植物分類,地理
Online ISSN : 2189-7050
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35 巻, 1-3 号
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  • 北川 尚史
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 1-7
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    1982年7月から8月にかけて6週間、服部植物研究所の岩月善之助助博士と私はニューカレドニアとフィジーで野外調査を行った。文部省の科学研究費補助金によって服部植物研究所が計画・実施した海外学術調査である。調査隊のメンバーは私たちの二人だけで、対象をコケだけに限定した密度の高い念り多い調査であった。フィジーは次回のための予備調査で滞在期間も短かったが、ニューカレドニアでは存分に調査を行い、予想以上の成果を収めることができた。現地の研究機関(ORSTOM)と植物学者の全面的な協力のもとに、私たちが全島を駆けめぐり、キャンプを重ね、寸暇を惜しんで採集したコケの標本は4000点以上に達した。ニューカレドニアは西南太平洋の珊瑚海に浮かぶ、日本の四国とほぼ同じ面積を持つ海洋島である。脊梁には標高1000m前後の山脈が幾筋も縦走し、パニエ山(標高1628m)、フンボルト山(同1618m)など幾多の高峰が重畳として連なっている。低地は乾燥しているが、標高1000m以上の山岳地帯は比較的湿潤で、シダやコケが豊富である。古い地質時代に大陸から遠く分離し、隔離された環境下で、この島の植物はきわめて特異な分化を遂げた。植物相の特異性は特に種子植物に著しく、156科、680属、2750種の自生の種子植物のうち、属の16%、種の80%が固有である。ニューカレドニアのコケ相についても、HERZOGは「非常に美しく独自性の強いコケがこれほど集中していることはほとんど信じがたいほどであり、面積の狭さを考慮すれば、断然、地球上の多のいかなる地域をも凌駕する」と指摘している。私はニューカレドニアの苔類とツノゴケ類に関する文献を渉猟してこれまでに同島から記録されてきた種を網羅した。そして、その中から裸名を除き、異名を整理し、妥当な属への組合せを採用してチェックリストを作成した。その結果、従来ニューカレドニアから32科、94属、449種の苔類とツノゴケ類が報告されていることが判明した。そのうち、217種が固有で、種レベルの固有率は非常に高い(48.3%)が、固有の属はPerssoniella HERZ.の1属だけである。私たちのコレクションの約半分は苔類であるが、その中には若干の新種を初め、ニューカレドニアに未記録の種がかなりある。本論文ではそのうちの一つ新属新種Acroscyphus iwatsukiiを記載した。そして、この属をヤクシマゴケ科Balantiopsidaceaeに入れたが、この所属は未だ決定的ではない。この科の最も重要な特徴からは朔がらせん状にねじれた弁をもつことである-この重要な特徴を共有するという主たる理由で、GROLLEやSCHUSTERはかつてのヤクシマゴケ科Isotachidaceaeをバランティオプシス科Balantiopsidaceaeに含めた(したがって、その広い意味のBalantiopsidaceaeに対してはヤクシマゴケ科の和名が適用される)。Acroscyphus iwatsukiiの2点の標本が私たちのコレクション中に見出されたが。そのうちの1点(基準標本)には雌雄の植物体が揃っており、少数の胞子体も見出されたが、その胞子体は残念ながら若すぎるため、上記の科の特徴を確認することができない(他の1点はステリルであった)。しかし、配偶体のいくつかの重要な形質において、この新属はBalantiopsis MITT.およびNeesioscyphus GRO.に共通しているので、両属が所属する広義のヤクシマゴケ科の一員と見なした。この新属新種の産地、スルス山はニューカレドニアの西南部に位置する標高1000m余りの蛇紋岩地域の山岳で、Perssoniella vitreocincta HERZ., Acromastigum homodictyon (HERZ.) GRO., Nardia huerlimammii VANA &GRO., Haplomitrium monoicum ENGELなど、きわめて顕著な種のタイプ産地となっている-上記のうち、3番目の種は明らかにNardiaではなく、タスマニア産の単型属Brevianthus ENGEL & SCHUST.に類縁をもつと思われる新属の可能性がある(ステリルの材料に基づいて記載せれた種であり、私たちのコレクション中に雄の植物体が見つかったが、雌は見出されない)。
  • 北川 尚史
    原稿種別: Article
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 7-
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 小山 博滋
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 8-14
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 清水 建美, 高尾 静代
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 15-20
