応用糖質科学:日本応用糖質科学会誌
Online ISSN : 2424-0990
Print ISSN : 2185-6427
ISSN-L : 2185-6427
最新号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
巻頭言
総説―応用糖質科学シンポジウム―
  • 田上 貴祥, 佐分利 亘, 奥山 正幸, 森 春英
    2026 年16 巻2 号 p. 48-56
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    糖質加水分解酵素ファミリー15はGH分類が提唱された際に設立されたファミリーの1つであり,当初はアノマー反転型機構でα-(1→4)-グルコシドを加水分解するグルコアミラーゼのみで構成されていた.その後,反転型のグルコデキストラナーゼやトレハラーゼ,さらにはアノマー保持型のトランスグルコシダーゼが発見され,GH15酵素の多様性が明らかになってきた.我々は,イソマルトースに高い基質特異性を有するアノマー反転型酵素イソマルトースグルコヒドロラーゼを発見し,本酵素の反応特異性を特徴づけるPhe290残基の存在を明らかにした.また,デキストリンに作用してデキストランを生成するアノマー保持型酵素デキストランデキストリナーゼのX線結晶構造解析に成功し,アノマー反転型酵素において一般塩基触媒として機能するGlu残基が本酵素では求核触媒として機能する要因を明らかにした.本総説ではこれらの研究成果を中心に,GH15酵素の多様な基質特異性と触媒機構についての構造的洞察を紹介する.

  • クロフツ 尚子, 三浦 聡子, 藤田 直子
    2026 年16 巻2 号 p. 57-62
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    難消化性澱粉(レジスタントスターチ,RS)は消化されにくい澱粉であり,食後血糖値の上昇が穏やかになる.また,消化されずに大腸へ到達した澱粉は,食物繊維のように腸内環境の改善に貢献するため,その健康増進効果が世界的に注目されている.一般的な米のRS含量は1%未満であるが,アミロース含量が高いほどRS含量は高く,アミロペクチンの短鎖が少なく長鎖が多いほどRS含量が劇的に増加する.RS含量は調理法(生澱粉/糊化澱粉)や咀嚼の程度(表面積や塊の大小)だけでなく,イネを育成中の気温,特に開花から完熟までの登熟気温によっても多少変動し,収量などの農業形質に影響する.炊飯米の食味とRS含量は相反するため,美味しくRSを摂取できるように,米粉やゲルにすることで,その特徴を活かした用途開発を行っている. このような背景から,米澱粉のRS含量の制御に向けて,1)RS含量を増やすにはどのような澱粉構造が必要なのか,2)どの澱粉生合成関連酵素の発現を欠失もしくは促進すると,そのような澱粉構造になるのかについて,枝作り酵素(BE),枝切り酵素であるイソアミラーゼ1(ISA1),スターチシンターゼ(SS)などの酵素間のバランスに着目したイネの研究例を紹介する.

  • 三ツ井 敏明
    2026 年16 巻2 号 p. 63-71
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    イネのα-アミラーゼは,他の穀類α-アミラーゼには見られないアスパラギン結合型糖鎖を有し,糖鎖構造が異なる数十種類のプロテオフォームが存在する.その糖鎖の有無は酵素熱安定性に関与し,イネα-アミラーゼの特徴的な耐熱性をもたらしている.発芽イネ種子においては,胚盤上皮細胞および糊粉層細胞でα-アミラーゼが生合成され,澱粉貯蔵組織の胚乳に分泌され,貯蔵澱粉の分解が行われる.α-アミラーゼの発現や分泌は植物ホルモンのジベレリンとアブシシン酸の量比バランスによって調節されている.この発芽穀類種子における貯蔵澱粉の分解は植物全体から見た澱粉分解生理においては特殊な事象である.通常,澱粉の代謝は細胞内小器官プラスチドで行われる.私達は,生理・生化学・分子生物学やバイオイメージングの手法を駆使して,分泌性糖タンパク質であるイネα-アミラーゼ(AmyI-1)が分泌経路からゴルジ装置を経てプラスチドに輸送・局在化して機能することを見いだした.この発見が,高温登熟によるコメの品質低下にα-アミラーゼが関わること,そして澱粉代謝制御による高温登熟耐性コシヒカリの開発につながった.

