生体分子の構造動態をサブ秒・ナノメートルの分解能で観察する高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を用い,酵母プリオンSup35のアミロイド線維の伸長機構の詳細を明らかにした.線維末端への単量体付加による線維伸長の直接的な証拠が得られただけでなく,オリゴマーと線維の関係にも新たな知見を得ることができた.
左右円偏光の光をキラル分子に入射して得られるラマン散乱光の強度には微差が生じる.これはラマン光学活性と呼ばれて,溶液中の分子のコンフォメーションを鋭敏に反映した分光スペクトルを示す.本稿では,ラマン光学活性を利用したプロテオロドプシン(バクテリアの光駆動型H+ポンプ)の活性部位の構造解析を紹介する.
複眼の六角形タイル構造は物理的に安定と言われ,細胞形態が物理的制約に従って決められているという考えと合致する.しかし,ある種の変異体においては物理的に不安定な四角形タイルに変化する.ハエの複眼が六角形および四角形タイルを示す機構を解明することにより,細胞形態を幾何学的に制御するメカニズムを明らかにした.
曲率誘導タンパク質の吸着により,生体膜は形状変化するが,その吸着は他のタンパク質により制御されている.我々は,シミュレーションを用いて,このようなタンパク質の反応拡散と膜変形のカップリングについて研究した.チューリングパターンや進行波が膜変形により,どのように変わるか紹介する.
メラトニン受容体は睡眠障害の治療標的として注目を集めるGタンパク質共役型受容体だが,詳細な活性化機構は不明であった.本稿では,クライオ電子顕微鏡による解析で得られた立体構造情報から解明された,睡眠障害の治療薬によってメラトニン受容体が活性化し,下流のGタンパク質と共役する詳細な構造基盤を紹介する.
配列設計されたDNAナノ構造は液-液相分離により液滴を形成する.そして,塩基配列の合理設計により,融合や分裂などの挙動が制御可能である.本稿では,DNA液滴の概要を説明するとともに,液-液相分離の境界条件の規定により生じるパターン形成と,DNA液滴とDNAコンピューティングを組み合わせた情報処理について紹介する.
我々の開発した光単離化学(Photo-Isolation Chemistry: PIC)という技術は,関心領域(ROI)の高深度トランスクリプトーム情報を高解像度の光照射によって抽出できる.大小さまざまなROIに対応できるため,マウス脳の領野,マウス胚の微小細胞集団や,細胞内の非膜型オルガネラの高深度トランスクリプトーム解析に活用できる.
脊椎動物の視覚を担うロドプシンは光で活性状態を生成する.しかし,この状態から光でも熱でも直接元の不活性状態に戻ることができない.本稿では,ロドプシンが「光活性化」に特化したメカニズムに迫るため,活性状態から光でも熱でも元の不活性状態に戻る変異体を1アミノ酸置換で作製したので紹介する.
回転分子モーターである好熱菌V/A-ATPaseのATP加水分解反応中の複数の中間体構造をクライオ電顕で捉えた.得られた構造から,3つの触媒部位で起こる反応(ATP結合・ATP加水分解・反応産物の放出)と回転軸の120°回転が協奏するtri-site機構で機能することが明らかになった.
腕の加速度データに基づき高精度な睡眠覚醒判定を実現した機械学習アルゴリズム「ACCEL」と,その手法を用いてデータ駆動的に明らかにしたヒト睡眠ランドスケープ(16種類に分類された成人の睡眠パターンの様相)について紹介する.また,現在我々が進めている「子ども睡眠健診」プロジェクトについて紹介する.
生命は進化の過程で機能に加えて変異に対する頑健性を獲得した.この過程を数理モデルで理解するために,進化シミュレーションと比較する対照群をマルチカノニカル法で構築する手法を提案する.遺伝子制御ネットワークで計算を行い,進化が頑健性を増強させることと進化では双安定性の出現が遅れることを定量的に示した.