AUDIOLOGY JAPAN
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62 巻, 3 号
June
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会告
総説
  • ―最近の研究成果を踏まえて―
    山本 典生
    2019 年 62 巻 3 号 p. 187-195
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 人工内耳は, 機器の市販開始後35年がたち世界で60万人が装用し, 両側高度あるいは重度感音難聴の有力な治療法として確立されてきた。人工内耳が聴覚中枢に伝える音情報が健常な聴覚路と比べて極めて少ないにも関わらず良好な言語聴取成績を得られるのは, 人工内耳による刺激によって聴覚路がその構築や機能を変化させて音信号を処理しているためであると考えられる。また, 人工内耳適応の拡大により両側装用, 内耳奇形例, 聴力残存症例や一側聾への埋め込みも行われるようになっている。そのため, 人工内耳装用者に特有の聴覚路解剖や生理の解明は人工内耳の効果をさらに上げるための処置やマッピングなどの確立に必要である。

     本稿では従来の聴覚路研究で蓄積された解剖・生理の知識を整理し, 遺伝学や分子生物学, 脳機能画像を用いた聴覚路や人工内耳装用の聴覚路への影響に関する最近の研究を紹介した。

第63回日本聴覚医学会主題演題特集号・続
「超高齢社会における聴覚医学の課題と使命 」
「小児および成人人工内耳のマッピングとリハビリテーションの体系化」
  • 鈴木 恵子, 井上 理絵, 梅原 幸恵, 秦 若菜, 清水 宗平, 佐野 肇, 中川 貴仁, 山下 拓
    2019 年 62 巻 3 号 p. 196-204
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 高齢期難聴への介入方法を検討するための資料を得る目的で, 通所リハビリテーション利用中の難聴高齢者 (良聴耳 35dB 以上) を対象に補聴器試聴を行った。38例中7例は既に自機を装用中であった。未装用の31例中9例が補聴器試聴を受諾し, 7例が3か月間の試聴を継続して5例が自機購入に至った。既装用群は未装用例と比べ難聴重症度が高かったが, 受諾群と非受諾群の聴力には有意差なく, 悪い条件下の語音の聴取で, 受諾群が非受諾群より聞こえにくさを強く自己認識しており, 補聴器に関心を持つ率も高かった。補聴効果はテレビ音声や会話の聴取に加え, 環境音やことばの超分節的要素の聴取に及び, 言語理解の制限された失語症例においても情緒的な安定や意思疎通の改善として表れた。要介護, 要支援高齢者の聴覚スクリーニングの必要性が示唆されるとともに, 補聴器の試聴さえ受け入れなかった非受諾群を補聴に誘導する方策の検討が次の課題として残された。

  • 新井 雄裕, 細谷 誠, 前川 明日彩, 片岡 ちなつ, 神崎 晶, 小川 郁
    2019 年 62 巻 3 号 p. 205-210
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 人工内耳の装用者数が年々増加する中で, 付随して生じる心理的諸問題についても注目されるようになってきた。その中で, 人工内耳の装用が患者のうつ状態に及ぼす影響はすでに複数の調査が行われているが, 本研究においては当科で人工内耳植込術を行った高齢者11名を対象とし, うつ性自己評価尺度 (Self-rating Depression Scale: 以下 SDS) 及び状態―特性不安尺度 (State-Trait Anxiety Inventory: 以下 STAI) を術前後に1回ずつ実施し, うつおよび不安状態についての検討を行った。その結果, 人工内耳装用により患者の抑うつ傾向は全体としては有意な変化を認めなかったが,一部の症例においては聴能の再獲得などにより抑うつ傾向が高まる可能性が示唆された。人工内耳植込術をした患者の精神的な面を把握して, リハビリテーションに生かすために, 術前術後の STAI, SDS による抑うつ傾向の評価は臨床的に有用であると考えられた。