  • 松沢 智彦
    2026 年16 巻2 号 p. 72-77
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    黄麹菌Aspergillus oryzaeは様々な多糖類分解酵素を生産することで植物の細胞壁を分解している.これらの多糖類分解酵素の発現は様々な転写制御因子によって緻密に制御されており,これにより黄麹菌は植物が生産する多糖類の複雑さに適応していると考えられる.さらに,黄麹菌の種内には醸造特性の異なる様々な株が存在しており,黄麹菌とその多糖類分解酵素は多様性に富んでいる.本稿では,筆者らがこれまでに明らかにした固体培養時に発現する黄麹菌の多糖類分解酵素やこれらの多糖類分解酵素の生産性における黄麹菌の種内多様性について紹介する.

  • 矢野 成和, 武井 勇樹, 齊藤 穂花, 髙橋 将毅, 苔口 進
    2026 年16 巻2 号 p. 78-85
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    真菌細胞壁の内層は,キチンやβ-グルカンから構成されており,細胞構造を維持する役割を担っている.細胞壁の外層は,α-1,3-グルカンや細胞外マトリクス等で構成されている.我々は,真菌細胞壁構成多糖を加水分解する酵素の探索を行い,その研究の過程で,Schizophyllum commune(スエヒロタケ)細胞壁を分解する事ができるBacillus circulans KA-304を得た.本菌は,様々な多糖分解酵素を生成するが,GH87 α-1,3-グルカナーゼAgl-KAとGH19キチナーゼCHI1がスエヒロタケ細胞壁の分解に必須な酵素であることが明らかになった.これら酵素はマルチドメイン構造を有する酵素であり,多糖結合ドメインを有することが明らかになった.また,Agl-KAとCHI1の多糖結合ドメインと緑色蛍光タンパク質の融合タンパク質(AGBD-GFP,ChiBD-GFP)は,真菌細胞壁に結合することも明らかになった.これら酵素以外にもLysobacter sp. MK9-1株からGH16 β-1,3-グルカナーゼBgluC16MK,Flavobacterium sp. EK-14株からGH87 α-1,3-グルカナーゼAgl-EK14を得た.本研究では,上記細胞壁多糖分解酵素を用いた表層多糖の分解と,各種多糖結合ドメインと蛍光タンパク質の融合体による蛍光染色を組み合わせることで,細胞壁表層の多層構造を解析できることを明らかにした.

  • 深見 健, 末廣 大樹
    2026 年16 巻2 号 p. 86-91
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折リスクを増大させる疾患である.近年,顔面骨密度は腰椎や大腿骨よりも早期に低下することが報告されており,見た目年齢や美容への影響が注目されている.顔面骨は付加骨であり,腰椎などの置換骨に比べ骨吸収されやすく,血中カルシウムが不足時に優先的に分解される.これまでの疫学研究では,顔面骨密度は40歳台から減少し,加齢にともなう「骨やせ」が顔の形態変化を引き起こすことが示されている.マルトビオン酸はグルコースとグルコン酸がα-1,4結合した難消化性二糖であり,カルシウム溶解性を高める特性を持つ.食事とともに摂取することで,カルシウムをはじめとするミネラル成分の吸収を促進することが確認されている.また,閉経後女性を対象とした試験では,骨吸収マーカーDPDの低下や,骨密度維持効果が確認されている.本稿では,マルトビオン酸の継続摂取が,骨粗鬆症予防と美容の両面で有効な戦略となり得ることを紹介する.

ミニレビュー―応用糖質フレッシュシンポジウム―
  • 内海 好規
    2026 年16 巻2 号 p. 92-96
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    キャッサバ(Manihot esculenta Crantz)は熱帯・亜熱帯地域で広く栽培される重要な澱粉資源作物であり,その澱粉は独特のもちもち性を特徴とする.この澱粉の生合成システムは植物間で高度に保存されているにもかかわらず,澱粉の性質には明確な植物種特異性が存在する.本稿では,キャッサバ塊根における澱粉生合成機構について,主に澱粉合成酵素(SS)および枝作り酵素(SBE)の機能解析から得られた知見を紹介する.SBEがアミロペクチンの分岐構造に与える影響はイネやジャガイモと類似のパターンを示す一方,SSの一つであるSS2型の欠損によるクラスター構造形成への寄与や澱粉粒形態の変化は植物種ごとに異なっていた.一方,澱粉形質の改変を含むキャッサバの分子育種を推進するため,培地組成の最適化によりキャッサバ形質転換系を構築し,ゲノム編集による遺伝子機能解析を可能にした.加えて,交配育種に向け,福山大学においてキャッサバの開花誘導にも成功した.これらの澱粉改変技術と花成制御研究の進展は,基礎研究の知見を新品種の開発へとつなぐ分子育種基盤の構築を目指している.

