AUDIOLOGY JAPAN
Online ISSN : 1883-7301
Print ISSN : 0303-8106
ISSN-L : 0303-8106
63 巻, 2 号
April
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
会告
総説
  • ~エビデンスおよび本邦の現状と対応~
    高橋 真理子
    2020 年 63 巻 2 号 p. 109-114
    発行日: 2020/04/28
    公開日: 2020/05/23
    ジャーナル フリー

    要旨: 2019年5月に日本ではじめて耳鳴診療ガイドラインが発刊された。この耳鳴ガイドラインでは, エビデンスに基づき推奨されており, 認知行動療法は強く推奨されている。しかし, 日本ではうつ病などに対して認知行動療法は行われているが, 耳鳴に対してはまだ行われていない。

     日本で耳鳴に対する認知行動療法が行われていない理由の1つに, 海外では精神科医も耳鳴治療を行うという治療者の違いがある。また, 本邦では認知行動療法を行う精神科医も少なく, 認知行動療法が保険適応されているのは, うつ病など限られた精神疾患であることも要因であろう。現在, 慢性疼痛などへの効果など認知行動療法は注目されてきている。今後本邦においても耳鳴に対して認知行動療法が行われることを期待するとともに, 耳鼻咽喉科医ができる耳鳴の認知行動的介入 (アプローチ) として, 教育的カウンセリングや認知行動療法的アプローチをしっかり行っていくことが重要である。

  • ~マインドフルネス瞑想を耳鳴診療に応用する~
    森 浩一
    2020 年 63 巻 2 号 p. 115-121
    発行日: 2020/04/28
    公開日: 2020/05/23
    ジャーナル フリー

    要旨: 慢性耳鳴による困難の多くは, 注意を耳鳴から外せないことによる。耳鳴を不安に感じると注意が向き, 不安からストレス反応が起き, これが耳鳴と条件付けられると, 耳鳴自体が脅威になる。しかし, 耳鳴から注意を外すとストレス反応は生じない。耳鳴に対し, 認知行動療法 (Cognitive Behavioral Therapy, CBT) の有効性が示されている。近年は, マインドフルネス瞑想を含む CBT が普及しつつある。「マインドフル」とは,「今, ここで起きている事象に専ら注意が向いている」状態である。訓練では, 自然な呼吸に注意を向け, それ以外 (耳鳴や雑念) に注意が逸れたら, すぐに呼吸に注意を戻すように指示する。うまくできれば, 耳鳴が知覚されてもつらさが生じないという体験ができ, 注意の制御で耳鳴に対処できるという洞察が得られる。音響療法と組み合わせて, 自分で耳鳴に対処可能であることが理解されると, それ以上の通院が不要のことも多い。

原著
  • 清水 笑子, サブレ森田 さゆり, 伊藤 恵里奈, 川村 皓生, 吉原 杏奈, 内田 育恵, 鈴木 宏和, 中田 隆文, 杉浦 彩子, 近藤 ...
    2020 年 63 巻 2 号 p. 122-129
    発行日: 2020/04/28
    公開日: 2020/05/23
    ジャーナル フリー

    要旨: 補聴器外来を受診した60歳以上の117名において基本チェックリスト (Kihon Check List: KCL) を実施し, フレイルの有症率と, 聴力レベルとフレイルの関連項目を検討した。

     要介護者を除くフレイル有症率は26.5%だった。プレフレイル, フレイル, 要介護状態を合わせると約6割を占め, ロバストは約4割弱であった。聴力レベル別でみると, KCL 総合得点の平均値は難聴が進むほど有意に高かったが,年齢を調整すると有意ではなくなった。要介護を含めて KCL8 点以上の割合は, 難聴が進むほど有意に高かった。認知機能低下の割合と聴力レベルには, 有意な関連を認めなかった。一方, 運動器の機能と閉じこもりに該当する割合は難聴が進行するにつれて有意に高くなっていた。

     補聴器外来受診高齢者は, 約半数がフレイル・プレフレイルであり, 要介護状態を未然に防ぐための介入候補の集団であることが示唆された。

  • 菅原 充範, 廣田 栄子
    2020 年 63 巻 2 号 p. 130-139
    発行日: 2020/04/28
    公開日: 2020/05/23
    ジャーナル フリー

