バイオメカニズム
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21 巻
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1部 QOL
  • 山崎 信寿, 望月 憲之
    2012 年 21 巻 p. 11-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    移乗介助用リフトは介助者の腰痛予防に有用であるが, スリング付け外し時の体位変換や車椅子での座り直し介助などの介助者負担と, 吊り上げ時の被介助者圧迫痛や心理的不快感などの問題があった. このため, 被介助者とベッド面および車椅子座面との接触圧分布を計測し, 肩甲棘部などの高圧部位を避けて仰臥位や座位のまま身体の下に差し込め, 身体を広く支持できるスリングを開発した. また, 仰臥位から座位までの姿勢変換中に被介助者の重心位置が変動しないハンガー条件を求め, 手動で姿勢変換可能なハンガー機構を開発した. これらを市販のリフトに取り付けて評価した結果, ベルト型スリングに対して作業時間は11%, 腰椎への負荷は24%軽減した. 座り直し介助も不要となり, 被介助者の圧迫痛と恥ずかしさや不安感も改善した.

  • 安藤 健, 岡本 淳, 高橋 満, 藤江 正克
    2012 年 21 巻 p. 21-32
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    終末期において, がんは主に脊椎に転移し, 患者が寝返り動作など脊椎の回旋動作を含む運動を行った際に, 非常に激しい疼痛が生じる. 疼痛を防ぐ体幹装具は, 常時体幹の全自由度を拘束し, 強く圧迫するという問題がある. そのため, 終末期における最期の自立動作である寝返り動作時のみ体幹回旋の自由度を拘束可能な機器を開発し, 疼痛なく寝返り動作を行いやすい環境を作ることが必要とされている. これまでに, 筋電信号から寝返り動作を事前に認識し, 寝返り時のみ回旋を抑制する寝返り支援装具の開発を行ってきた. 本稿では, 体幹回旋制限機構に関して, 体幹回旋運動のモデル化を行い, そのモデルにもとづき人工筋を用いたプロトタイプを開発し, 最後に評価試験において既存の体幹装具と同程度の回旋制限性能を確認したので報告する.

  • 佐々木 誠, 荒川 峻之, 中山 淳, 山口 昌樹
    2012 年 21 巻 p. 33-42
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    筆者らは, 重度障害者の自立的な生活支援を目的とし, 頸髄損傷などにおいても運動機能が残存しやすく, 自由度の高い随意運動が可能な 「舌」 に着目したインタフェースの開発を行っている. 本研究では, 単極誘導法により導出した下顎底部9カ所の表面筋電位から36通り (=9C2) の2点間電位差を算出し, 舌骨上筋群が密集した下顎底部全体の筋活動と舌運動とをニューラルネットワークで関連付けることにより, 口腔内に押しつけた舌の位置と力の同時推定を行った. その結果, 三角形状に配置した多チャンネル電極の貼付位置を並進方向に5mm, 回転方向に10度ずらした場合でも, 相関係数0.9以上, 平均自乗誤差10%以下の精度で舌の位置と力を推定できることが確認された. また, 誤推定を誘発する恐れのある嚥下, あくび, 開口動作をニューラルネットワークで識別し, マスク処理を施すことにより, 随意運動の推定誤差を90%以上も低減でき, 下顎底部の表面筋電位から舌の随意運動のみを正確に抽出できる可能性が示唆された.

  • 伊藤 慶一郎, 菅野 重樹, 岩田 浩康
    2012 年 21 巻 p. 43-53
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    内出血を呈した高緊急度外傷患者の救命には, 出血性ショックの原因となる血液貯留を探索する迅速簡易超音波検査 (通称 : FAST) が重要となる. さらに救急搬送下あるいは現場において, 医師による遠隔操作のもと, FASTを施せる小型でポータブルな診断システムがあれば, 外傷患者の死亡率は飛躍的に低減できると考えられる. そこで本研究では, 内出血患者の早期診療を支援すべく, FASTが可能で, 患者の体幹に直接装着できるロボットシステムを開発したので報告する. 本稿で提案する新たな救急医療シナリオ, および体幹装着技術, 超音波プローブの駆動メカニズム, 小型・軽量化技術は, 場所を限定しない超音波診断の実現に寄与しえ, 救急医療の限界を大きく変革し得る新たな救命支援ツールとして普及する可能性を, 社会に強く訴えるものになると考えられる.