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    この報文は、昭和57年度文部省科学研究費海外学術調査(No.57041073)および昭和58年度同調査総括(No.58043020)によっておこなわれたタイ国植物調査の成果の一つである。Impatiens siamensis T. SHIMIZU(ツリフネソウ科)は、1977年、タイ国Surat Thani県およびKanchanaburi県の標本をもとに、2個の翼弁が合着し、しかも唇弁の距が長く伸長することを特徴として、命名・記載された。Impatiensの中で、翼弁が合着する群(以下、仮にMicrocentron群と呼ぶ)は、ビルマ・インドシナ・タイ・西マレーシア・スマトラ北部に30種余が知られ、唇弁の距はその本体より常に短い。この点、I. siamensisは例外的であると云える。ところで、DE CANDOLLE(1824)以来、Impatiensの雌ずいは5心皮性、子房は5室というのが定説であって、以来、子房の構造は分類学上格別に注意は払われなかった。われわれは、最近、Microcentron群においては子房が4室であることを知り、1982年、I. kerriae, I. psittacinaなど8種についてこの事実を報告した。一方、Impatiensの胎座は中軸胎座であり、胚珠は1室に1列多数というのがBENTHAM(1862)以来の定説であった。事実、著者の一人高尾(1975)が、I. wallerianaについて、また、GRAY-WILSON(1980)がI. gordoniiについて、胚珠が2列性であることを報告したのが例外的なケースであった。われわれは、Microcentron群について同時に胚珠の配列状態も観察したが、I. kerriae, I. larseniiは常に、I. hongsonensisは時に胚珠が2列性であることを知った。そこで、Microcentron群の中で例外的な花をもつI. siamensisの子房の構造が問題になるところである。観察の結果は、やはり子房は4室であり、胚珠の並び方は、子房室によって2, 3, 4列の3通りがあり、各列に1〜6個ずつの胚珠のあることが確かめられた。不稔の子房室は認められなかった。胚珠が1室内に3列または4列という事例は本種が最初の例である。複合子房において、進化は、胚珠数の減少、不稔の子房室の出現へと進むという通説に従えば、I. siamensisは子房の形質に関して最も原始的なImpatiensということになる。Impatiensの種子の表面もようは、すこぶる変化に富む。I. siamensisの種子は、やや扁平な卵形で長さ1.5mmほどであるが、全面に単純な微細突起と複雑な大型突起をもつ。走査型電顕による観察の結果は、この大型突起はらせん紋様をもつ単細胞突起の集合体であることを示している。このような大型突起は、今のところMicrocentron群には見られていない。I. violaefloraやI. chiangdaoensisなど、葉が互生し、花が紅紫色で2この翼弁が離生し、唇弁の距が細長くのびる群(仮に、Macrocentron群とよぶ)の種子には、微細な単純突起とともにらせん紋様をもつ大型突起が特徴的であるが、I. siamensisの種子の大型突起は、むしろmacrocentron群の大型突起を単位として作られているようにみえる。ちなみに、Macrocentron群は、ビルマ・インドシナ・タイに集中的に分布している。I. siamensisの染色体数は2n=34を数え、I. ridleyi, I. psittacina, I. mirabilisなどMicrocentron群のそれと同じである。これを要するのに、I. siamensisはインドシナ半島を中心に分布するMicrocentron群とMacrocentron群の形質をあわせもつ特異な種ということができる。
  • 清水 建美
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 20-
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 秋山 弘之
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 21-29
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    著者は1981・82年の2年間にわたり、加賀白山の蘇苔類相の調査・研究をおこなった。この結果、苔類61属134種、ツノゴケ類2属2種、蘇類130属265種を確認することができた。この調査・研究によって得た若干の知見の詳細については、今後報告を続けて行きたい。本論文ではナガダイゴケ属の2新種について述べた。ハクサンナガダイゴケTrematodon hakusanensisの2点の標本はともに殿ヶ池小屋から観光新道をやや下った地点で採取された。ススキゴケと似た環境に生育していた。登山道山側のややえぐれて腐植土が垂れている場所では本種は小さな群落を点々とつくっていた。国立科学博物館の標本枯中にもこの種にあたる標本を確認した。これも産地は白山であった。ハクサンナガダイゴケは、植物体のほとんどすべての部分が非常に薄膜な細胞からなりたっていること(そのため植物体は繊弱である)、朔歯が脱落しやすいこと、および朔歯の歯の部分にパピラが全く見られないことが大きな特徴である。朔歯が脱落しやすいことは、カナダから報告されたTrematodon montanusで知られていた形質である。しかし本新種は朔歯の形や葉形といった形質においてT. montanusとはまったく異なる。エゾナガダイゴケT. campylopodinus、シマオバナゴケT. semitortidens(ともに日本産)の2種は、朔柄が短いこと、葉身部の細胞が薄膜であることなどの点で本新種とは近縁と思われる。しかしエゾナガダイゴケは朔歯の歯の部分の形とパピラの程度、葉の肩部の細胞の形などで本新種とは異なる。一方シマオバナゴケは植物体が生きているときでも黄金色であることのほか、葉身部以外の細胞が厚膜であることなどで区別される。シマオバナゴケの朔は強く弓形に曲るとある(TAKAKI,1962)が、神戸大学の土永浩史氏が屋久島で採集された標本では朔は弱く傾く程度であった。ユミダイゴケT. longicollisについて多くの標本を調べたところ、同様に朔の曲り具合には様々の程度のものが見られた。これらのことから判断して、朔の曲り具合は安定した形質とは考えられない。