内野(2019)は,陸源性砕屑岩から化石を産しない北部北上帯南西縁部のジュラ紀付加体において,砂岩中の砕屑性ジルコンU–Pb年代を測定し,前期ジュラ紀と中期ジュラ紀の付加体が存在することを示した.しかし,両かま津つだ者の中間地点である岩手県岩泉町釜田において約260 Ma(後期ペルム紀)の最若クラスター年代を示す砂岩(大川試料)も認められ,その堆積年代の解釈として,後期ペルム紀,後期三畳紀あるいは前期ジュラ紀が提示されていた.本研究では,その年代を確定するため,大川試料採取地点周辺の砂岩(駒ヶ沢試料)について改めてジルコンU–Pb年代を測定した.その結果,約160 Maの最若クラスター年代が得られ,大川試料を含む釜津田周辺の付加体は上記3つの年代ではなく,中期ジュラ紀であると考えられる.
付加体中の玄武岩は沈み込む海洋地殻断片の一部であると一般に考えられている.北上山地の北部北上帯ジュラ紀付加体中の玄武岩も,主に海洋島起源と考えられているが,その研究は少ない.本研究では北部北上帯南西縁部に分布する前期~中期ジュラ紀付加体中の玄武岩6 試料の全岩化学組成を分析し,その起源を推定した.地球化学判別図や微量元素のスパイダー図から,4試料が中央海嶺玄武岩(MORB)の特徴を,2試料が海洋島アルカリ玄武岩の特徴を示す.つまり,北部北上帯南西縁部には海洋島型のみならず,MORB型の玄武岩が一定量存在することが明らかになった.
北上山地には,南側に南部北上帯が,北側に北部北上帯が共に広く分布している.北部北上帯には主にジュラ紀の付加体が分布しているが,これまで同帯南西縁部ではほとんど化石が見つかっていなかった.今回,盛岡東部外山地域の泥岩から放散虫化石を得た.この泥岩は,近年,前期ジュラ紀の砕屑性ジルコンU–Pb年代が示された砂岩の近傍に産するものである.本化石は,保存不良のため分類名を特定しがたいが,確実に中生代と判断できるものであり,さらに多産する科や外形が類似する種などの状況証拠から,前期ジュラ紀後半~中期ジュラ紀の産出年代が期待される.すなわち,ジルコン年代から得られた前期ジュラ紀という砂岩の堆積年代を否定するような群集ではない.また,早池峰山地域の北部北上帯泥質岩中から報告された三畳紀放散虫化石群集より明らかに若く,本研究結果は外山地域と早池峰山地域の付加体とを別の層序単元としている従来の考えを支持する.
岩手県盛岡市薮川,大石川沿いの谷底低地を埋積する礫層主体の第四紀堆積物中に,下位よりOs-4,Os-3,Os-2,Os-1の4枚のテフラを見出した.これらのテフラについて,層序,層相,構成物質及び火山ガラスの化学組成の特徴から対比を行った.Os-4は岩手火山あるいは秋田駒ヶ岳火山起源と推定されるが,現時点での詳細な対比は困難である.Os-3は36 kaの十和田大不動テフラに対比され,十和田大不動火砕流堆積物のco-ignimbrite ash fall depositに相当する.Os-2は十和田大不動テフラの再堆積層と考えられる.Os-1は15.5 kaの十和田八戸テフラに対比される可能性が高い.