生野−明延鉱床は日本を代表する多金属石英脈鉱床である.鉱脈は,明延鉱床においては古生代末期−中生代初期の苦鉄質岩類と変成岩類とを母岩とし,生野鉱床では後期白亜紀火山岩類と岩脈類を母岩とする.生野鉱床の鉱脈は,主力の金香瀬鉱脈群が N-S 系,東に急傾斜し,一部,NW-SE 系である.その他の太盛・青草地区では,主に NW-SE 系と N-S 系走向で,急傾斜を持つ.鉱脈は多金属性で,ベースメタルの他,金銀に富み,かつ錫を含むが,タングステンに乏しい.これらの鉱石鉱物は,鉱床の中心から外方へ,Sn -Cu 帯,Sn -Cu -Zn 帯,Zn 帯,Pb -Zn 帯,Au -Ag 帯,不毛帯のゾーニングを持つ.インジウム鉱物も多産する.明延鉱床は母岩が苦鉄質岩類と変成岩類である点は生野鉱床とは異なるが,一般には NW-SE 系,西部で NE-SW 系に彎曲する急傾斜鉱脈である.鉱脈はここでも多金属的であるが,生野鉱床に較べて,金銀・鉛に乏しく,スズとタングステンに富む.またその多金属性は鉱化ステージが違う複合鉱脈として見られ,早期 Pb-Zn-Cu 脈に,後期 W-Sn-Cu 脈が重複し,複合鉱脈を構成する.
後期白亜紀の生野層群は下部から上部へ,含角礫黒色頁岩 (ISo),デイサイト質火砕岩(IDco),黒色頁岩/ 砂岩凝灰岩 (IS1),流紋岩>安山岩質火砕岩 (IX),流紋岩質溶結凝灰岩 (IR1),凝灰岩/ 頁岩 (IS2),安山岩と同質凝灰岩 (IA2),流紋岩質溶結凝灰岩 (IR2),凝灰岩/頁岩 (IS3),安山岩と同質凝灰岩 (IA3),凝灰岩/頁岩 (IS4),デレナイト溶結凝灰岩 (ID4) に分類される.これらの火山岩類は帯磁率測定と顕微鏡観察により,磁鉄鉱系に属するものと判断される.二成分変化図上ではややカリウムに富むものの一般のカルクアルカリ岩系の領域を占める.銀とベースメタルに富む生野鉱床の冨鉱部は玄武岩岩脈と流紋岩岩脈と空間的に密接であり,ベースメタルは前者とスズは後者に由来した熱水鉱液から沈殿した可能性が大きい.明延鉱山内の岩脈類も磁鉄鉱系に属する玄武岩から流紋岩に至るシリカ含有量を持ち,一部でショショナイトと高カリウム岩にプロットされるものもあるが,多くは中程度のカリウムを持つ一般のカルクアルカリ岩である.早期のベースメタル鉱化はこのような火山岩類に由来した鉱液に関係し,後期のスズに富む鉱化は潜在する珪長質岩体からもたらされた鉱液から沈殿した可能性が考えられる.地表に露出する和田山花崗岩は,鉱化関係花崗岩としては微量成分としてのスズには富むが,フッ素に乏しい難点がある.
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