AUDIOLOGY JAPAN
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61 巻, 3 号
June
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会告
総説
  • ―音受容から聴覚情景分析まで―
    川瀬 哲明
    2018 年 61 巻 3 号 p. 177-186
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/08/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 聴覚系は音情報の処理システムである。難聴を訴えて受診する患者の診察では, 聴覚系の各パーツの病理を分析的に考えるとともに, それらの病理が聴覚系全体へ与える影響を統合的に考慮する, 局所と全体の視点からの理解が重要となる。本稿では, 聴覚系の代表的パーツ (外有毛細胞, 内有毛細胞―蝸牛神経シナプス, 中枢聴覚情報処理機構) の病理に起因する聴覚障害について概説した。1) 外有毛細胞障害では, 典型的な「内耳障害」の像 (補充現象を伴う閾値上昇) を呈すること, 2) Auditory Neuropathy とHidden Hearing Loss は, いずれも内有毛細胞―蝸牛神経シナプスの病理が一因となっているが, 前者では神経スパイク情報の同期障害 (質的障害) が, 後者では閾値が高いニューロンの量的障害が中心病態として推察されること, 3) 聴覚情景分析メカニズムの障害は, 聴覚情報処理障害の一因となりえること, などを紹介した。

原著
  • ―補聴器適合と試聴の結果―
    井上 理絵, 鈴木 恵子, 梅原 幸恵, 秦 若菜, 清水 宗平, 佐野 肇, 岡本 牧人, 山下 拓
    2018 年 61 巻 3 号 p. 187-194
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/08/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 要介護難聴高齢者の補聴の可能性とその効果の検討を目的とした。介護老人保健施設入所中の24例 (年齢84 ± 8歳, 聴力47 ± 13dB, Mini Mental State Examination (MMSE) 16 ± 8点, それぞれ平均 ± 標準偏差) を対象に4ヵ月試聴を行った。病院所属の言語聴覚士 (ST) が補聴器適合と試聴前準備, 老健所属のSTが介護職員の協力を得て定時着脱, 電池交換, 記録を担った。その結果, 補聴器の紛失・破損はなかった。装用状況により安定装用群5例 (終日装用日が80%以上), 装用拒否群5例 (明確な意思を示し拒否), 中間群14例 (前記2群以外) に分類された。安定装用群と中間群で, MMSE と終日装用日の割合に中程度の正の相関を認めた。離床時間が安定装用群で中間群より長かった。補聴器の安定装用に認知機能と離床時間の関与が推測された。老健所属の ST からは補聴器導入に懐疑的な介護職員の意識を変えることの難しさも指摘され, 補聴器装用を積極的に導入するまでの動機付けは残された課題である。

  • ―装用時間の推移―
    梅原 幸恵, 鈴木 恵子, 井上 理絵, 秦 若菜, 清水 宗平, 佐野 肇, 岡本 牧人, 山下 拓
    2018 年 61 巻 3 号 p. 195-202
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/08/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 要介護高齢者の補聴の可能性や介入法を明らかにする目的で, 約4か月の補聴器試聴を行った介護老人保健施設入所中の24例のうち, 多様な装用状況を示した中間群14例 (年齢; 81.5歳, 聴力; 47dB, MMSE; 14点, 全て中央値) を対象に, 装用時間の推移の観点で経過を分析した。試聴期間を1か月毎4期に分け, 終日装用日の割合を期毎に算出した結果, 延長群5例, 変動群3例, 低迷群3例, 中断群3例に分類された。後3群の経過は, 装用の阻害要因として, 体調悪化や重度認知症の周辺症状, 高次脳機能障害の諸症状を示唆した。延長群の経過からは「補聴器の認識が困難で拒否的」,「拒否しないが慣れずにはずす」,「装用効果を自覚し装用が安定する」という3つの段階的変化が示された。毎日定時の着脱と説明, 日中の介入の繰り返しが, 認知機能低下を伴う要介護高齢者の学習を促したと推察され, 補聴器を十分認識しない段階にある要介護高齢者の補聴の可能性が示された。

  • 高梨 芳崇, 川瀬 哲明, 佐藤 剛史, 香取 幸夫
    2018 年 61 巻 3 号 p. 203-208
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/08/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 本邦の耳鳴診療において TRT (Tinnitus Retraining Therapy) は治療の first line となっているが, 音響療法に取り組むうえで, 音への不快感を訴える患者への対応に苦慮することがある。当科では, 耳鳴外来を受診する耳鳴患者には, あらかじめ, HQ (Hyperacusis Questionnaire) 並びに不快レベル (UCL: Unconfortable level) による評価を行い, 診療に役立てているが, 今回, 従来の問診票による評価 (THI: Tinnitus Handicap Inventry, HADS: Hospital Anxiety Depression Scale) との関連について検討を行った。対象は2015年1月から2016年12月まで当科外来を受診した耳鳴を主訴とする患者のうち, THI, HADS, HQ による問診票評価, 並びに不快レベルを測定していた131例 (男性67例, 女性64例, 平均年齢63.98歳) で, 診療録をもとに後向きに検討した。その結果, THI と HADS の A スコア, 並びに HQ の3者間には, いずれも強い正の相関が認められ (THI: HADS (A score) r=0.626, p<0.05, THI: HQ, r=0.649, p<0.05, HADS (A score): HQ, r=0.506, p<0.05), HQ と HADS の D スコアにも, やや弱い正の相関が認められた (r=0.322, p<0.05)。しかし, 問診票のスコア (THI, HQ) と, 不快レベル, dynamic range には, 有意な相関を認めなかった。本検討からは UCL を用いて耳鳴や聴覚過敏の苦痛度を推定することは難しい事が示唆されたが, 耳鳴の重症化の機序と聴覚過敏の重症化の機序には何らかの関連があることが示唆された。

