D-グルコースに蛍光基NBDを結合した2-NBDGは,D-グルコースの細胞内への取り込みの可視化に広く使用されている.私達は,哺乳動物細胞内に2-NBDGがグルコーストランスポーターを介して取り込まれることやその詳細を示し,次いで2-NBDGの陰性対照化合物としてL-グルコースにNBDを結合した分子2-NBDLGを開発した.2-NBDLGは通常細胞には取り込まれなかったが,マウス膵臓腫瘍細胞やヒト骨肉腫細胞,種々のがん患者から採取直後の悪性の腫瘍細胞や組織に取り込まれた.この取り込みはD/L-グルコースによる競合阻害を受けず,2-NBDGと2-NBDLGの両者を等しく輸送可能で,Phloretinにより阻害される特異的な取り込みであった.蛍光基をNBDからCoumarinに変更したCLGも2-NBDLGと似た輸送特性を示し,いずれもミトコンドリア膜電位の低下した腫瘍細胞に強く取り込まれ,鍵はL-グルコースにあるとわかってきた.更にCLGは腫瘍細胞内に取り込まれた後,核に取り込まれたため,L-グルコースががん特異的な治療薬の輸送にも役立つ可能性が出てきた.
世界的な食への関心の高まりと自然環境への負荷の懸念から減肥料・減農薬が求められている.日本国内でも『みどりの食料システム戦略』に記載されたことから,肥料でも農薬でもない第3の農業資材としてバイオスティミュラントが注目されている.バイオスティミュラントは生物刺激剤と直訳され,高温・低温・乾燥,塩ストレスといった環境 (非生物的) ストレスに対する作物の抵抗性を高め,その結果,収量や品質の向上を目指すことのできるものである.バイオスティミュラントのカテゴリーはいくつかあるが,その一つに腐植酸がある.当社は腐植酸製品を長年,製造・販売しており,多くの生産者に好評をいただくと共に,バイオスティミュラントの効果を研究室や現場レベルで確認してきた.本稿では,当社腐植酸製品で見られた事例の紹介と現在まで判明している知見について紹介する.
植物の生育は,地上部葉圏,地下部根圏,維管束輸送系内に生息する微生物の存在によって左右される.これらの微生物は,植物の成長,光合成,澱粉蓄積,開花,ストレス耐性等を促進する多数の揮発性化合物 (VCs) を合成することができる.近年,微生物の培養条件によっては,基本的に植物に有害な植物病原体が植物の生育や機能に有益な場合もあることがわかってきた.VCsはいくつかの代謝経路を脱調節することで生理機能の大きな変化をもたらすことから,作物の持続的生産の強化や環境変化に備えるための新たな戦略としてVCsを利用することが考えられている.しかしながら,VCsが関わる植物-微生物間の化学的相互作用,分子・細胞標的,植物の成長や体力に劇的な変化をもたらすメカニズムやネットワークについてはほとんど知られていないのが現状である.本稿では,VCsによる植物の成長,発達,代謝の変化の基盤となる主要な制御因子とそのメカニズムに焦点を当てる.また,作物収量を向上させるための革新的な農業技術・手法としてVCsシステムの利用に関するアイデアを提供することを目的としている.
本研究では,焼きいもの肉質が粉質系に近い「五郎島金時」と粘質系の「べにはるか」の生イモと蒸したサツマイモに含まれる遊離糖組成,澱粉の物理化学的な性質,及びβ-アミラーゼ活性を分析した.両試料共に生イモに含まれる遊離糖含量はスクロースが最も多かったが,蒸しイモに含まれる遊離糖含量はマルトースが最も多かった.収穫直後の「べにはるか」澱粉の糊化開始温度 (To) は「五郎島金時」澱粉よりも5 °C以上低い値を示した.一方,定温貯蔵後の試料については,両試料共にToは63 °C付近であった.収穫直後も定温貯蔵後も「べにはるか」澱粉の各RVAパラメーターは「五郎島金時」澱粉よりも低くなる傾向がみられた.両試料のβ-アミラーゼ比活性は60 °Cが最高値であったが,40~70 °Cにおける収穫直後の両試料のβ-アミラーゼ比活性に有意差はみられなかった.一方,定温貯蔵後の試料の場合,50 °Cと60 °Cの「べにはるか」のβ-アミラーゼ比活性は「五郎島金時」の3倍以上であった.以上の分析値を用いて主成分分析した結果,「べにはるか」の食味の発現にβ-アミラーゼ活性が,「五郎島金時」の食味の発現には,澱粉の物理化学的な性質が大きく寄与している可能性が示唆された.
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