微生物は優れた酵素の宝庫であり,これまでに数多の酵素が微生物から単離されてきた.しかし,環境中に存在する微生物の多くは単離・培養することが困難な微生物であり,それら単離・培養が困難な微生物の遺伝子資源はこれまでほとんど活用されてこなかった.メタゲノム法は環境中の微生物のゲノムDNAを微生物の単離・培養を経ることなく利活用する方法であり,単離・培養が困難な微生物も遺伝子資源として利用することができる.本総説では,これまでに筆者が培養法によって単離したキシログルカンの分解に関わるイソプリメベロース生成酵素とメタゲノム法によって単離したセルロース系バイオマスの酵素糖化を促進する酵素について紹介する.
微生物発酵によるグリセロール生産を目指し,グリセロール生産菌Candida versatilis SN-18の高糖濃度条件下におけるグリセロール生成機構を解析した.本酵母は,浸透圧ストレス条件下のグリセロール生成に必須であるglycerol 3-phosphate dehydrogenase(GPD)をコードするCvgpd1 およびCvgpd2 を有しており,それらはゲノムDNA上に直列かつ近接して存在していた.Cvgpd2は溶質の種類にかかわらず常に一定の発現を示した.一方,Cvgpd1はNaCl存在下では直ちに転写が誘導されるのに対し,20%グルコース存在下では培養72時間までに徐々に誘導された.いずれもCvgpd1の誘導に伴ってグリセロール生産量が増加したことから,Cvgpd1が本酵母のグリセロール生産に重要な役割を果たしていることが明らかになった.さらに,それらの結果は,溶質の種類や培養時間の増加によってもグリセロール生産が制御されていることも示した.本研究で明らかになった本酵母のグリセロール生成機構は,これまでの浸透圧ストレスと関連付けたグリセロール生成機構とは異なる機構の存在を示唆した.
糖質は,細胞内において,ATP生産の源として,また,細胞や生体分子の構成要素として利用されるだけでなく,シグナルとなり伝達されることによって細胞増殖や代謝などの細胞生理が適切に制御調節される.ヒトでは,細胞外からの糖質の取り込みや細胞内シグナル伝達の不全は,がんや糖尿病などの重要疾患を引き起こす.筆者らは,細胞外環境に応じて細胞増殖を変化させる真核生物である出芽酵母を用いて,栄養伝達・細胞応答の制御調節に関わるメカニズムの解明に取り組んできた.本稿では,出芽酵母における,細胞外の糖質の取り込みから細胞内糖鎖の代謝分解に至るまでの分子機構について,これまでに得てきた知見を紹介する.具体的には,以下の2つの内容である.1)出芽酵母は,細胞外環境の栄養源の枯渇に応じて,細胞内のマンノシド糖鎖を活発に代謝分解することを見出し,その分子機構を明らかにした.2)出芽酵母の種々の遺伝子欠損株について,細胞内マンノシド糖鎖の代謝分解活性の変化を定量解析することによって,細胞外グルコースの効率的な取り込みと栄養応答に関わる新規の膜機能分子を同定した.
希少糖とは自然界にごくわずかにしか存在しない糖類の総称であり,一部の希少糖にはがん細胞の増殖抑制効果,食後血糖値の上昇抑制効果などの生理活性が見出されている.我々は,希少糖生産酵素の1つであるケトース3-エピメラーゼについて研究を行っており,Mesorhizobium loti由来の新規L-リブロース3-エピメラーゼ(L-RE)を見出した.既知のケトース3-エピメラーゼがケトヘキソースに最も高い活性を示すのに対して,L-REはケトペントースに高い活性を示し,また熱安定性が高いことが明らかとなった.L-REを結晶化し,X線回折実験に供して2.7Åの分解能で構造を決定した.ホモテトラマーであるL-REのモノマーの構造は,構造既知のケトース3-エピメラーゼとよく類似していたがC末端領域のα-ヘリックスが長くなっており,隣接するサブユニットとこの部分の間に形成された特異的な相互作用が,L-REの高い熱安定性に寄与していることを明らかにした.また活性部位の構造を比較した結果,L-REの活性部位キャビティの体積が他の酵素より小さいことが,L-REのケトペントースに対する高い活性の要因であると推測された.
主にシリアルやスナック等の膨化食品の製造・加工に利用されているエクストルーダーについて,当社の澱粉加工における利用例を紹介する.利用例の1つ目として,澱粉の「比重コントロール」を挙げる.食品加工において澱粉を液体へ懸濁して使う場合,澱粉が沈澱して分散せず,保水効果や食感改質効果が満足に発揮されない場合がある.エクストルーダーを用いれば,澱粉を造粒して比重を制御することが可能であるため,液体中での澱粉の分散性を改善することが可能である.また,2つ目に,澱粉への「膨化構造・食感の付与」を挙げる.澱粉は保水性に優れる一方,添加した最終食品の食感が均一化する点が課題となる場合がある.そこで澱粉を加熱加圧することで膨化構造物を得られるというエクストルーダーの性質を利用して,最終食品の外観に違和感のない範囲で膨化物の形状を粗く調整することで,添加した食品の食感の均一化を抑えつつ,澱粉の保水性を付与することができる.また,得られた澱粉の膨化構造物は,内部に気泡構造を有する形になり,スポンジのような吸水特性を持たせることも可能である.
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