要旨: Multi-frequency tympanometry (MFT) の結果を解釈する上で, 有用であると思われる基本原理や代表症例で観察される所見について紹介した。
MFT は, 中耳―内耳振動系の様々な振動特性の変化 (共振特性の変化) をとらえるのに有用なデバイス, 計測手法であるが, MFT の特徴や限界を理解し, 他の所見と合わせ総合的に診断することが肝要である。
要旨: 耳鳴苦痛度の質問票である tinnitus handicap inventory (THI) は, 耳鳴治療評価のために行われている検査である。THI 原版は英語であったが, 邦訳版を作成するにあたり, 翻訳・逆翻訳が行われていなかった。今回これらを行った改訂版について信頼性と妥当性の検討を 6 施設の病院で行った。検討は耳鳴患者と耳鳴のない健常者を含む98例を対象として実施された。クロンバッハの係数は0.970であり, 0.8以上であったことから内的整合性は示された。1 回目と7日後に施行された2回目の THI 改訂版の再検査では相関が認められ, 信頼性が確認された。THI 改訂版と同時に実施された THI 旧版, HADS (うつと不安の尺度に関する質問票), SF-36 (包括的 QOL質問票) との相関から妥当性が確認された。ただし, 改訂版における問13と問16のみ再現性が認められず, 質問票として使用するにあたりその旨を付記する必要があると考えられた。
要旨: 純音聴力は正常であるが, 日常生活において聴き取りに困難が生じる聴覚情報処理障害 (APD) によって, 小児は学習面や対人関係面に二次的問題を生じることが多く, 早期発見が求められている。しかし我が国ではその定義や評価法, 支援法が定まっていない。本研究では APD の一症状である雑音下聴取に注目し, 早期発見に寄与する「雑音下聴取困難スクリーニング検査 (LINDS) 」の開発を目的とした。87名の一般対象児において, 雑音の程度の異なる 4種の音源の正答率をそれぞれ分析した結果, 付加雑音が大きくなるにつれて正答率が低下し, ばらつきが大きくなることが確認された。一般対象児の分析より設定されたカットオフポイントは, 2 例の臨床事例においても適用が有効であった。LINDS は短時間で学校における集団実施も可能であり, 純音聴力検査では捉えることのできない雑音下聴取困難をスクリーニングする検査として有用であると考えられた。
要旨: 高齢期人工内耳装用の効果については, これまで医療機関内での効果測定が用いられ, 日常生活での満足度や社会的活動等と関連づけた検討は乏しい。我々は, 高齢期人工内耳装用者の術後聴取能と生活上の満足度, 社会的活動の改善を明らかにするために実態調査を行ったので報告する。全国の人工内耳手術施設に通院する65歳以上の高齢装用者および当事者団体の装用者を対象に, 質問紙調査を実施した。結果, 75名より回答を得た。術後の聴取改善としては, 担当言語聴覚士や家族との日常会話など, 身近な者との会話は 8 割以上が改善したと指摘された。また, 人工内耳装用後に生活満足度の健康観や人生満足等の項目で, 約半数が改善した。社会的活動においては, 個人的な活動が増加し, 社会参加・奉仕活動と学習活動で変化は乏しかった。高齢難聴者への人工内耳装用は, 1 対 1 の対面を中心とした会話を補償し, 個人による社会的活動や生活上の満足度を向上させた。
要旨: 日本光電工業社製の誘発電位測定装置に附属するヘッドホンは, IEC 60318-3 準拠品 (以下旧型機) であったが, 2012年以降, IEC 60318-1 準拠品 (以下新型機) に変更された。これら新旧のヘッドホンは, 使用上明らかな音の差が見られた。そこで, 周波数応答の差異や ABR, VEMP の検査結果への影響に関して調査を行った。ABR については, 旧型機及び新型機における潜時を比較した。VEMP については, cVEMP 及び oVEMP の振幅を比較した。周波数特性は 1kHz 以下において, 新型機の方が感度は高く, 歪率は, 100Hz から 3kHz において, 新型機の方が大きく, 過渡特性は旧型機の方が良好であった。ABR の I 波の潜時は 500Hz においてのみ有意差を認めた。VEMP の振幅は, 新型機の方が有意に小さかった。0.1ms クリックの ABR においては, 性能差異を考慮する必要性は無い。しかし VEMP においては, 新型機での音刺激は不十分で, 旧型機のヘッドホンを継続使用するか, 耳挿入型の使用を検討するのが望ましいと考えられた。