  • 野間 知一, 松元 秀次, 下堂薗 恵, 川平 和美
    2012 年 21 巻 p. 55-64
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は三次元動作解析装置を用いて手指, 手関節の屈伸反復運動を解析した片麻痺上肢機能評価法 (以下, 三次元上肢評価法) の妥当性と信頼性を検討するものである. 慢性期脳卒中患者9名を対象に三次元上肢評価法と標準的な上肢機能評価法との相関関係ならびに別日に測定した値間の級内相関を求めた. また3名の脳卒中患者に3種の介入を実施し, 従来の評価に追加して三次元上肢評価法を介入前後に施行した. 三次元上肢評価法は従来の評価との相関 (0.87>r>0.57) が高く, 再現性にも優れていた (intraclass correlation coefficient>0.96). また痙縮による運動障害や運動の拙劣さなどの臨床的特徴も反映された. 三次元上肢評価法は, 妥当性と信頼性を有し, 臨床的有用性が確認された.

  • ─個別対象によるオーファン・プロダクツの開発─
    井上 剛伸, 塚田 敦史, 酒井 美園, 坂上 勝彦, 諏訪 基
    2012 年 21 巻 p. 65-77
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    重度障害者を対象とした福祉機器は, オーファン・プロダクツと呼ばれ, 利用者が少ないが故の多くの課題が指摘されている. 一方で, 重度障害者に先端技術を適用することで, 利用者の自立 (律) を飛躍的に高める効果が期待できる. 本研究では, このような重度障害者を対象とし, 個別対象開発指針を提案し, 利用対象となる当事者が初期段階から参加することにより, 効果的な機器開発を行った. 開発対象は, 音声検出・認識, 画像検出・認識, 筋電検出・認識, 力覚検出・認識技術を応用した4種類の電動車いすである. 脳性マヒ者, 筋疾患患者による試用評価の結果から, 開発した電動車いすの効果が示され, さらに開発プロジェクト終了後に実施した開発者への調査結果より, 当事者関与の有効性が示された.

2部 感覚
  • 土井 幸輝, 藤本 浩志, 和田 勉, 佐川 賢, 伊藤 納奈
    2012 年 21 巻 p. 81-91
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究では, アクセシブルデザインの観点から点字の読めない視覚障害者が利用できる触知記号や浮き出し文字の普及に向けて, それらの大きさが識別容易性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし, 触知記号や浮き出し文字の識別実験を行った. 具体的には, 中途視覚障害者を利用者として想定し, 晴眼者 (若年者, 高齢者) に手元が見えない状態で触知記号や浮き出し文字を識別する実験に参加してもらった. また, 実験に必要な大きさの異なる触知記号や浮き出し文字のテストピースを用いた実験により, 触知記号や浮き出し文字の大きさと識別容易性の関係を調べた. その結果, 若年者や高齢者のいずれも触知記号の大きさが12 [mm] においてエラー率がおよそ0%に収束し, 16 [mm] であれば, エラー率も低くおよそ5秒で識別できることがわかった. アラビア数字とカタカナ文字のいずれも, 高齢者には制限時間10秒という条件下において, 24 [mm] では正確に識別することが難しい文字であることがわかった.

  • 川村 拓也, 田中 直樹, 谷 和男
    2012 年 21 巻 p. 93-102
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    本稿では, ヒトの指の触運動の方向が10μm程度の微小段差を弁別する能力に与える影響が調査された. 本研究では, 心理物理実験によりヒトの触感覚認識能力を測定するため, 微小段差の段差量, 呈示速度, 呈示角度, 呈示温度を制御可能な微小段差呈示装置が開発された. 実験では, 微小段差刺激対が被験者の指先先端部あるいは指腹部に呈示され, このときの段差の呈示方向は, 指の長手方向に対して垂直方向あるいは平行方向として, 刺激対の呈示方向が同じ場合と異なる場合について調査された. 本実験では, 7.2μmから12.8μmの微小段差を弁別する能力が測定されて, その結果から, 指先への刺激の呈示方向が触感覚認識能力に影響を与えることがわかってきた.

