文化看護学会誌
Online ISSN : 2433-4308
Print ISSN : 1883-8774
10 巻, 1 号
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原著論文
  • ― 異文化適応への示唆を求めて ―
    伊東 美智子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_2-1_15
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    目  的
    離島以外の地域からへき地医療機関に赴任した主に5年未満の看護師達を対象に,前職での看護実践経験のある看護師の離島赴任後の戸惑いや困難に対する乗り越え方等の実態を語りから明らかにすることで,異文化適応への支援について示唆を得る。
    方  法
    離島へき地医療機関に勤務する12名の看護師を対象にし,ライフラインインタビューメソッドを用いて2回の半構造化面接を行った。そこから目的に沿った語りを切片化した後,カテゴライズした。
    結  果
    赴任した当初は,【生活面の違いに戸惑う】ことから【孤独感】に陥り,仕事面では【前職との違いに戸惑う】ことも少なくなかった。しかし,〈行き詰まって独りで悩む〉ばかりでは解決できないと悟り,【職場や地元の人に打ち明ける】ことを始めていた。その結果,生活面では次第に【地域に溶け込めた感覚】を得,職場では現地のやり方に【納得】する一方,〈積極的に自分の思う看護を実践〉も出来るようになり,【手応え】を感じるようになってゆくと,「ここでやって行けそうだ」と感じるようになっていった。これらのプロセスは,ライフラインに乗せるとU字カーブ上に描かれた。
    考  察
    へき地で勤務するとは,「中途採用者が抱える職場適応の課題」と,「移住者が抱える生活適応の課題」があることが明らかとなり,赴任する側,受け入れる側,双方にカルチャー・ショック理論の知見が役立つと考える。

  • ― 運動普及事業に着目して
    丸谷 美紀, 雨宮 有子, 細谷 紀子, 大澤 真奈美
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_16-1_24
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    目  的
    生活習慣病予防のための運動普及のポピュレーションアプローチ事業における,地域の文化に即した展開方法を明らかにする。
    方  法
    首都近郊3市で,2年度に渡り,生活習慣病予防のポピュレーションアプローチとしての運動普及事業へ参加観察及び,保健師5名と住民45名に聞き取り調査した。分析は,まず年度計画・実施・成果に関する保健師の地域の文化を含む思考・行為と,住民評価に見られる地域の文化を含む思考を,質的帰納的に分析し,各々カテゴリ化した。次に,年度計画・実施・成果に関する保健師の地域の文化を含む思考・行為のカテゴリを,調査初年度・次年度を通して事業計画・実施・評価の展開過程に沿って配置し,各カテゴリのコードの関連から展開方法を読み取った。さらに各カテゴリに含まれる地域の文化を抽出した。
    結  果
    33カテゴリの関連から読み取った展開方法は,暗黙の了解事に合わせ馴染ませていく運動普及,地元愛へのケアの価値付けと融合,地域の文化的感受性の活用と醸成,住民と行政の共生意識の活用と醸成,安心感に配慮した変容の舵取りと推進,の5つだった。住民評価のカテゴリは,生活全般への健康観の拡大等の10だった。地域の文化は暗黙の了解事等だった。
    考  察
    地域の文化に即した生活習慣病予防のための運動普及のポピュレーションアプローチでは,地域を文化看護の対象として捉え,地域の暗黙の了解事に合わせて合理性を図りながら,運動普及を契機として地元愛にケアを浸透させ,地域の文化的感受性や住民と行政の共生意識を活用・醸成し,包摂的な文化へと発展を促すことが求められると考える。その過程では安心感に配慮し,文化に謙虚な姿勢で関わることが基盤となると思われる。

  • 金子 紀子, 石垣 和子, 阿川 啓子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_25-1_33
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,子どもの衣服や子育て用品のおさがりのやりとりをおさがり文化とし,おさがり文化と子育て中の母親のソーシャルキャピタルとの関連を検討することである。対象はソーシャルキャピタルの差が予想される国内3地域に居住する,認可保育所,幼稚園,認定こども園に通う2・3歳児クラスの児の母親であり,無記名自記式質問紙調査を行った。おさがりをもらうこと,あげることについて有無の各2群とし,認知的ソーシャルキャピタルと構造的ソーシャルキャピタルの指標との関連をMann-WhitneyのU検定,カイ2乗検定にて検討した。調査票は624通回収し,有効回答は609通だった(有効回答率49.0%)。その結果,内閣府調査(2002年実施)にて都道府県別のソーシャルキャピタルの統合指数が高い地域では,おさがりをもらうことは認知的ソーシャルキャピタル,おさがりをあげることは構造的ソーシャルキャピタルと関連していた。統合指数が低い地域では,おさがりをもらうことは構造的ソーシャルキャピタルと関連していた。おさがり文化は子育て中の母親のソーシャルキャピタルと関連している可能性が示唆され,地域のソーシャルキャピタルの豊かさが関係していることが考えられた。

