー

    要旨: 聴神経腫瘍の自然経過は諸家により報告がなされているが, 保存的経過観察が長期に渡った場合を評価した報告は少ない。 今回我々は5年以上保存的経過観察を行った未治療の聴神経腫瘍16例の聴力変化と腫瘍径の変化について検討した。 経過観察期間は5年0か月から19年6か月で平均9.9年であった。 初診時より聾型の1例を除いた15例中, 聴力悪化症例は12例 (80.0%), 変動症例は2例 (13.3%), 不変症例は3例 (20.0%) であった。 聴力悪化を認めた12例のうち9例 (75%) に腫瘍径の増大を認めたが, 聾型を除いた不変症例3例では腫瘍径の増大はみられなかった。 2例では腫瘍増大や聴力悪化のために放射線治療に移行した。 聴力保存成功率の点からは, 有用聴力を有している小腫瘍の場合は, 聴力保存手術の適応について検討する必要があると考えられた。 本人の希望や事情, 背景などから経過観察を選択する場合もあるため, 長期的な自然経過を提示することは有用であると思われる。

  • 大原 重洋, 廣田 栄子, 大原 朋美
    2017 年 60 巻 4 号 p. 234-244
    発行日: 2017/08/30
    公開日: 2017/12/19
    ジャーナル フリー

    要旨: 難聴診断後に直ちに補聴器を適合し, 1年間の療育・経過観察を行った0~1歳児27名 (平均聴力レベル73.7±24.0dB: 40~110dB) について, 2~6歳児19名 (64.5±16.4dB: 41.2~101.2dB) と比較して, 補聴器の常用と関連する要因について検討した。 補聴器のデータロギングによる時間記録機能と, 療育・家庭記録の補聴器を外す回数とを用い, 常用について評価した。 その結果, 中等度難聴児の家族では高度難聴児より補聴器装用の意欲が乏しく, 常用が遅れる傾向が示された。 また, 重回帰分析により, 0~1歳児の装用時間の延長については, 平均聴力レベル, 診断時月齢, 家庭の装用指導の要因の相関が高く, 有意な予測因子と考えられた。 中等度難聴児の家族では, とくに早期の補聴器装用についての一貫した指導と, 補聴器の常用に関する家族の理解と意欲を形成する支援の重要性が示唆された。

  • 勝然 昌子, 尾形 エリカ, 赤松 裕介, 樫尾 明憲, 狩野 章太郎, 岩﨑 真一, 山岨 達也
    2017 年 60 巻 4 号 p. 245-251
    発行日: 2017/08/30
    公開日: 2017/12/19
    ジャーナル フリー

    要旨: 本邦の成人人工内耳の適応基準は聴力レベルに重点を置いているが, 米国などの諸外国では語音聴取能に重点を置いたものも存在する。 本邦でも聴力レベルが保たれていても語音聴取能が悪く, 実用的な音声コミュニケーションが困難な症例が存在する。 今回我々は, 良聴耳聴力レベルが4分法で 90dBHL 未満であるが語音聴取能が不良なため, 当科で人工内耳手術を行った中途失聴成人9症例の術後成績を検討した。 全9症例の術後語音聴取能の平均は, 両側術前聴力レベルが 90dBHL 以上症例の術後語音聴取能の平均とほぼ同等であった。 術側耳の聴力レベルが 90dBHL 未満であった症例は4例で全例良好な術後成績が得られた。 術側耳の聴力レベルが 90dBHL 以上で非術側耳の聴力レベルが 90dBHL 未満であった5症例では術後成績にばらつきを認めた。 本研究から語音聴取能が不良な聴力レベルが 90dBHL 未満の症例にも人工内耳の良い適応となる症例が存在することが示唆された。

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