  • 豊田 航, 土井 幸輝, 藤本 浩志
    2012 年 21 巻 p. 103-112
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    本研究では, 視機能が低下した高齢者及び視覚障害者における消費生活製品の操作性向上に寄与する凸点の高さの条件を明らかにすることを目指し, 携帯電話における操作の仕方と凸点の高さがその操作性に及ぼす影響の関係を評価することを目的とした. 本実験では, 中途失明の一般ユーザーを想定して, 手元を遮蔽した晴眼若年者と晴眼高齢者に対して, 高さが異なる凸点が5番キーに付された携帯電話を, 人差し指による両手操作をさせる実験を行った. さらに, 本実験で新たに収集した人差し指による両手操作の結果と, 先行研究の親指による片手操作の結果を比較することで, 各操作の仕方における凸点の高さが携帯電話の操作性に及ぼす影響の違いを分析した. その結果, 人差し指と親指の各操作において, 若年者と高齢者のいずれも, 凸点の高さが0.3 [mm] の条件は, それよりも高さが低い条件と比べて早く正確に操作した. 一方, 親指による片手操作では, 凸点が0.3 [mm] よりも高くなるにつれて操作時間とエラー率が増加したが, 人差し指による両手操作ではこうした凸点の高さの増加に伴う操作時間とエラー率の増加が認められなかった. これらの結果の相違は, 両手操作と片手操作における手指の動作の違いに起因すると考えられる.

  • 浅野 裕俊, 井出 英人
    2012 年 21 巻 p. 113-120
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    食品業界では消費者の味嗜好に関する研究が行われている. 一般的な官能評価は消費者の期待する味を表現する上で重要であるが主観評価である. また, 味覚センサも主に食品特性に限定されており, 客観評価には至っていない. そこで, 本研究では近赤外分光法を用いて味嗜好を評価した. 本手法を用いた味嗜好の評価例は殆ど報告されていないことから, 客観評価の可能性について検討した. 具体的には, 喉の渇きの違いによる生理的欲求の違いが客観評価に与える影響について検討した. 実験の結果, 前頭葉の脳活動と味嗜好との間に関係性があることがわかった. また, 重回帰分析法を用いることで心理的嗜好を酸素化ヘモグロビン濃度から推定するモデルを構築し, 真値と推定値との関係性について検討した. その結果, 高程度の正相関が得られ, 生理特性の違いにかかわらず, 本手法が味嗜好を客観評価するための手段として有効であることが示された.

  • 大西 謙吾, 永田 和之
    2012 年 21 巻 p. 121-131
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    切離力覚シミュレータの研究として演算モデルベースのシミュレータがあるが, 計算速度の制約などで不自然さの課題が残る. 本研究では, 実際の切離作業にて, メス刃先と対象の力学的相互作用を記録でき, 記録データと作業中の測定データとの差分をコンピュータ・グラフィクスにて提示するシステムを試作し, 基礎実験を行った. まず, 3種のゴムシートをメスでなぞる際の力学的相互作用を計測し, 測定量の変位, 作用力とその組立量の分析結果から材料間の特徴を示し得ることを確認した. さらに, ビニルテープの切離課題において, 見本データと実作業の違いの視覚フィードバックを行うことで, 試行間のばらつきを抑制できる傾向が確認された.