  • ― 看護師が母親の状況を察した経験に着目して ―
    阿川 啓子, 石垣 和子, 塚田 久恵
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_34-1_42
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    本研究は,0~3歳の乳幼児期の超重症児又は準超重症児を対象とした訪問看護について訪問看護師が病児の母親に対しておこなった“察する看護” の具体的内容を明らかにした。
    対象は,A県に在住する超重症児及び準超重症児に対して0~3歳の間に訪問看護を開始し継続して6ヶ月以上の訪問看護実践を行った訪問看護師で,データは面接調査法により収集し,質的帰納的分析を行った。
    その結果,対象者は訪問看護師8名全て女性であった。分析の結果,実際に展開した“察する看護”は,【常に信頼されるよう一期一会を大切にする】【母親の行動から精神状態を察する】【信頼関係が築けるように母親を肯定的に見守る】【訪問看護師の考えから方略的で間接的な支援と直接的な支援をする】【介護負担を考慮してソーシャルサポート体制を構築する】であった。
    以上の結果から,訪問看護師は様々な人々との関係性の中から母親の心情を察することで信頼関係を構築しつつ,方略的な間接的母親支援と直接的母親支援を実践している事が解った。一方,病児の健康を守りつつ,母親の介護負担を軽減するように考慮して,地域住民との架け橋をしている事が示唆された。

  • ― 緩和ケアチームを有さない一般病院におけるケアの文化的特徴を踏まえた考察 ―
    天野 薫
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_43-1_50
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    目  的
    本研究の目的は,病状が不可逆的に悪化する下降期にがん治療を受ける患者をケアする看護師の体験を明らかにすることである。
    方  法
    緩和ケアチームを有さない一般病院に勤務し,がん治療を受けながら下降期を生きる患者への看護経験を有する看護師5名を対象に半構造化面接を実施し,質的統合法(KJ法)を用いてデータ分析を行った。
    結  果
    看護師の体験は,【日常業務に追われる日々の中でその人らしさを特別意識しない実践】をする一方で,【一人の人として患者と心響き合う体験の喚起】がされると,【病気・治療で苦しんできた歴史や痛みと共に在る患者のその人らしさの模索】を始め,その結果,【がん治療を受ける患者の終焉に寄り添う看護専門職としての価値観の明確化】を行い,【患者と家族・医療者の相互依存に向けた応答】や【患者の主体的な意思決定の推進】を行うという全体像で示された。
    考  察
    医師-患者関係において調整役を担いつつ,患者の言葉に耳を傾け,患者の真意を重んじるという文化的特徴を有する看護師のケアが患者のその人らしさを尊重したケアの発展に関わっていくことが考察された。
    結  論
    緩和ケアのエキスパートを有さない一般病院というケア環境では,看護師が,患者の相互依存に向けた応答や患者の主体的な意思決定の推進に関わるケアを内省する機会を積み重ねていくことが,患者のその人らしさを尊重したケアを行っていくために重要であることが示唆された。

  • 辻村 真由子, 石垣 和子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_51-1_60
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,訪問看護師が行う排便ケアに影響を与える在宅高齢者と家族介護者の価値観を明らかにすることである。
    3年以上の訪問看護経験を有する訪問看護師14名を対象として,個別の半構造化インタビューを実施した。インタビュー内容は,排便ケアを必要とする在宅高齢者(以下,高齢者とする)と家族介護者への支援過程とし,22の高齢者と家族介護者の事例への支援過程が述べられた。得られたデータについて,質的帰納的に分析した。
    その結果,排便ケアに影響を与える高齢者の価値観として,【便が出ないと大変なことになるので便が出ることは重要だ】【排便という生理的な現象は個人的な営みなので家族であっても手を借りるものではない】【自分や家族の生活を脅かされたくないので,訪問看護師には排便をコントロールしてほしい】などの8のカテゴリーが明らかとなった。また,家族介護者の価値観として,〔便が出ないと腸が詰まって大変なことになる〕〔排便の世話は嫌ではあるが高齢者との関係性があるので断れない〕〔排便の世話は特別に大変であるので訪問看護師に任せたい〕などの8のカテゴリーが明らかとなった。
    以上より,排便が高齢者の生活の充足感において大きな意味をもつことや,高齢者と家族介護者との関係性に基づいて排便の意思決定がなされていることを踏まえた看護支援の重要性が示唆された。

