武道学研究
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43 巻, 1 号
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原著
  • 金持 拓身, 慶瀬 伸良, 中村 充, 前川 直也, 田村 昌大, 菅波 盛雄
    2010 年 43 巻 1 号 p. 1_1-1_7
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2012/08/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,柔道「投の形」における評価者聞の類似性と観点を明らかにすることである。本研究の意義は「投の形」の評価基準設定の一助になるものと考えられよう。
    調査対象者として,審査経験を有する 22名の有段者を評価者とした。評価者は,2組 (A組,B組)の「投の形」の演技を VTR にて視聴し,それぞれの施技に対して 13項目を評価するものとした。評価項目は,全日本柔道「形」競技大会の審査姿項にある「評価の基準と観点」の中から選んだ。対象技として,手技,腰技,足技,真捨身技,横捨身技の中から 1 技を無作為に選んだ。分析にあたっては,回収したデータの基本統計量を算出し,相関分析,数量化 IV 類による分析などを行い,その特性を検討した。
    その結果,A 組,B 組の評価を比較すると明らかに A 組に高い評価が示された。また,全ての技の評価において,評価者の評価に高い類似性が認められた。「投の形」の評価基準は未だ確立されていないものの,本研究の結果では評価にはかなりの共通認識に立脚していることが示唆された。
    評価者が重視する 3項目と総合評価との聞には,高い相関が示された。各評価者は,それぞれ重視している観点を持ち,総合的な評価はこれら 3項目程度の観点を参考に評価が行われている可能性が示された。
  • 中嶋 哲也
    2010 年 43 巻 1 号 p. 1_9-1_17
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2012/08/28
    ジャーナル フリー
    直心流柔術の系譜に関する主な研究として 1990年に発表された論文,「直信流柔道について 一流名・術技及びその思想一」(以下,当該論文と表記)をあげることができる。当該論文では『直心流柔序』という伝書を使用し,直心流柔術から直信流柔道へ至る系譜について明らかにしようとしている。しかしながら,当該論文では『直心流柔序』の読解が不十分であり,特に直心流柔術の系譜に関する部分については十分な整理がなされていない。したがって,本研究では『直心流柔序』を通して直心流柔術の系譜を検証した。具体的には当時,寺田満英が直心流柔術の流祖とみなされていたかどうかという点について考察した。結果として,直心流柔術では寺田満英が流祖であるとみなされていなかったことが明らかとなった。
  • 増地 克之, 竹澤 稔裕, 金野 潤, 佐藤 伸一郎, 鈴木 なつ未, 衛藤 友親, 春日井 淳夫, 桑森 真介
    2010 年 43 巻 1 号 p. 1_19-1_26
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2012/08/28
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、柔道選手の体幹筋力の角速度増加に伴う変化について検討し、軽量級と重量級の特徴を明らかにすることである。対象者は 33 名の大学男子柔道選手(軽量級 16名、重量級 17 名)と 17 名の一般健常男子学生である。等速性筋力測定装置 (CYBEX 770-Norm Trunk Extension/Flexion Unit) を用いて、体幹伸展カと屈曲カを測定した。測定角速度は、CYBEX TEF標準プロトコルに従い、30, 60, 90, 120, 150degree/s とした。
    得られた結果を以下に示す。
    1. 体幹の屈曲時および伸展時のピークトルクは、全ての角速度において、重量級、軽量級、一般学生の順で高値(Pく0.01)を示した。
    2. 体幹の屈曲時および伸展力のピークトルクは、全てのグループにおいて 30degree/sで最大値を示し、角速度の増加に伴い有意(Pく0.01)に低下した。
    3. 体幹伸展時ピークトルクについては、群と角速度の交互作用に有意性(Pく0.01)が認められた。
    4. 体幹伸展時ピークトルクの角速度増加に伴う筋力低下率は、軽量級、重量級、一般学生の順で低値を示した。最大角速度(150degree/s)時において、軽量級が他の 2群に比し有意(Pく0.05)に低い値を示した。
    以上の結果から、重量級では軽量級に比べ、体幹伸展力が高速度になるとより低下することが明らかとなった。
  • 桐生 習作
    2010 年 43 巻 1 号 p. 1_27-1_38
    発行日: 2010/08/31
    公開日: 2012/08/28
    ジャーナル フリー
    本研究は嘉納治五郎が柔道の目的の 1つとして慰心法(心を慰めるための方法)を導入した際の背景と彼の趣旨を明らかにすることを目的とした。嘉納は最初に柔道の目的として体育(体育),勝負(武術),そして修心(自己の精神を抑えること)を述べた。その後,嘉納は追加の目的として慰心法を加えたが,彼がそうした理由については未だ知られていない。嘉納の著述のこの時期における柔道の普及状況を調査し,筆者は以下のことを明らかにした。
    a. 1883 年以降,柔道は課外活動として学校に浸透した。多くの部が設立された後,それらは対校試合を始めた。
    b. 嘉納は柔道修行者に柔道から得られる利益(体育,勝負,修心)を示した。
    c. 1911年,柔道は日本の中学校における正科になった。その後,嘉納は柔道の目的として慰心法を含めて発表し,さらに新しい要素(運動の楽しさ,乱取,試合,そして形を見る楽しみ,芸術形式としての形を含む)を柔道に付け加えた。
    嘉納は普通体操の面白さが無く学校卒業後に長く続けられないことに関する不満と柔道の様々な利益,逆に競技運動は面白く長く続けられるという社会的背景から慰心法の新しい発想を生み出した。しかしながら対校試合の増加に伴い,慰心法は嘉納の言説から消失し,学生達は多くの不祥事を巻き起こす。慰心法に代わり,嘉納は柔道の修行を行っているかどうかにかかわらず,全ての人々にこの状況の改善を呼びかけたのである。
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