コケ植物は通常コロニーを形成して生育しており,そのコロニー形態はしばしば生育地の環境条件に応じて変化する.環境条件のなかでも水分条件はコロニー形態に最も大きな影響を与えると考えられている.今回,生育地の水分条件に応じてコケ植物のコロニー形態がどのように変化するのかということを定量的に示すために,高緯度北極スピッツベルゲン島において,異なる水環境(乾燥地と雪田)に生育するカギハイゴケのコロニーおよびシュート形態を比較した.コロニー形態の測定項目は,コロニーの厚さ,密度,単位面積当たりのシュート本数とし,シュート形態の測定項目は主茎から出る枝の頻度と分布とした.乾燥地のコロニーは,雪田のものに比べて,厚さが薄く抑えられているものの,コロニー密度(mg/cm^3),単位面積当たりのシュート本数(no./m^3)ともに高い値を示した.このような乾燥地での密なコロニーは,コロニー内に貯えられる水分の保持に役立つと考えられる.また,乾燥地の密なコロニーを形成するシュートは,雪田のものに比べて,分枝頻度が高く,シュート全体からほぼ一様に枝が産出されていた.これは乾燥地で密なコロニーが作られる要因になっていると考えられる.
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