要旨: 3歳児健診の受診児134名に対して, 自動 ABR 検査機器 (MAICO 社製 MB11 BERAphone®) を用いた聴覚検診を実施し, 難聴スクリーニングとしての有効性や現行の聴覚検診について検討した。片耳の検査時間は約 5~6分で, 新生児聴覚スクリーニングと比較すると時間を要したが, 134名のうち120名 (89.5%) は両耳測定可能で, 覚醒下の3歳児にも応用できることが分かった。検査結果は, 両側 pass が100名, 片側 refer が13名, 両側 refer が7名であった。 両側 refer により医療機関を受診した4名は両耳に中耳炎を認めた。正答数 4語以下が要精密となる厚生労働省方式の「ささやき声検査」と比較した結果, 片側 refer 児の平均正答数は5.4語で, 一側性難聴の検出は現行の聴覚検診だけでは難しいことが確認できた。
乳幼児健診は, 新生児聴覚スクリーニングから就学時健診までの幼児期の難聴スクリーニングとしても重要な機会である。聴覚検査機器による検診の試みは, 検診の精度を高めるとともに, 現行の検診精度を検証する役割も期待でき, 母子保健事業の関係機関や担当者の意識向上にも寄与するものと考える。
要旨: 秋田県で新生児聴覚スクリーニング (Newborn hearing screening: 以下 NHS と略) が開始されてから17年が経過し, 2012年からは受検率が94%を超えている。 NHS システムを構築する中で, NHS 後も聴こえに関心を持ち続けるための啓発や, 関係機関との連携ができ, NHS 後に難聴児が発見された場合の対応も確立されたと考えられる。 今回の調査で, 聴力型により NHS では発見できない難聴児がいること。 遅発性や進行性の難聴児がかなりの数存在することが示唆され, NHS パス後も引き続き聴覚に気を配り, 関係機関との連携を強化していく必要性が示唆された。 今回画像診断が不完全な症例が含まれたことや, 今後遺伝子診断をする例の増加が予測されること, 先天性サイトメガロウィルス感染症のフォローアップ例が増えている事などから, 今後は遅発性及び進行性難聴の原因について明確にしていく必要性があると考えた。
要旨: 当科では, 文章追唱訓練を用いた聴覚リハビリテーションを考案し実施している。 今回, 文章追唱訓練の有用性を明らかにするために, 当科にて文章追唱訓練を行った感音難聴139例 (262耳) を対象として, 訓練前後の裸耳語音明瞭度の変化を補聴器装用のみのコントロール群89例 (168耳) と比較検討した。 語音明瞭度が10%以上の改善を認めたのは, 文章追唱訓練群が33.2%, コントロール群が34.5%であり, 両群とも訓練前後で有意な改善を認めた (p<0.001)。 しかし, 文章追唱訓練群での語音明瞭度の改善は, コントロール群に比べ統計学的な有意差は認めなかった。 本研究の結果から, 補聴器装用による聴覚機能の効果は再確認できたが, 文章追唱訓練が語音明瞭度の改善に有効とは言えなかった。 文章追唱訓練はコミュニケーションでの言語理解力を鍛えるので, 語音明瞭度ではその効果を評価し難く, 今後, 文章追唱訓練の有用性は別の評価法で再検討する必要があると考えられた。
要旨: 本研究では, 補聴器・人工内耳装用者における, 早口の音声聴取能改善に効果的な改善方法として, 統語的な休止区間の挿入の有効性について検討した。対象は人工内耳装用者と補聴器装用者, 各17名であり, ニュース番組におけるアナウンサーの発話速度を基準速度として, 1.5倍速度文および2.0倍速度の早口の音声文を作成した。これに対し, 休止区間挿入方法は, 毎文節に休止区間を挿入する毎文節挿入条件, 休止区間を意味的に区切ることができる1か所のみ挿入する意味的挿入条件の2条件とした。その結果, 補聴器装用者, 人工内耳装用者ともに1.5倍速文においては休止区間挿入による聴取能改善は認めなかったが, 人工内耳装用者に対する2.0倍速文においては, 毎文節挿入条件に比し, 意味的挿入条件において聴取能は有意に改善した。休止区間挿入は, 毎文節区切って話すより, 意味的なまとまりで区切って話すことが, 早口の音声聴取には効果的であることが示唆された。
