土壌地球化学図の作成に関する予察的研究の総括として,関東平野南部で新たに採取した土壌柱状・表層試料中の主・微量成分元素を分析し,土壌中元素の地球化学的挙動を総合的に研究した.土壌における元素の生物濃縮は,実際の樹木・草本試料を灰化・分析して評価した.土壌柱状試料における元素濃度の鉛直変化を支配する要因としては,土壌化の影響,生物濃集,土壌母材の起源等が重要である.生物濃縮の影響を受けないAl, Ti, Fe, Li, Cs, Tl,Be, Co, Cr, Ni, V, Ga, La, Ce, Th, U, Y, Zr等は表層部よりも下層部で高濃度を示すが,これは土壌化に伴なう移動と,水分や腐植質物質による希釈効果である.生物濃縮の影響が大きい元素は,P, Sb, Zn, Cd, Cu, Ca, Pb, Bi,Mn, Sr, K, Mo, As, Sn等であり,これら元素の大部分は柱状試料の最表層部で高濃度を示す.Mn, Ca, K, Cu等 は,最表層部で高濃度を示さない場合が多いが,これは生物濃縮の影響よりも土壌化に伴う溶出や水分等による希釈効果が大きいためであろう.黒ボク土の主要母材は,火山噴出物,近傍裸地からの風塵再移動堆積物,広域風成塵等の大気経由物質であり,元素濃度の地域変化は小さい.褐色森林土の母材は,表層地質を構成する岩石等の風化物を主とし,これに若干の大気経由物質が付加されたもので,元素濃度は地質区分毎に異なる.沖積層土壌は,河川由来の砕屑物と大気経由物質の混合物が母材である.土壌地球化学図は,環境汚染の評価と元素濃度のバックグラウンド値を判定するうえで重要な資料である.
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