3部 運動
  • 西浜 里英, 山崎 信寿
    2012 年 21 巻 p. 135-144
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    ヒトの足は歩行中に大きく変形し, これが足と靴の適合性を低下させる要因のひとつになっている. 本研究では, 3次元デジタイザで計測した静止立位時の足形状メッシュを, 8台のカメラで撮影した20の足骨格特徴点位置に合わせて変形することで, 歩行中の足部骨格運動と足表面形状の同時計測を行った. また, 透明な甲素材と円形標点を使用することで, 靴歩行時の足変形も計測もできるようにした. 皮膚表面上に貼り付けた標点位置と骨格位置を超音波画像診断装置で計測した結果, 踵挙上時の標点位置と骨格のずれは楔状骨点で骨軸方向に最大6mmであったが, 関節角度への影響はほとんどなかった. 裸足歩行とヒール高50mmのサンダル歩行時の足変形を計測した結果, ヒール高によって骨格姿勢は変化するが, 縦アーチ変形に伴う屈伸方向の関節運動や体表面積変化率の変化傾向は裸足歩行時とほぼ等しいことがわかった.

  • 田中 英一郎, 瀬戸口 隼, 森 崇, 三枝 省三, 弓削 類
    2012 年 21 巻 p. 145-156
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    全身動作である歩行を補助するモビルスーツ型全身動作補助機を開発した. 本装置は, 上肢補助部と下肢補助部をモジュール化しているため分離ができ上下肢単体でも使用可能である. 同時に, 装着者および装置の両方を個別に免荷可能な走行リフターを開発し, これらを併用することにより転倒防止を図り, 移動しながら歩行障害患者の上下肢を使った歩行動作のリハビリテーションを可能とした. 本論文では, ニューロリハビリテーションでの使用を想定し, 歩行動作を上肢・下肢共に補助する全身動作補助機を製作し, 本装置を使用して歩行したときの脳活動の変化を把握し, 運動学習に対する有用性を検討したので報告する.

  • 中島 康貴, 安藤 健, 小林 洋, 二瓶 美里, 藤江 正克
    2012 年 21 巻 p. 157-166
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    超高齢社会に突入した日本において,高齢者の自立した生活を支援する機器の開発が重要である. これまでに筆者らは, 「介護予防」 と 「移動支援」 を両立する革新的な移動支援機として, Tread-Walk 2 (TW-2) を開発している. TW-2は, トレッドミル上の歩行で操作を可能とした直感的な操作性を有している. 本論文では, TW-2の操作性の課題を解決するための制御として, 平地のように加減速歩行が可能なトレッドミルの制御手法の開発を行った. 今回構築した制御アルゴリズムの評価として, トレッドミル上で加減速歩行した際の速度変化と床反力を計測する実験を若年健常者で行い, 従来の制御アルゴリズムと比較した. その結果, 今回構築した制御アルゴリズムでは, 搭乗者の蹴り力に応じてトレッドミルの速度が変化していることが分かり, 本手法の有効性を確認した.

  • 藤川 智彦, 百生 登, 鳥海 清司, 大島 徹
    2012 年 21 巻 p. 167-177
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    ヒトや動物は一般的なロボットのような1つの関節に1つのアクチュエータのみによる運動制御ではなく, 2つの関節を同時に駆動させる二関節筋を含めた対となる拮抗筋ペアの協調活動により, 四肢先端の粘弾性と発生する力を制御している. そこで, 我々は各関節の一関節筋だけでなく, 二関節筋も含めた筋配列を基準に単純化した下肢のリンクモデルを提案し, 下腿部後面の二関節筋である腓腹筋の平行リンク機構が安定した跳躍に大きく関与することと, 大腿部の三対6筋の協調的な収縮機構が踵着床における力の吸収に貢献することを明らかにした. この機能を有した下肢の実験用モデルはリンク先端の詳細な情報無しに跳躍・着床が可能であり, ヒト下肢に近い跳躍特性および着床特性を有していることがわかった.