  • 坂本 圭, 小渕 千絵, 城間 将江, 松田 帆, 関 恵美子, 荒木 隆一郎, 池園 哲郎
    2018 年 61 巻 3 号 p. 209-215
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/08/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 本研究の目的は, 聴覚障害者の日常生活における早口の音声聴取能について, 自然な早口の音声を用いて検討する。さらに, 早口の音声聴取に文の有意味性が関与するのかについても検討することであった。対象は人工内耳装用者15名と補聴器装用者16名であり, 対照群は健聴者10名であった。早口音声はニュース番組におけるアナウンサーの発話速度を基準速度とし, 基準速度文 (1倍速文), 1.5倍速度文および2.0倍速度文を作成した。検査文は有意味文と構文構造を崩さない無意味文条件を設定し, 条件間で比較した。

     その結果, 補聴器装用者及び人工内耳装用者は早口の音声聴取能が健聴者に比し有意に低下し, 人工内耳装用者は2.0倍速文において補聴器装用者より有意に低下した。また, 文の有意味性については, 補聴器装用者及び人工内耳装用者は基準速度文と1.5倍速文においては文脈から推測し聴取を補っているが, 2.0倍速文のように発話速度が速いと文脈からの推測は働きにくくなることが明らかになった。

  • ~補聴器適合検査の指針 (2010) に準じた適合判定~
    上野 真史, 新田 清一, 鈴木 大介, 藤田 航, 中山 梨絵, 鈴木 成尚, 坂本 耕二, 草野 真理, 大石 直樹, 小川 郁
    2018 年 61 巻 3 号 p. 216-221
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/08/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 他機関にて補聴器を購入も装用効果に不満を持ち, 改善目的に当科外来を受診する患者は少なくない。このような症例233例を後ろ向きに検討することで, その臨床像を把握するとともに, 必要となった対処とその結果について検討を行った。233例のうち1例を除いた232例 (99.6%) の持参補聴器が適合不十分であった。その原因は, 器種選択の誤りが129例 (55%), 調整の不適85例 (37%), 故障18例 (8%) であった。適合不十分例に対し, その原因に応じて当科補聴器の貸出や調整などの対処を施行した。その結果, 器種選択の誤りによる適合不十分例のうち持参補聴器の使用継続を選択した28例を除いた204例 (88%) が適合となった。この現状の背景には一部機関にて不適切な器種販売や調整が行われていた可能性がある。今回の検討より, 医療機関にて他機関における補聴器適合不十分例に対し再フィッティングを行うためには検査装置やフィッティングソフト, 言語聴覚士などの医療資源が必要であることが示唆された。

  • 東野 好恵, 築地 宏樹, 田泓 朋子, 鷹尾 悠, 石川 一葉, 松本 希, 中川 尚志
    2018 年 61 巻 3 号 p. 222-231
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/08/11
    ジャーナル フリー

    要旨: UD トークは音声認識機能を用いて難聴者と健聴者とのコミュニケーションを支援するソフトである。しかし, その音声認識精度は完璧とは言えない。われわれは, その音声認識ソフトに対し, 人工内耳装用者に行う日本語の聴力評価検査である CI2004 (試案) を施行した。UD トークの聴取能は単語76%, 雑音下単語38.5%, 日常会話文97.3%, 雑音下日常会話文75.6%であり, その成績は比較的成績の良い成人一側人工内耳装用者に匹敵した。この評価成績を利用し, 難聴者にとっての聴取環境の良し悪しを客観的に評価できる可能性が示唆された。

  • 南 修司郎, 山本 修子, 加藤 秀敏, 榎本 千江子, 加我 君孝
    2018 年 61 巻 3 号 p. 232-236
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/08/11
    ジャーナル フリー

    要旨: LENA (Language ENvironment Analysis) システムとは, 主に乳幼児を対象とした周囲の音声言語環境を録音及び解析する統合情報処理ソフトウェアである。今回, 聴力正常児5例, 先天性難聴児2例, 難聴高齢者7例を対象に LENA システムの日本語環境での解析可能性を検証し, LENA システムを用いた聴覚言語リハビリテーションの応用を探った。いずれのグループでも, LENA システムを用いて音声言語環境を調査することは可能であった。聴力正常児と難聴児の聞こえの環境は, ほぼ同等であったが, 高齢難聴者では, 乳幼児に比べてテレビなど電子音の割合が増えていた。大人の発話数, 子供の発声数, 会話のやり取り数という言葉の量についても, 日本語環境で LENA システムを用いて測定可能であった。しかしながら英語環境におけるパーセントタイル値と直接比較することは出来ないため, 日本語環境でのコントロールデータの構築が待たれる。

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