要旨: 目的; 耳鳴を主訴とする 4kHz, 8kHz のみの感音難聴症例の中 THI>18 以上の耳鳴に対する Sound generator 付き補聴器 (HA 群) とスマートフォンアプリ (SM 群) の音の効果を比較し評価した。
方法; 23例の耳鳴を主訴とする高音域感音難聴症例を HA 群 9例と SM 群 14例の2群に分けた。耳鳴の効果は THI, 自覚的耳鳴評価 (大きさ, わずらわしさ, 生活への影響, 苦痛度) と自覚的改善度で評価した。
結果; 治療後両群ともに, それぞれ THI スコア, 自覚的耳鳴評価スコア, 自覚的改善度は有意に改善した。しかし, 治療前後の上記項目のスコアの差については両群間には差がなかった。HA 群では治療前 4kHz の聴力レベルは SM 群より高度で, 耳鳴持続期間も長かった。
結論; 聴覚系への長期の音響療法は SG 付き補聴器であれ, スマートフォンアプリであれ耳鳴を改善させると思われる。高音域 (4, 8kHz) の耳鳴患者には両者を比較して選択させることが推奨される。選択にあたっては 4kHzの聴力レベル, 耳鳴の持続期間, 補聴器のコスト, 音響療法を仕事中に必要とするか, 帰宅後にのみ必要とするかを考慮する。
要旨: 2012年4月から2015年3月までの3年間に新生児聴覚スクリーニング後の精査目的にて当院を受診した0歳児は273名であった。そのうち, 安定した自覚的聴力検査ができた, または2年以上経過を追えた262名について検討を行なった。初診時月齢の平均値は6.2ヶ月, 紹介元は耳鼻咽喉科が74.8%, 産婦人科は12.2%, 小児科は10.7%であった。両側中等度以上の難聴児は137名が発見され, 紹介例の50.2%を占めた。初診時月齢を引き下げるためには基幹病院との連携, 情報共有が必要と考えられた。また, 88名 (32.2%) に滲出性中耳炎が認められた。その後の聴力検査 (BOA, COR, ABR, ASSR) に先行して, 鼓膜切開, 鼓膜換気チューブ留置を行った児は78名, そのうち, 軽度難聴以内に改善したと診断された児が21名, 処置を行なった症例の26.9%を占め, 中耳炎の排除が重要であると考えられた。一方で重複障害児が低月齢で受診することが増えており, 児や環境の状態から総合的に検査, 治療, 補聴のタイミングを判断する必要がある。
要旨: 他覚的耳鳴は患者が感じている耳鳴をオトスコープなどで他者が聴取できるものと定義される。その原因は筋性や血管性が多いが, 顎関節に起因することも知られている。顎関節由来の原因の多くは顎関節症であるが, 今回我々は中耳腔から顎関節への空気の流入による開閉口時の他覚的耳鳴を認めた 1例を経験したので報告する。
症例は64歳女性で顎関節の可動に伴い右顎関節周囲からクリック音とは異なる音が聴取され, 同時に鼓膜が変化する所見 (閉口時に膨隆, 開口時に陥凹) を認めた。中耳 CT (矢状断) で中耳腔から錐体鼓室裂を通り顎関節包周囲まで連続する低吸収域 (空気) を認めた為, 中耳腔と顎関節の交通が疑われた。鼓膜切開にて中耳圧を開放した結果, 顎関節内の空気も消失し, 症状も消失した。鼓膜穿孔が閉鎖しても症状が再燃することはなかった。
顎関節の可動に伴う他覚的耳鳴を認めた場合は中耳 CT (矢状断) や鼓膜の診察が必要である。また, 中耳腔と顎関節の交通を認めた場合は鼓膜切開や鼓膜換気チューブ留置術が治療の一助となる。