都市およびその周辺において,コケ植物のフロラおよび生態の20年間の変化を明らかにした.また,主に都市における自然環境の指標としてのコケ植物について考察した.調査は,近年,都市化の著しい千葉市と四街道市でおこなった.都市機能の異なる7地区,すなわち自然公園,農業地区,都市公園,住宅地区,団地地区,商業地区,工業地区それぞれに各25haの調査区を設定し,1975年及び1995年にコケ植物のフロラと生態について調査した.1975年の最初の調査では,全調査区からセン類61種,タイ類22種の合計83種が記録された.1995年の調査ではセン類58種,タイ類18種,ツノゴケ類2種の合計78種が記録された.20年前の結果と比較して,1995年に全調査区で記録されたコケ植物の種数は減少しているが,各調査区ごとではむしろ増加している地区が多かった.この増加は特に都市公園と団地地区で顕著であった.唯一農業地区では出現種数の減少がみられた.コケの生育型の変化をみると,20年前に比べて直立型の種はすべての地区で増加していた.匍匐型は自然公園と農業地区では明らかな減少がみられた.葉状型は自然公園で大幅な増加がみられた.1975年及び1995年の調査ともに直立型及び匍匐型のコケは都市化の程度の高い地区ほど少なくなる傾向がみられた.工業地区では2回の調査ともに直立型のコケしか生育していなかった.生育基物については,全体に最も多いのが土上であり,それに次ぐのは1975年は樹幹,1995年ではコンクリートであった.比較的自然の豊かな自然公園と農業地区の調査地区では多様な基物にコケの生育がみられたが,都市化の進んだ地区ではコケが限られた基物に生育する傾向があった.出現種数が25以下の調査地区では,樹幹や腐木上にコケ植物の生育はみられなかった.1995年の調査では,腐木以外,各基物に生育するコケの種数は増加した.都市化程度の異なるさまざまな自然環境に生育するコケの出現パターンによって,今回記録された種を4つにグループ分けした.第1グループの4種はすべて直立型のセン類であり,郊外から都市化の著しい地区までの広い範囲で生育がみられる.第2グループは2種の葉状型,1種の匍匐型,1種の直立型からなり,郊外からやや都市化の進んだ地区まで生育がみられた.第3グループは4種の直立型,3種の匍匐型からなり,主に郊外に生育する.第4グループは5種の匍匐型で,自然性の高い郊外にのみ生育する.この20年間の調査地区の林地は,農業地区と住宅地区を除き増加していた.特に自然公園と都市公園では顕著な増加であった.その一方で,農業地区では大幅な減少がみられた.林地の面積率とニケ植物の出現種数には高い正の相関関係がみられた.以上の結果から,コケ植物は,微環境のみならず林地などを介した中程度の環境レベルの変化に敏感であり,都市化の指標生物としても有効であると考察された.
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