  • 林 豊彦, 川田 充洋, 中嶋 新一, 井上 誠, 前田 義信
    2012 年 21 巻 p. 179-191
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    ヒトの顎運動メカニズムの理解を深めるために, 我々はヒトに近い解剖学的構造と生理学的制御系をもつ自律顎運動シミュレータJSNを開発してきた. 我々ははじめに, 咀嚼の効率化に有効と考えられている, 1) 与えられた食片の剛性に応じた噛み分け, 2) 咬合力のフィードフォワード制御, 3) 咬合力と顎関節負荷の調節の3つをJSN/3に実装することにより, 咀嚼運動シミュレータJSN/3Xを開発した. JSN/3による咀嚼実験では, 硬い被検食片としてプラスチック製消しゴムを, 軟らかい被検食片としてスポンジ製耳栓を用いた. 咬合力条件は, 咬合相における咬筋・内側翼突筋の最大張力の非咀嚼側/咀嚼側比を0.8ないし0.4とした. 実験の結果, 食片弾性に応じた噛み分けは咀嚼効率の向上に, フィードフォワード制御は咬筋・内側翼突筋を主体とした自然で効率的な噛みしめに有効であった. さらに, 非咀嚼側の咬筋・内側翼突筋活動には, 咀嚼側の咬合力と顎関節負荷の両方を調節する機能が特に硬い食片咀嚼時に認められた.

4部 筋・骨格
  • 宇佐美 洋佑, 宮原 佐和, 内山 孝憲
    2012 年 21 巻 p. 195-205
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    誘発筋音図の伝達関数を用いて筋力学特性の刺激頻度依存性を明らかにすること目的とする. 健康な男性7名を対象に, 総腓骨神経を電気刺激して前脛骨筋の収縮を誘発した. 電気刺激はパルス幅500 [μs] の単極性パルスとし, 刺激頻度を1─10 [pulses/s] まで12通りに変化させて筋音図を測定した. 電気刺激を入力, 筋音図を出力とするシステムを考え, その伝達関数を同定した. 伝達関数を2次系の力学モデルと比較して, 分母の係数を筋の粘弾性の指標として刺激頻度との関係を調べた. 筋音図の伝達関数は全ての刺激頻度において6次のモデルで記述できた. さらに2名の被験者について, 1─50 [pulses/s] の電気刺激を与えたときの筋音図を測定して伝達関数を同定したところ, 同様に6次のモデルで記述できた. 伝達関数の分母の係数は, 刺激頻度とともに増加するものと, 刺激頻度に依存しないものがあった. 以上のことから, 筋音図が誘発されるシステムは6次系のモデルで表すことができ, 収縮が融合する過程において, 筋音図の伝達関数は筋および皮下組織の能動的要素と受動的要素の特性を反映すると考えられる.

  • 川本 貴志, 山崎 信寿
    2012 年 21 巻 p. 207-218
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    筋収縮後の脱力時にも残る筋剛性変化を検出するために, 圧脈波で誘発された体表面振動 (以後, PMMG) の波形変化を解析した. 被験者9名について, 肘関節の等尺性屈曲力を10%MVCで5分間維持させた前後のPMMGを上腕二頭筋筋腹を含む上腕周囲5点につけた小型加速度計で計測した. その結果, 筋収縮後の脱力時PMMG波形は筋収縮前と比較して平均振幅が増加し, 尖度が減少した. これは, 筋剛性の増加により, 圧脈波を機械刺激として生じた上腕二頭筋の自由振動が減衰しにくくなったためと考えられる. PMMGは, 筋疲労に伴う筋剛性変化を脱力中にも計測できるため, 低筋力の断続的な作業における疲労評価に応用できる可能性がある.

  • 岡 久雄, 北脇 知己, 岡本 基, 市橋 則明, 吉田 正樹
    2012 年 21 巻 p. 219-230
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    骨格筋の収縮機能を評価するには, 生化学的検査や画像診断の他に筋電位信号がよく用いられるが, これは筋を収縮させる入力側の信号である。筋音信号は筋収縮に伴う振動, すなわち出力側の信号であるので, 両者を計測・比較することによって筋の収縮様相を正しく評価できると考えられる。筋疲労や筋力トレーニングを行ったときの変位筋音信号を測定したところ, 速筋線維の寄与率変化が示唆された。さらに変位筋音信号を簡便に測定するために, フォトリフレクタを応用した小型・軽量の変位筋音センサを開発した。本センサはエルゴメータ運動やトレッドミル歩行中でも筋音信号の測定が可能で, 単収縮波形を算出することができた。