  • ―CI2004 単音節リストと 67-S 語表の成績比較―
    松田 悠佑, 奥田 匠, 中島 崇博, 白根 美帆, 下荒 翔研, 安永 太郎, 平原 信哉, 花牟禮 豊, 東野 哲也
    2019 年 62 巻 3 号 p. 211-217
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 人工内耳装用例 (n=19) に対し CI2004 単音節リストと 67-S 語表を用いた語音明瞭度検査を実施し, 両検査の特性が成績に与える影響を検討した。結果は CI2004 が平均 61.0%, 67-S が平均 78.0% であり 67-S の方が有意に良好であった。共通の単音節を抜粋し比較した結果, CI2004 は平均 62.6%, 67-S は平均 74.6% であり有意差はみられなかった。67-S における各提示音圧 (40, 50, 55, 60, 70dBHL) の成績を比較した結果, 40dBHL から 70dBHL の間に有意差がみられなかった。

     語音明瞭度検査は聴覚心理学的な評価法であり, 提示音圧, 単音節の種類や数, 音声の違いは成績に影響を与えうる。今回の検討では, 単音節の種類のみが成績に影響を与えることが確認された。本邦での CI 例への評価法が統一されていない現状を鑑みると, 効率性を考慮した評価法の指針の作成を学会で行われることが望ましいと考える。

原著
  • ~アッシャー症候群における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングの重要性~
    大上 麻由里, 塚原 桃子, 大上 研二, 飯田 政弘, 高橋 千果, 西尾 信哉, 宇佐美 真一
    2019 年 62 巻 3 号 p. 218-223
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: USH2A 遺伝子は感音難聴に網膜色素変性症を伴う疾患であるアッシャー症候群タイプ 2 (USH2) の最多原因遺伝子として知られている。

     今回我々は小児難聴例の原因検索のために行った遺伝学的検査で USH2A 遺伝子に複合ヘテロ接合体変異が同定された10歳以下の 3兄妹例を経験した。3人は現段階では視覚症状を呈していないが, 中等度から高度の両側高音障害型感音難聴であり, 思春期以後に眼症状が出る USH2 の可能性が高いと考えた。

      網膜色素変性症は進行性で社会的失明に至る例もあるが, 先天性難聴に伴う随伴症状を予測可能になることは遺伝学的検査のメリットの一つであり, 将来起こりうる症状を踏まえて進路の選択などにつながる有用な情報になると考えた。また心理的な負担に対し十分な配慮し, 徐々に受容を促す支援を行うことができると考えた。

  • 廣田 栄子, 齋藤 佐和, 大沼 直紀
    2019 年 62 巻 3 号 p. 224-234
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 全国聴覚特別支援学校100校を対象に 0~2 歳児の乳幼児教育相談における早期介入の状況について検討した。99校で1,831名の聴覚障害乳幼児の定期的指導が実施され, 新生児聴覚スクリーニング検査 (NHS) 受検率は84.7%であった。定期的相談児は, 軽・中等度難聴が38.3% を占め, 他障害を併せ持つ幼児が22.7% と多様な支援に対応していた。聴覚補償として89.1% で補聴器指導を行い, 補聴器装用開始後の補聴器常用 (4h/日以上使用) は71.2% と困難を示していた。人工内耳装用は19.5%で, 0歳児 bimodal 方式, 2歳児で両耳装用が増加した。教育活動時には, 76.2% で音声言語と手話のトータルコミュニケーションを用い, 2歳児に音声言語の使用順位が高まった。教育指導は 0歳児から集団と個別方式を用い, 地域差があるが両方式で平均2回/月程度実施され, 2歳児で頻度が増加した。

     乳幼児教育相談において, 聴覚障害児の家族, 聴覚障害児, 教師, 社会連携の領域において早期介入の意義について指摘された。NHS の普及により, 聴覚障害児の早期介入は増加傾向を示し, 早期診断後の専門的な介入に関する社会的体制と施策整備が喫緊の課題であると示唆された。

