AUDIOLOGY JAPAN
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64 巻, 3 号
June
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • ―知っておきたい基本的事項―
    川瀬 哲明
    2021 年 64 巻 3 号 p. 217-227
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 難聴の診断では, 純音聴力検査や語音聴力検査などの心理音響学的検査に加え, さまざまな他覚的聴覚検査を上手く選択して診断をすすめることが重要となる。特に, 心理音響学的な評価が難しい乳幼児や機能性難聴診断などにおける他覚的な聴力 (閾値) 評価や, 聴覚系の各パーツの機能, 病態評価のためには, さまざまな他覚的聴覚検査が有用になることが少なくない。最近は, ボタン一つで検査が実施され, 検査結果を自動的に出力してくれる機器も少なくないが, 改めてその原理や反応特性を復習したり, 時には自分でパラメーターを調整して検査をしてみることは, 生理検査を使っていくうえでは重要なことである。記録波形の背景にある聴覚障害の病態を考える上で何かヒントを与えてくれることもあるし, 思いがけず興味深い所見を記録できるきっかけになることもある。本稿では, いくつかのトピックスを通して, 日常臨床で汎用されている代表的な他覚的聴覚検査の基本的な事項について概説した。

原著
  • 高橋 信行, 立入 哉
    2021 年 64 巻 3 号 p. 228-235
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 盲ろう者のうち, 60~70%は残存聴力を有している。本研究では1名の全盲難聴者に焦点を当て, 全盲に難聴が加わる上での移動や日常生活動作におけるオーディオロジーに関する困難さについて, 自由記述を得た。この結果, 単独歩行時, 介助歩行時, 日常生活動作時, 盲導犬利用時における音の課題と健聴全盲者との差別化の課題が挙げられた。この結果, 全盲難聴者が抱える補聴や,「音」に関する課題が明らかになった。

     全盲難聴者の補聴器の適用にあたっては, 器種の選定時から, ワイヤレス機能の使用希望を聞き, 日常生活上で残存聴力の活用が可能となる補聴器調整, 周波数特性, ラウドネスの測定結果に基づいた入出力特性, 指向性機能, 雑音抑制機能, 周波数圧縮変換機能など諸特性について微調整を行う必要があること, 全盲難聴者の補聴や生活支援にあたって, 適切な対応を行うことで, 全盲難聴者の QOL の向上を図ることができる可能性を示唆した。

  • 湯浅 哲也, 加藤 靖佳
    2021 年 64 巻 3 号 p. 236-244
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 本研究は, 聴覚特別支援学校小学部児童及び中学部・高等部生徒131名を対象に, 発話の速度調節の特徴を解明するために, 3種の速度での文章音読の発話音声を用いて音響分析を実施し, 比較検討を行なった。全発話時間で, 補聴器装用児は小学部低学年段階では Fast と Slow の間のみに差が見られたが, 高等部段階では3種類の速度間に差が見られた。また, 調音時間とポーズ時間の割合で, 学部ごとに裸耳聴力レベル別で比較した結果, 低学年では人工内耳装用群のみ, 高学年では80~99dB 群及び人工内耳装用群, 中学部は~79dB 群以外, 高等部では全ての群で Fast より Slow の方が有意にポーズ時間の割合が延長していることが示された。よって, 小学部低学年段階では発話の速度調節が困難であるが, 裸耳聴力レベルに関係なく高等部段階になると調音時間の短縮及びポーズ時間の延長による速度調節を行なうことが明らかになった。

  • 山本 弥生, 小渕 千絵, 麻生 伸, 城間 将江
    2021 年 64 巻 3 号 p. 245-251
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 有声および無声閉鎖子音の識別など, 効率の良い語音聴取には, 有声開始時間 (Voice onset time, VOT) の識別, いわゆる範疇化が関係すると考えられている。本研究では, 聴覚障害児の VOT 識別の特性について検討するため, 聴覚障害児15名 (平均年齢5歳4カ月, 標準偏差10カ月, 年齢範囲4歳3カ月~6歳9カ月), 同年齢健聴児29名を対象に, 半濁音/pa/を用いて, 無声閉鎖子音部分/p/の VOT を変化させ, /pa/から/ba/へと聴取が切り替わる識別閾, およびどちらにも範疇化されない曖昧な VOT 長 (識別幅) について, 補聴器装用群, 人工内耳装用群, 健聴児群で比較した。また範疇化成績と各要因 (測定時年齢, 装用開始年齢, 補聴機器, 語音明瞭度) との関係について検討した。その結果, 範疇化可能例については, 対象群間において識別閾および識別幅に有意差を認めなかった。また範疇化不良例と可能例の比較において, 範疇化成績と各要因との関係は認められなかった。範疇化は健聴児および聴覚障害児においても年齢の影響を受けやすい課題であったが, 聴覚障害児では年長児においても範疇化不良例が存在し, 年齢だけでなく難聴の影響がみられた。範疇化成績は語音明瞭度良好例においても不良な例が存在した。静寂下での単音節聴取とは異なる場面での聴取を反映している可能性が考えられた。