  • 堀田 優, 伊藤 建一
    2012 年 21 巻 p. 231-238
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    現在の筋疲労研究では, 筋の疲労性変化の指標として, 双極導出法により記録した表面筋電図が一般的に用いられている. しかしながら, 双極導出法により記録した表面筋電図では, 低強度運動時の疲労に伴う変化が不明確であるとされている. また, 上腕基部を圧迫し強い筋疲労を擬似的に再現した研究においても, 圧迫条件間に有意差は生じなかったと報告されている. この強い筋疲労は, 等尺性運動時に血管系の末梢抵抗の上昇に伴い発生する可能性があるものである. 低強度運動および等尺性運動は, 生活習慣病に対する運動療法として広く実践されており, 疲労に伴う表面筋電図変化の不明確性は, 解決すべき問題であると考えられる. 本研究では, 双極導出法に比べ導出範囲が広い単極導出法を用いて, 疲労に伴う表面筋電図変化を明確に捉えることを目的とした. 実験では, 血流制限および非血流制限条件で低強度等尺性運動を行い, 単極および双極導出法で表面筋電図を測定した. 血流制限条件は上腕基部の圧迫で実現した. さらに, 近赤外分光法を用いて筋酸素動態, Borg CR-10を用いて自覚的運動強度を測定した. 筋酸素動態および自覚的運動強度は, 筋血流制限と非筋血流制限条件のいずれにおいても疲労性変化を示し, また, 筋血流制限条件の方が有意に大きかった. この筋血流制限の影響は単極導出法で検出されたが, 双極導出法では検出されなかった. 非筋血流制限条件では, 単極導出法により記録した表面筋電図の方が, 双極導出法と比べて疲労性変化が有意に大きかった. 筋血流制限条件においても, 同様な傾向が見られた. これらの結果から, 単極導出法で表面筋電図を記録することにより, 疲労に伴う表面筋電図変化を明確に捉えられる可能性が示唆された.

  • 小林 洋, 渡辺 峰生, 安藤 健, 関 雅俊, 藤江 正克
    2012 年 21 巻 p. 239-250
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    近年, 筋肉の粘弾性特性は, Hill’s model等で用いられていた弾性要素と粘性要素の組み合わせでは適切にモデル化できないことが指摘されており, より精度の高いモデリングとして, 分数次微分方程式を用いた手法が提案されている. 本研究では, 分数次微分方程式をインピーダンス制御に適用することで, 人間の持つ筋肉の粘弾性特性をロボットの動作として再現する試みを行った. 本論文では, 提案したインピーダンス制御が, 従来のインピーダンス制御と比較して, 衝撃的な力の上昇を生じにくく, 人間の行動への親和性に優れていることを数理シミュレーションおよび実験により実証した.

  • 坂井 伸朗, 細田 菜津子, 萩原 裕一郎, 澤江 義則, 村上 輝夫
    2012 年 21 巻 p. 251-263
    発行日: 2012年
    公開日: 2017/02/15
    ジャーナル フリー

    関節軟骨は内骨格生物においてロードベアリングとしての機能に重要な役割を持つ. 関節軟骨は70~80 [wt%] の高含水の組織であり, 固液二相性材料と内部組織構造から発現される力学的特性が関節の潤滑特性に寄与する. 本稿では, ヒト関節における関節軟骨の作動条件を考慮した顕微鏡可視化力学試験により, 特に生体の実環境下における荷重条件や運動状況を考慮し, 軟骨の力学的特性を明らかにするとともに, 軟骨の内部組織構造を取入れた数値計算モデルにより固液二相性潤滑機能について解析を行った. また, バイオミメティクス的視点に立ち, 生体軟骨の解析から得られた知見を取入れた2次構造を持つ人工軟骨を作製し, 効果的に機能が発現され低摩擦係数化された内容を報告する.

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