文化看護学会誌
Online ISSN : 2433-4308
Print ISSN : 1883-8774
2 巻, 1 号
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原著
  • ― 飯田市郊外の住民が語った「結い」の実態をもとに ―
    武分 祥子, 柄澤 邦江, 岩﨑 みすず, 熊谷 寛美
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1_1-1_10
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     飯田市における人々のつながりから地域ケアにおける助け合いの可能性を探るために,この地域での「結い」の実態を把握することを目的とした。そのために,飯田市郊外12地区,19名の情報提供者に対して聞き取り調査を実施した。
     その結果,飯田市では昔は農作業を中心に労働力を提供しあう「結い」が盛んに行われていたことが明らかになった。現在では,「結い」は縮小しているものの冠婚葬祭や農作業の一部などで行われていた。【現在の人々のつながり】では,「結い」を通してできた人々のつながり,公的あるいは民間組織活動によるつながり,共同での作業や行事,親戚によるつながり,家族のつながりがあった。【人々のつながりの変化】では,「結い」の衰退,農作業・仕事の変化,地域のつながりの変化,家族の結びつきの変化があった。さらに,【これからの人々のつながり】では,別の形の組織化,地域の中での人間関係の維持を望み,その一方で将来の地域での助け合いの困難を懸念していた。
     以上より,飯田市において「結い」はかたちを変えて残ってはいるが,人々のつながりは時代や地域生活とともに変化していること,人々は地域における人間関係の維持の手段として,今後も異世代交流の場や助け合いの組織化を望んでいることが明らかになった。よって,人々のつながりを育むような組織化活動が今後の地域ケアにおいて必要であると考えられた。

  • 高橋 良幸, 張 平平, 清水 安子, 正木 治恵
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1_11-1_19
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     背景:糖尿病は世界的に増加しており,糖尿病の予防が課題となっている。症状の無い糖尿病予備軍者のセルフケアの発展を支援するためには,医療者が依拠した身体だけではなく彼らが実際に捉えている身体を明らかにする必要があると考えられた。一方で身体には文化によって違いがあるとも考えられている。
     目的:本研究の目的は,日本における糖尿病予防に取り組む人々の身体の捉え方を明らかにし,それらを文化的視点および看護学的立場から考察し示唆を得ることである。
     方法:我々は糖尿病のリスクがある日本人男女の便宜的なサンプルを用いた。糖尿病予防教室に参加した後にグループインタビューと質問紙調査を行った。データは質的統合法(KJ法)を用いて分析した。
     結果:男性2名女性8名の計10名(平均年齢62.5歳)が研究に参加した。【身体に起こる影響の理解】【引き起こされる糖尿病や障害の予想】【引き継いでいる血・健康・糖尿病】【自己の身体の理解と弱点の克服に向かう関心】【指標を用いての判断とそこから生じる意欲の揺れ動き】【生活の中で自然とつくられる身体】【不確実な身体】という身体の捉え方が明らかになった。
     考察:これらの身体の捉え方は歴史的にも社会的にも様々な文化的影響を反映していると考えられた。また,看護学的立場からみると彼らの身体の捉え方には階層的構造をなしていることが示唆され,これらについてさらなる調査が必要と考えられた。

  • 王 麗華, 小林 和成, 大野 絢子
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1_20-1_26
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     本研究は,日本の病院に勤務している外国出身看護師6名を対象とし,日本の保健医療現場に対する認識と,その認識にかかわる文化的背景を国民文化並びに組織文化の視点から明らかにすることを目的に行った。質的帰納的分析法を用いて分析した結果,【組織の人間関係の文化的な認識】,【国民文化を理解したうえでの看護技術の遂行力の獲得】,【組織文化への適応能力の獲得】をしていることが明らかになった。外国出身看護師は,出身国と異なる国での異文化体験,すなわち国ごとに異なる国民文化の違いを体験することに加えて,各々の病院ごとに異なる職場での異文化体験,すなわち組織ごとに異なる組織文化の違いを体験することになる。国民文化,組織文化の双方に現れていることから,看護が患者との人間関係だけではなく,職場での他の看護師や医師などとの円滑な人間関係が重要であると認識していることが読み取れる。また,組織文化に対して積極的に同化しようとする傾向が見られる。組織文化への同化は,暗黙のうちに互いの業務の内容を理解することにつながり,同化によって自分自身の活動を円滑に行えるようになる。そのため,医療現場では,外国出身看護師と日本人の同僚がお互いの国民文化や組織文化を理解することによって,同僚同士の情報共有や意思確認を促進し医療ミスを防ぐ上で大いに役立つと考える。