  • 山田 浩之, 太田 久裕, 今村 香菜子, 南 隆二, 中山 梨絵, 若林 毅, 上野 真史, 鈴木 大介, 大石 直樹, 新田 清一, 小 ...
    2021 年 64 巻 3 号 p. 252-259
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 当院では宇都宮方式聴覚リハビリテーションを取り入れて補聴器外来を行っており, 補聴器購入後も3カ月に1回, 補聴器再診外来で言語聴覚士が中心となり聴覚管理を行っている。再診外来が装用時間と満足度に与える影響と,「きこえについての質問紙2002」を使用した聴覚障害の包括的な評価の経時的変化について検討した。補聴器購入後6カ月以上経過し, 再診外来に定期的に受診をしている108例を対象とした。平均装用時間, 平均満足度はいずれも高値であったが有意に低下しており, 再診外来で聴覚管理を行っていても装用時間も満足度もある程度は低下することがわかった。「きこえについての質問紙」の下位尺度では「聞こえにくさ」が有意に増加し,「コミュニケーションストラテジー」は有意に低下していた。これは患者の聞こえに求めるレベルが上がっており,「聞こえにくい」と感じる場面が多くなっており, また克服しようと行動するようになったものと考えた。

  • 山田 浩之, 太田 久裕, 今村 香菜子, 中山 梨絵, 若林 毅, 大石 直樹, 小川 郁
    2021 年 64 巻 3 号 p. 260-269
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    要旨: アブミ骨筋性耳鳴とは, 顔面神経麻痺の後遺症の一つで, 神経再生時に表情筋支配の運動線維とアブミ骨筋神経線維が過誤支配を起こすことにより生じる。表情筋を動かすとアブミ骨筋が収縮し, 耳鳴として自覚する。非音響性アブミ骨筋反射検査とは, アブミ骨筋反射検査をマニュアルモードとし, 音刺激を使わずに (非音響性) 顔面表情筋運動をした時の外耳道内の等価容積の変化を測定する検査法である。簡便で再現性もあり, 優れた他覚的検査法と言える。アブミ骨筋性耳鳴は食事や会話といった日常生活における当たり前の楽しみが苦痛となっている。患者は重症顔面神経麻痺後であることが多く, 麻痺の残存, 病的共同運動, 耳鳴と日常生活を送るうえで3つの苦痛を有していることが多い。アブミ骨筋腱切断術により1つでも苦痛が無くなれば患者の生活の質は向上するため, 治療の選択肢として常に提示する必要がある。

  • 中西 啓, 喜夛 淳哉, 峯田 周幸
    2021 年 64 巻 3 号 p. 270-276
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    要旨: 当院の脳神経外科から術前評価のため受診した聴神経腫瘍患者38人を対象として, 聴覚と前庭機能について検討をおこなった。聴力型は, 高音障害型が10人, 谷型が7人と高音障害型と谷型が多かった。平均聴力と最高語音明瞭度を比較したところ, 平均聴力閾値が80dB 以下の症例では平均聴力に対する最高語音明瞭度は内耳性難聴患者とほぼ同じであった。また, 平均聴力と DPOAE の検出の有無について検討したところ, 内耳性難聴の場合にみられる妥当な DPOAE 反応パターンとされる Compatible type が多かった。これらのことより, 聴神経腫瘍患者の難聴は, 内耳性難聴が関与するものが多いと思われた。平均聴力と cVEMP の左右差の有無を検討したところ, 89%において左右差ありの所見が得られており, cVEMP は聴神経腫瘍患者の前庭機能低下を検出するために有効であった。

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