  • 松本 茜
    2026 年16 巻2 号 p. 97-102
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    食品の「おいしさ」は,原材料の特性だけでなく,調理や保存といった加工過程において生じる物理的・化学的・生物学的変化の積み重ねによって形成される.本稿では,糖質系食品であるピッツァクラストの調理過程と,水産食品の保存過程を対象に,調理科学的視点から「おいしさ」がどのように形成・変化するのかを整理した.ピッツァクラストでは,生地設計や焼成条件が水分状態や内部構造の形成に影響し,それが最終的な食感として知覚されることを示した.加えて,水産食品では,保存条件の違いが微生物群集の変化や代謝に影響し,においを中心とした品質変化につながることが示唆されている.これらの事例から,調理および保存操作は単なる工程ではなく,食品内部の状態を段階的に変化させる操作として捉えられること,官能特性を理解するためには多面的な評価が重要であることが示された.本稿は,異なる食品分野の知見を通して,加工・保存過程における品質形成の考え方を整理することを目的とする.

  • 南平 眞実, 上田 晃弘
    2026 年16 巻2 号 p. 103-106
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    世界各地で塩類土壌が拡大の一途を辿る中,農業生産性の低下をもたらす塩害は,解決すべき甚大な課題となっている.広大な塩類土壌の土壌改良は現実的ではないため,植物の塩類耐性機構の理解を通じた塩類耐性向上が求められている.塩類土壌は,その性質により塩性土壌,ソーダ質土壌,塩性-ソーダ質土壌に分類される.中でも塩性ソーダ質土壌では,浸透圧,イオン,酸化ストレスから構成される塩ストレスに加えて,土壌のアルカリ化に起因するアルカリストレスの影響も受けるため,植物の栽培は極めて困難である.筆者らはこれまで,異なる塩・アルカリ耐性を有する2種類のイネ品種を用いて塩類ストレスに対する生理応答を解析してきた.両イネ品種は塩・アルカリストレスにより,塩ストレスよりも深刻なナトリウム過剰とカリウム欠乏を引き起こした.それに伴って,塩・アルカリ処理下において可溶性糖類の濃度を増加させることが示された.この塩・アルカリ処理下における可溶性糖類蓄積は,植物の塩類耐性機構における,浸透圧調節,タンパク質立体構造の安定化,酸化ストレスの軽減,という3点において寄与していると考察される.

  • 原 美香
    2026 年16 巻2 号 p. 107-110
    発行日: 2026/05/20
    公開日: 2026/07/08
    ジャーナル 認証あり

    近年,全国的な異常気象により作物の高温障害が発生している.清酒業界も例に漏れず,高温障害により蒸米が溶けないという現象に見舞われていて対応に各社苦慮している.清酒製造において酒米の溶解性は目的とする酒質に影響を及ぼすため,酒造現場からは,「目の前の酒米を使用した蒸米の溶けやすさを知りたい」,「仕込開始時期での苦慮を軽減させたい」といった要望がある.しかしながら,酒米研究会による酒造用原料米全国統一分析値の公表は,仕込開始時期より後となっており,また各社が実際の製造で使用する酒米ではないため,分析値は参考程度とされているのが現状である.仕込開始時期より前に酒米の溶解性を把握することが出来れば,製造管理に対して早期に反映することができる.本稿では,迅速分析法として酒米の澱粉特性を把握できるラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA:Rapid Visco Analyser)に着目し,全国各地の酒造会社で実際の製造に用いられている酒米10種類の分析を行い,酒米の品質(溶解性)評価方法について検討した.現時点ではデータ取りを開始したところであるため,継続して分析を行い,現場での蒸米の溶けやすさの評価と併せて年次間比較をしていく.

製品紹介
支部たより«定期便»―北から南まで
学会記事
会告
Journal of Applied Glycoscience Vol. 73 No. 2
編集後記
feedback
Top