  • 酒井 郁子, 湯浅 美千代, 島田 広美, 末永 由理, 遠藤 淑美, 綿貫 成明, 杉田 由加里, 山本 雅子, 染谷 さち代, 広瀬 穂 ...
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1_27-1_39
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     周が開発した「脳卒中患者の自我発達を促進する看護援助理論」の内在化を助ける看護師学習プログラムと学習教材を開発し,日本の医療組織文化に根差した形式で実施し,その効果を評価したいと考えた。研究目的は,周理論を看護師学習プログラムとして日本の看護実践現場に適用し,学習プログラム展開中の看護師の気づきをデータとして分析し,理論学習の効果という視点から検証することである。教材としてワークブックを開発し,全体学習会と3回のセッションからなる学習プログラムを開発した。2か所の回復期リハ病棟を有する病院で実施し,研究参加者36人のセッション中の104場面の気づきの性質を取りだし,周理論の枠組みに沿って周理論の学習効果を分析した。その結果,参加者に患者理解の多様化,看護方策の多様化,看護実践行動の変容が確認され専門職アイデンティティの確立に周理論の学習が寄与したと考えられた。また周理論の用語および共通の思考過程の基盤が確立され,看護に関する記録や情報交換が円滑になったことが確認された。本研究で開発した学習プログラムと教材は,周理論を活用して実践した看護援助の意義を明確にできるようにセットされていたため,参加者は自己の援助の意味づけが可能となったと考えられた。理論導入の課題として看護師の理論学習が進展するときには,それに伴って成長していく看護師の力量を発揮できるように,看護管理体制を常に変革していく必要が示唆された。

総説
  • ― 日本老年看護の概観を通して ―
    張 平平, 正木 治恵
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1_40-1_47
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     世界人口の高齢化につれ,先進国や新興国,開発途上国を問わず世界各国における高齢者への関心が高まっている。高齢者をとりまく環境が急速に変化している中,多角的側面から高齢者に焦点をあてた学問体系が求められる。
     戦後の日本は,経済成長に伴い,医療保健福祉制度が整備されつつあるなか,先進諸国の中でも類を見ない速さで超高齢社会に突入した。このような社会要請のため,1990年に老人看護学が成人看護学から独立し,老年看護の学問としての確立が一気に加速化された。20年間の発展を通じて日本の老年看護は,これらの老年看護学の専門知識を活用し,教育や研究,そして,実践の場で専門性を充分に発揮することにより,多くの実績を蓄積し,高齢化の急速な進展に立ち向かいながら多大な貢献を成し遂げている。
     目覚しい経済発展を迎えてきている近年の中国は社会保障制度が未だ健全に整備されないまま高齢化社会に臨んだ。先立った日本老年看護の概観により,中国の老人医療社会保障システムの整備が契緊の課題となる同時に,基礎看護教育における老年看護学の確立や大学院教育の強化,教員の資質確保,老年看護専門看護師の育成,老年看護学会の設立等の老年看護学という学問体系の形成に関する具体的な取り組みも今後の課題と示唆された。更に,これらの課題を解決するには,アジアの手本となる日本老年看護の国際発信が必要と示された。

特別寄稿
  • ― 人間学という営みの中に据える ―
    浮ヶ谷 幸代
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1_48-1_58
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,医療や福祉の領域で調査研究する際の人類学の基本的な思考様式と実践方法について提示することである。まず,文化人類学の基本的なスタンスとして,「差異(違い)」に着目することと異文化理解に対する「構え」について説明する。その構えの重要なエッセンスとして,異文化を通して自文化とは何かと問う「相対化」という態度について述べる。続いて,人類学者の主な仕事であるフィールドワークとエスノグラフィに関する重要な視点を述べる。フィールドワークとは,フィールドというアウェイに身を置くことであり,それは人類学者の専門性の問題と重なること,また参与観察を中心とする調査ではインタビュー調査に限定されないデータ収集になることを指摘する。エスノグラフィに関しては4つの視点を指摘する。一つは,専門用語と民俗用語の使い分けという視点であり,2つ目は「全体的社会事実」と「部分的真実」という視点,3つ目は文化の「動態性」と「混淆性」という視点,そして4つ目は研究者とフィールドとの地続きの地平を模索する視点である。加えて,医療福祉領域での調査研究に求められる「研究倫理」に関する私見を述べる。倫理委員会が規定する普遍的な倫理よりも,フィールドの関係者との対話から生まれるローカルな倫理の重要性について指摘する。最後に,人間の学としての人類学と看護学にとって共通する課題について述べる。

  • 朴 将虎
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1_59-1_66
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー
  • ~ 漢方医の診察室より ~
    中田 英之
    2010 年 2 巻 1 号 p. 1_67-1_71
    発行日: 2010/03/31
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー
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