    要旨: 全国聴覚特別支援学校の 2~5歳児教師に, 担当幼児の言語発達状況および保護者の指導連携について調査した。99校中64校 (回収率64.6%) の教師258名の回答から聴覚障害幼児984名について検討した。その結果, 軽中等度難聴が28.1%, 高重度難聴71.9%であり, 重度難聴の69.4%で人工内耳を装用し, 75.2%は聴覚口話法と手話法等を併用していた。言語発達状況は, 2歳児では 1 歳未満~1 歳レベル児が69.4%であり, 学齢が上の児ほど4~5歳レベル児の割合が増えたが, 5歳児でも65.5%に留まった。保護者への指導目標は, 1 歳未満~1 歳レベル児の55.3%で2~3歳レベルの課題 (模倣誘導・発話修正) を, 4~5歳レベル児の84.3%に4~5歳レベルの課題 (語彙拡充・語義説明) が設定されていた。児の言語発達水準には, 教師の指導経験, 保護者への適切な目標設定が関与し, 専門性の向上と実践の蓄積, および保護者との連携の重要性が示唆された。

  • 内山 勉, 加我 君孝, 黒木 倫子, 伊集院 亮子, 天道 文子, 楠居 裕子
    2020 年 63 巻 2 号 p. 140-148
    発行日: 2020/04/28
    公開日: 2020/05/23
    ジャーナル フリー

    要旨: 聴覚活用による療育を受けた良聴耳平均気導聴力レベル (平均聴力) 90dB 以上の難聴児 (補聴器装用児 : HA 群25名, 人工内耳装用児 : CI 群41名) を対象に, 6歳時点で行った WPPSI 知能診断検査結果をもとに療育開始年齢と人工内耳装用年齢との関連を調べた。 その結果, ①療育開始が16ヵ月以前の HA 群の言語性 IQ (平均107) は, 療育開始2歳の HA 群の言語性 IQ (平均82) より有意に高かった。 ②療育開始が 0~1 歳で人工内耳装用が 1~2歳の CI 群の言語性 IQ (平均115) は, 療育開始と人工内耳装用が2歳以降の CI 群の言語性 IQ (平均99) より有意に高かった。 ③療育開始が2歳の場合, CI 群の言語性 IQ (平均99) は HA 群の言語性 IQ (平均82) より有意に高かった。 なお, 各群の平均聴力や動作性 IQ に差はなかった。 これらの結果から, 平均聴力 90dB 以上の難聴児は 0~1 歳からの療育開始と 1~2歳での人工内耳装用により, 6歳までに年齢相応の言語能力を習得できることが示された。

  • ―音響療法とカウンセリング, 言語聴覚士の役割―
    三宅 杏季, 柘植 勇人, 加藤 大介, 加藤 由記, 藥師寺 政美, 井脇 貴子, 曾根 三千彦
    2020 年 63 巻 2 号 p. 149-156
    発行日: 2020/04/28
    公開日: 2020/05/23
    ジャーナル フリー

    要旨: わが国の耳鳴診療は TRT (Tinnitus Retraining Therapy) をベースに発展した。

     TRT は, ①夜間の静寂回避に対する音響療法は, 具体的でないと苦痛がとれないことが多い。 ②難聴の耳鳴患者に対して補聴器は高い効果を得られるが, その活用は容易ではない。 という二つの課題が挙げられる。

     当院の耳鳴診療は音響療法 (主に夜間の静寂回避と補聴器) の具体的な工夫を行うとともに, その音響療法が適切に実施されるための段階的なカウンセリングに重点をおいている。 当院の耳鳴診療の課題と治療成績を検討した。 当院での治療成績は耳鳴患者66名の THI (Tinnitus Handicap Inventory) 点数の推移を検討した。 平均点は耳鼻咽喉科初診時―耳鳴専門外来初回間, 耳鳴専門外来初回― 1 ヶ月後間, 1 ヶ月後―3ヶ月後間において有意な減少を認めた。 「高度の苦痛」 患者 (58~100点) の割合は48.5%から6ヶ月後に4.5%まで減少した。 対象患者66名中50名 (75.8%), 特に高度の苦痛患者32名中26名 (81.3%) の改善を認めた。 夜間の静寂回避のための音響療法と補聴器が奏効したと考える。 耳鳴診療が適切に行われるには, 医師や言語聴覚士などの診療スタッフの連携が肝要であると実感している。

報告
feedback
Top