ハナワラビ属はヒメハナワラビ亜属,オオハナワラビ亜属,アリサンハナワラビ亜属,ナツノハナワラビ亜属の 4 亜属からなる (加藤・佐橋,1977).亜属間の類縁関係については,共通柄の長さ,分布,葉の大きさ,胚および維管束の性質からオオハナワラビ亜属が最も原始的であるとする説 (B_<OWER>, 1926; C_<LAUSEN>, 1938, 1954; 野津,1955; 西田,1957) と,維管束からヒメハナワラビ亜属が原始的とする説 (C_<HRYSLER>, 1945; 西田,1952) が有力である.これらの説に検討を加えるために胞子嚢の観察を行なった.大葉類の祖先と目されるデボン期のリニア鋼やトリメロフィトン鋼,さらにクラドキシロン目やコエノプテリス目は軸の先端に,楕円形あるいは球形で縦裂開の胞子嚢をもつ.一方,ハナヤスリ科は原始的なシダとしてコエノプテリス目としばしば比較されてきた.胞子嚢の大きさ,壁,胞子産生数などはその原始性を示している.今回の観察で,ハナヤスリ科も胞子嚢の位置 (軸端) と裂開 (縦裂開) の点で共通していることが確かめられた.しかしハナワラビ属内では変異がみられる.ナツノハナワラビ亜属では胞子葉の小羽軸はさらに羽状分枝して短い側枝をもち,小羽軸,側枝の先端に胞子嚢をつける.したがって側枝の胞子嚢は小羽軸に対して斜めにつく.これに対して他の 3 亜属では側枝は認められず軸内の維管束の分枝だけが起り各胞子嚢の基部に達する.胞子嚢は基部で広く小羽軸に合着し,直角につく.胞子嚢が密接するものではしばしば隣同士合着も起る.またナツノハナワラビ亜属のナガホノナツノハナワラビでは裂開は胞子嚢のやや尖った頂端から基部にかけて縦に起るのに対して,ナツノハナワラビ,他の 3 亜属は背軸側にある頂端から基部向軸側にかけて起る.このようにハナワラビ属では軸端・縦裂開から偽側生・偽横裂開への進化傾向が認められる.またミヤコジマハナワラビは立体的分枝をした胞子葉,胞子嚢托をもつ点で特徴的であるが,基本的には胞子嚢は軸端,縦裂開であると考えられる.胞子嚢托の先端につく裂片は維管束が入ることから胞子嚢をつけない軸から由来したとみなされる.このように胞子嚢の特徴から,ナツノハナワラビ亜属がハナワラビ属内で最も原始的であると推定される.このことは,葉の大きさ・切れ込み,葉鞘の各形質がナツノハナワラビ亜属からアリサンハナワラビ亜属,オオハナワラビ亜属,ヒメハナワラビ亜属への傾向を示すことからも支持される.
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