研究報告
  • ― 連携の実践と課題に焦点をあてて ―
    山﨑 智可
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_61-1_70
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    目 的
    本研究は,諸外国とは異なる医療制度や看護師役割の特徴がある日本の訪問看護師が捉える医師との連携に着眼する。国内文献から訪問看護師と医師との連携の実践と課題を明らかにすること,得られた結果をもとに日本の訪問看護師と医師との円滑な連携の示唆を得ることを目的とする。
    方 法
    医学中央雑誌から検索し25文献を選定した。訪問看護師の医師との連携の実践と課題の質的データを抽出しコードとした。類似のコードをまとめ抽象度をあげサブカテゴリーとした。さらに抽象度をあげ,カテゴリー,コアカテゴリーとした。
    結 果
    連携の実践では,【医師への報告】,【医師との交渉】,【医師への相談】,【医師への確認】,【医師とのコミュニケーション】の5コアカテゴリー,17カテゴリーが抽出された。連携の課題では,『医師や医療機関との連絡』,『医師の在宅医療への関心』,『医師の知識・技術』,『医師との関係性』の4コアカテゴリー,16カテゴリーが抽出された。
    考 察
    訪問看護師は【医師への報告】をするが,『医師や医療機関との連絡』において課題があった。その要因は,日本の医療制度がフリーアクセス制であること,医師と専任で連携する専門職がいないこと,看護師の裁量権の範囲が関連していると考えられた。また,『医師との関係性』には,日本の看護教育の歴史と日本文化が関連していると考えられ,看護師は医師に従う,医師に判断を委ねるという行動を暗黙のうちに了解し文化としてきたと考えられた。

  • ―『 沖縄の文化と看護』学びのレポートの分析から ―
    安仁屋 優子, 吉岡 萌
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_71-1_78
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    A大学では,科目『沖縄の文化と看護』を開講し,学内外で実際に体験・演習している。本研究においては,科目のレポートから,看護学生が文化体験をとおして,文化をどのようにとらえ,看護への適用についてどのように考えたのかを明らかにし,文化体験をすることの意義を考察することを目的とした。
    レポートから,文化と看護に関連すると思われる文章を抽出しカテゴリー化し質的分析を行った。その結果,キーセンテンスが59,サブカテゴリーが10,カテゴリーが4つ抽出された。
    学生は文化体験をとおして,【文化受容により推進される対象理解と信頼関係】が重要だと学んでいた。対象の文化を強みととらえ,文化を円滑なコミュニケーションの手段としての可能性を見出し,【文化を織り込む看護実践を(の)考案】していた。さらに学生は,文化が安心や生きる意欲の変化にまで波及できるのではないかと考え,【心身の健康を推進する文化への期待】をしていた。
    そして学生は,文化と看護を重ね合わせたときに看護職が文化を吸収し多くの人々へ伝えていく役割があると認識し,【文化に密着し学び続ける看護職像】を思い描き,文化と看護の繋がりをイメージ化することができていた。柔軟な思考ができる2年次前期に,体験先行型の科目形態が,文化を看護に統合する力の涵養に活かされていたと推察された。

  • ― 世代差についての意識を中心に ―
    德田 真由美, 辻村 真由子, 石垣 和子
    2018 年 10 巻 1 号 p. 1_79-1_84
    発行日: 2018/05/31
    公開日: 2020/06/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,沖縄に暮らす高齢者の排泄に関する世代差を中心とした意識を調査し,文化を反映した排泄への看護援助のあり方を検討することである。沖縄の高齢者15名を対象とし,排泄に関する意識について半構造化面接法による聞き取り調査を実施した。
    その結果,対象は,排泄の調子を判断する目安として,【朝便を出すと調子がよい】【便はバナナ状で硬くない】【排泄の爽快感がある】【腸に便がたまらない】【検査を受けて結果を確認する】等をもっていた。排泄の介護をしてほしい人は,家族や専門職の他,誰の世話にもなりたくないという人もいた。自分の排泄リズムを大切にしたいという意思と,世話になるのだから介護者のリズムに合わせるという意思があった。排泄に関する世代差は【排泄習慣の教育の低年齢化】【トイレの形状の変化による排泄姿勢の変化】【昔のトイレへの恐怖】【トイレの清潔感の高まり】【排尿の道徳観の変化】【排泄の内外意識の高まり】【陰部の羞恥心の低下】などに感じられていた。沖縄に暮らす高齢者は,排泄リズムをもちながら,自分で調子を判断して排泄をしていた。また,排泄に関する世代差を感じていた。このことは,沖縄の特徴なのか,日本の特徴なのかは明確でなかった。高齢者の現在の排泄習慣や考えを把握するとともに,その世代が経験してきたトイレや排泄習慣を理解して排泄方法を検討することが必要であると考えられた。

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