玉山金鉱床はチタン鉄鉱系の氷上花崗岩体の南西部に胚胎し,白雲母ペグマタイト中に金が濃集するという,北上山地に分布する他の金鉱床と比較して特異な産状を示す.この鉱床の白雲母の年代測定を実施したところ,111.7 ± 3.0 Ma が得られた.この年代は,南西方の白亜紀花崗岩類(気仙川岩体)の黒雲母年代と誤差の範囲で一致しており,ペグマタイト石英中に認められる流体包有物の圧力補正温度(約400
oC)が白雲母の放射性アルゴン閉鎖温度(約350
oC)を上回っていることなどから,白亜紀花崗岩類の活動による若返りの値と考えられる.含金ペグマタイトの石英のδ
18O値 (δ
18OSMOW=10.0‰) は一般のチタン鉄鉱系ペグマタイト中の石英 (>10.0 ‰) と似た値を示し,この鉱床はチタン鉄鉱系の氷上花崗岩マグマの固結最末期に生じたものである.石英‐白雲母ペアを用いた酸素同位体比平衡温度から,ペグマタイトの生成温度は865
oC 以下と推定され,形成後に氷上花崗岩体が受けた数次に亘る熱履歴を経験して現在に至ったものと考えられる.
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