短いペプチドを対称的に組み合わせ,現代のタンパク質構造を再現することは可能だが,ペプチドが多量体化し複雑な構造を獲得する過程は不明だ.本稿では,古代の普遍的な核酸結合要素が,RNAと共にコアセルベート化する単純なヘテロキラルペプチドからdsDNAの副溝に高い親和性で結合する折り畳まれたドメインに進化した可能性を探求する.

グラム陰性菌における抗菌薬耐性の主因のひとつであるRNDトランスポーターの結晶構造解析を続けてきた.2023年,新たにバークホルデリア菌由来ホモログの結晶構造を解明した.ホモログの構造ではあるが,これまでに蓄積された知識と統合しRNDトランスポーターの分子メカニズムについてより深い洞察が得られた.

細菌の接着性と運動性は病原性に関わることが知られているが,それらの具体的な役割は十分に解明されていない.本稿では,病原性細菌の接着性と運動性の宿主依存性を明らかにした機械学習によるラベルフリーin vitro感染実験を紹介し,病原体-宿主相互作用と病気の重症度の関連を考察する.

走化性応答で大腸菌の化学刺激に対する判断は“好き”か“嫌い”かのみと考えられてきたが,統計解析により「刺激化学物質の種類情報を保持している可能性がある」ことが観えてきた.本稿では,走化性応答を事例として,入力刺激と出力応答の関係性のみに注目したベイズの枠組みでの統計解析手法を紹介する.

走化性では刺激に対する受容体活性がフィードバック調節されて適応システムとして機能します.大腸菌では定常状態でも受容体アレイが自発的に活性化と非活性化を繰り返し(アレイブリンキング),複数のべん毛モーターの回転を同調制御します.このアレイブリンキングに適応システムが関与していることを説明します.

ゲノム中のエンハンサー領域には転写因子やコアクティベーターが呼び込まれ,標的遺伝子の転写が制御される.今回,新たに構築した超解像ライブイメージング系より,エンハンサーを足場とする転写因子の局所的な集合・離散が,転写バーストと呼ばれる転写活性の揺らぎを生み出す主要な要因であることを明らかとした.

ヒト免疫不全症ウイルス1型(HIV-1)の被膜は,宿主細胞の細胞膜と比べて特定の脂質が濃縮されている.この濃縮のメカニズムを解明するために,著者らは,細胞膜上でのHIV-1 Gagタンパク質と宿主脂質の相互作用を,特異的な脂質プローブと様々な顕微鏡技術を用いて定量的に解析した.

振動分光法は分子の構造変化を鋭敏にプローブできる有力な解析法だが,スペクトルの帰属と解釈が困難であった.近年,分子の非調和性・環境・構造ゆらぎを考慮することで,生体分子の振動スペクトルが計算可能になった.その基盤技術である分子動力学計算,局所振動モードに基づく振動計算,QM/MM計算を紹介する.

小角散乱プロファイルは液中に存在するあらゆる分子の構造情報を反映するため,分子運動や揺らぎの包括的理解に寄与する.本稿ではマルチドメインタンパク質を対象に,X線小角散乱測定と分子動力学計算による分子運動解析手法の現状と課題,さらに他の実験との統合的解析を目指した新戦略について解説する.
