熟練運動の最適性は, タスクを達成できるような運動の選択肢が複数存在することを前提として議論されることが多い. しかし, 鉄棒運動の場合, 手と鉄棒との間には摩擦トルクのみが働き自由に駆動トルクを加えられないという拘束を受けるため, 初期姿勢から終了姿勢に至る運動にどのような選択肢が存在するのか (運動選択の冗長性) を, 明確に想像するのは容易ではない. 本研究では, 体操選手の運動の計測データとの整合性を考慮しつつ, 「け上がり」 や 「後方車輪」 を簡単な剛体3リンクによってモデル化し, 駆動関節角度の時間変化をスプライン関数やフーリエ級数を用いて表現した上で, これらの技の背後にある運動の冗長性の一部を, スプライン関数やフーリエ級数のパラメータの集合として, 明確に定義した条件下で一意に求める方法を提案する. 数値解析によって, これらの技の背後にある運動の冗長性の一部を実際に計算できることを示し, その結果から, これらの技を達成できるような運動は少なくとも無視できない程度に冗長に存在していることを示す. さらに, 求められた運動の冗長性を表すパラメータ集合と, その中で体操選手が選択する運動との関係を, 最適性の観点から検討する.
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