  • 西山 崇経, 新田 清一, 鈴木 大介, 坂本 耕二, 齋藤 真, 野口 勝, 大石 直樹, 小川 郁
    2019 年 62 巻 3 号 p. 235-239
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 聴覚過敏は, 日常的な音に対して過敏性や不快感を示す状態で, 外界からの音によらない耳鳴や, 自分の声のみが強く聞こえる自声強聴とは異なった病態を表すと考えられている。しかし, 過敏症状には「響く」,「大きく (強く) 聞こえる」など多彩な表現が存在するにもかかわらず, 各表現を分類して意義を検討している報告はない。そこで, 過敏症状を訴えた168名を対象に, 過敏症状の自覚的表現と疾患との関連や, これらの表現の臨床的意義について検討した。疾患の内訳は, 約3分の2が急性感音難聴で, 次いで加齢性難聴であり, 聴力検査上異常を認めない症例も 1割程度含まれていた。「響く」が最も多く,「響く」か否かを問診することは過敏症状のスクリーニングに役立ち,「割れる」や「二重に聞こえる」は感音難聴の存在を疑い,「大きく (強く) 聞こえる」は極めて軽微な内耳障害や, 聴覚中枢を含めた病態の関与を考える必要がある表現と考えられた。

  • ―耳内診察, 聴力検査, 質問紙調査による検討―
    鈴木 恵子, 梅原 幸恵, 井上 理絵, 秦 若菜, 清水 宗平, 佐野 肇, 中川 貴仁, 山下 拓
    2019 年 62 巻 3 号 p. 240-247
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 目的: 通所リハビリテーション (以下デイケア) 利用中の居宅高齢者の難聴の実態を明らかにする。

    対象: 介護老人保健施設のデイケア利用者74例 (78±8.1歳; 男42女32; MMSE 25.5±5.3, FIM 103.1±17.8)

    方法: 老健内で i. 耳内診察 ⅱ. 純音聴力検査を行い, ⅲ. 聞こえにくさの質問紙に本人, 家族が別個に回答した。

    結果: i. 耳垢栓塞を22例30%に認め, うち 7例は施設内で除去困難であった。 ⅱ. 58例78%に難聴があり (軽度31中等度27), 聴力と年齢に中程度の正の相関を認めた。検査では標準法に加え机上ボタン法, 玉おとし法を用い再現性ある反応を得た。玉おとし法群の MMSE, FIM 得点が他群と比べ有意に低かった。ⅲ. 悪条件下の語音で中等度群が他群と比べ聞こえにくさを強く感じていた。

    考察: 聴覚評価における耳垢への対応, 認知機能に応じた反応法の重要性が示唆された。中等度群が軽度, 正常群より聞こえにくさを認識しており, 補聴に向けた介入の可能性が示唆された。

  • 今川 記恵, 廣田 栄子, 小島 博己
    2019 年 62 巻 3 号 p. 248-256
    発行日: 2019/06/30
    公開日: 2019/07/17
    ジャーナル フリー

    要旨: 高齢期の人工内耳装用については, 高齢に伴う身体的変化などから, 高齢期特有の課題を有していると推察される。我々は, 高齢期人工内耳装用の実態と課題を明らかにするため, リハビリテーションを担当する言語聴覚士 (ST) に実態調査を行ったので報告する。対象は, 全国の人工内耳手術施設に所属する ST103名で, 郵送による質問紙調査を実施した。その結果, 32名より回答を得た。高齢者の特徴として, プログラミングにおける音質の評価と T レベルの測定, さらに操作, 装用では, プログラムの調節, 音量調整が困難であり, トラブル対応ではケーブル交換に課題を有していた。それらの課題は, 前期高齢者より後期高齢者でより困難と評価していた。個別状況の配慮については, 個別支援や家族や施設職員との連携体制を特に強化していた。80歳以上の高齢者では, 通院継続の困難さに課題も示され, よりきめ細かい支援の必要性が指摘された。

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