文化看護学会誌
Online ISSN : 2433-4308
Print ISSN : 1883-8774
3 巻, 1 号
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原著
  • 遠藤 和子, 正木 治恵
    2011 年 3 巻 1 号 p. 1_1-1_9
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,中高年女性の2型糖尿病とともにあるありようを,食卓の営みの語りから示すことと,食卓の営みを語ることの看護援助への示唆を得ることである。食事療法を営む2名の中高年女性の食卓の語りを質的帰納的に分析し,その人のありようを構成した。
     C氏は,【和を保つ中で自分を規制】してきたが,【夫との関係,子どもの独立,仕事上の危機に直面した戸惑い】から,意味を見失い,【料理への自信の無さ】と【もともと器用で無い】ことのエピソードが結びついて対処できない思いになり,【自分の体の変調への無力感】とともに,自己へのネガティヴなエピソードが引き出されて物語を形成し,それが【医療者への信頼と委ね】としての表現に繋がっていた、と理解された。
     D氏は,【務めを果たした女性としての有意味感】の一方で,【自己管理への意欲と看護師への期待】があり,その一方で,【家族の軌跡と共にある自己】が表現され,これらは,【つながっている存在への気づき】に立脚している。これを踏まえて,【自分の軌跡を大事に糖尿病と共に生きる】ことを目指していた,と理解された。
     これより,2型糖尿病とともにある女性の特徴が,ジェンダー役割の意味の感覚,自己調整の有能感,身体に対する知識,サポート資源の発見と活用にあると考えられ,文化的側面であるジェンダー役割に着目した看護援助の重要性が示唆された。

  • ― 経験の深化と「正常」と「異常」の再構成 ―
    杉本 洋
    2011 年 3 巻 1 号 p. 1_10-1_19
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     病気は医学的観点からのみならず,広く社会的,文化的に経験されるものである。病気を持つ人々を単に患者,被害者という枠組みではなく,病気を生き抜いてきた生存者としてとらえる動きがある。病気を有する生存者の経験や苦悩に対する実践についての知見は積み重ねられているが,それらの知見は,病気の影響を減ずるという基本的な方略に基づくものが主流である。そこで,日々病気のある生活を生きる上で,病気の影響を減ずる以外にいかなる戦術が想定されるのか,といった問題意識が生じてくる。本研究は,病気をイベントにて詩やトークで「表現する」という,病気を巧みに用いた実践をみつめ,そこから,いかなる戦術を用いて生存者が日々生き抜いているか,の一端を明らかにする。具体的には精神疾患を主とする病気やひきこもりなどの経験を持つ人々によるパフォーマンス活動における民族誌学的調査から,パフォーマンス活動の運営,表現される内容,ステージ上で語られるトークの例を示す。病気を表現する生存者達は,表現活動・創作を通して,病気を有する経験を深化させ,「正常」と「異常」を再構成する,といった戦術的実践を繰り広げている。こうした生存者の実践から,広く慢性的な疾患や社会的な苦悩を抱える人々に対する看護への示唆を述べるとするならば,生存者の実践にみられる経験しつくすような立場の尊重や「正常」と「異常」といった概念の流動性を支援者自身が認識し,支援を再考していく必要性が強調されるところであると考えられる。

実践報告
  • ― 住民活動の進展に影響を与えていた社会文化的要因の検討 ―
    大川 嶺子
    2011 年 3 巻 1 号 p. 1_20-1_29
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     筆者は小規模離島において,高齢者地域ケアシステム構築を目指す住民活動を支援する機会を得た。その中では,住民が活動の優先課題としてあげた課題の多くは解決に向けて進展をみることができたが,解決に向けて進展させることができなかった課題もあった。本論文は,この,解決に向けて進展をみることのできなかった課題「高齢者送迎のための専用車の確保」を取り上げ,専用車確保の進展に影響を与えていた社会文化的要因を検討し,住民活動の支援における留意点について考察する。
     専用車確保の進展に影響を与えていた社会文化的要因として,① A島としての意思決定を必要とする事柄と,意思決定の仕組み,および,②高齢者送迎の確実な継続のための慎重な資金調達計画の必要,が抽出された。
     小規模離島における住民活動の支援における留意点として,以下のことが示唆された。①地域としての責任の考え方と意思決定の仕組みを理解する,②初期計画の段階から資金調達計画を検討し,住民の資金調達についての考え方を理解する,③住民の意思を活動の各段階で確認し,明確化して共有する。

  • 知念 久美子, 野村 幸子, 盛島 幸子, 美底 恭子, 糸数 仁美
    2011 年 3 巻 1 号 p. 1_30-1_37
    発行日: 2011/03/01
    公開日: 2018/11/13
    ジャーナル フリー

     【目的】沖縄で暮らしている患者・家族・住民とのかかわりの中で,看護職者が認識した地域文化的看護体験について分類整理し,その結果を沖縄の地域文化との関係を検討する。
     【方法】看護職21名から聞き取った看護体験について,内容を示すキーワードから類似する内容を分類しカテゴリーとした。
     【結果】47の看護体験が集まり【慣習に従うことで心身のバランスを保つ行動とその理解】,【“ユタ”(シャーマン)を精神的拠り所にしていることとその理解】【民間療法を受けていることへの受容と改善への教育】,【伝統料理に関する住民の認識とそれに対する理解と活用】,【死にまつわる風習とその受容】,【島に戻りたいという思いとその尊重】,【家制度にまつわる風習とその尊重・改善】,【“ユイマール”(共に助けあって生きる行動=結い)に共感】,【住まいに応じた台風対策の工夫と協働】,【方言による仲間とのつながりとその活用】の10のカテゴリーに分類された。
     【考察】この10のカテゴリーは,島嶼性つまり「海洋性」「遠隔性」「狭小性」からもたらされている。台風が吹き荒れることや海で隔離されていることで伝統が色濃く残り,狭い地で限られた資源で力を合わせ,自立に努めて生きている人々を看護職者が支えている体験であった。
     看護職者は,患者や住民の地域文化的な様々な風習,行動パターン,生活様式に対して理解し共感し,また患者の精神的安定や健康への危険性を見極めて対応していた。そして地域文化的な特徴を活用していることがわかった。

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