またハクサンナガイゴケの朔歯にはパピラが見られないが、これがどの程度安定した形質であるのかについては今のところ不明である。ユミダイゴケでは朔歯の歯の部分のパピラの程度は実に様々であり、極端な場合には1つの朔の16本の歯のうち数本だけが縦筋をもたずパピラのみからなることさえある。このことを考慮すると、ハクサンナガダイゴケにおいても今後標本が集積された時点でこの点について再検討されなければならない。アカマルゴケTrematodon brevicarpusは、南竜ヶ馬場の南西部、テント場として新しく整地された場所のはずれの土上に小さな群落をつくっていた。微小な種で目につきにくい。偶然その横に腰をおろしたので見つけることができた。周辺をくまなく探したが、他には見あたらなかった。本種はユリミゴケTrtraplodon angustatusを小さくして朔を赤黒くしたような印象を与える。植物体が微小であること、朔柄が短いことなどの点でカナダから報告されたTrematodon boasiiに似ているが、口環の数、朔の色、朔歯の歯の形などの点で異なっている。朔が赤黒味をおびるという特徴は、日本産の種では他にシマオバナゴケとキンシナガダイゴケT. ambiguusに見られる。日本に産するナガダイゴケ属はこれまで5種が報告されていた(TAKAKI,1962)が、今回報告した2種をあわせて7種となる。この7種は以下のとおり検索される。1.朔柄の長さは10mm以上。…2 1.朔柄の長さは8mm以下。…4 2. 朔歯の歯は内面、外面ともパピラからなり、縦筋はない。また2裂せず、穴のあくこともない。…マエバラナガダイゴケT. mayebarae TAKAKI 2.朔歯の歯は頂部にパピラをもつが、外面下部には明瞭な縦筋をもつ。また多くの穴があく(稀に2列する)。…3 3.葉身部は中助に沿って頂部に届く。葉身細胞は薄膜。朔は薄茶色。頸は本体の2倍以上の長さがある。肉眼で雌包葉は目立たない。…ユミダイゴケT.longicollis MICHX. 3.葉身部は肩の部分で急に狭くなり、頂部に届かない。葉身細胞は厚膜。朔は赤色。頸は本体とほぼ同長。肉眼で雌包葉がよく目立つ。…キンシナガダイゴケT. ambiguus (HEDW.) HORNSCH. 4.朔は薄茶色。茎の横断面で外周の細胞は薄膜。…5 4.朔は赤〜赤黒色。茎の断面で外周の細胞は厚膜。…6 5. 葉の肩部の細胞は細長く薄膜。中助は基部で不明瞭。顎は本体の1.5から2.0倍の長さ。朔柄は長さ4-7mm。朔歯はふたとともにはずれる。朔歯の歯は穴があくが2裂することはなく、パピラは全くない。胞子は直径20-25μm。…ハクサンナガダイゴケT. hakusanensis H. AKIYAMA 5. 葉の肩部の細胞は小さく方形で厚膜。中助は基部でも明瞭。顎は本体とほぼ同長。朔柄は長さ5-8mm。朔歯はふたがはずれたあとも残る。朔歯の歯は明瞭に2裂し、外面の頂部と内面にパピラがある。胞子は直径27-30μm。…・/textarea></td></tr><tr><td width="50%"><a href="help_create_kiji.html#abse" target="help">ABSE [抄録(欧)]</a></td><td width="50%" colspan="2"><textarea name="abse" cols="45" rows="5" tabindex="18">
  • 秋山 弘之
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 29-
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 村田 源
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 30-36
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 清水 建美, 近田 文弘, 小山 博滋, 清水 満子
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 37-43
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    この報告は、昭和57年度文部省科学研究費海外学術調査(No.57041073)および昭和58年度同調査総括(No.58043020)によっておこなわれたタイ国植物調査の成果の一つである。タイ国の北部山岳地帯には200種に近い日華区系要素(暖温帯および冷温帯要素)が分布していると見られる。われわれは、東南アジアのフロラ解明の一環として、これらの日華区系要素の分布の実態-分布地・生育地・関連植物群との類縁等-を知る目的で、継続して同一表題の報文の発表を意図している。本報では、前報(本誌32巻37から46項)に続き、セリ科5種、ツリフネソウ科3種、キク科3種1亜種をとり上げ、分布および分類学的形質につき新しく得られた資料を公表し、身学名1個を提案することとした。セリ科:Heracleum siamicum, Hydrocotyle chiangdaoensis, H. siamica, Pimpinella diversifolia(ミツバグサ)、Seseli siamicumの5種に言及した。Hydrocotyle siamicaはタイのほかベトナム・ラオス・ビルマに分布し、ミツバグサは九州・台湾・インドシナ・中国南部およびヒマラヤに分布するが、他の3種はタイ国特産である。Heracleum siamicumは、ヒマラヤのH. nepalenseや雲南・ラオス・トンキン産のH. bivittatumに近い。Hydrocotyle chiangdaoensisとともに石灰岩生である。Seseli siamicaは、砂岩生、雲南産のS. yunnanenseに近い。ツリフネソウ科:Impatiens jurpia var. jurpioides(新名)、I. longiloba, I. racemosaをとり上げた。いずれも、下部山地常緑樹林帯に産し、林内または林縁に群生するのをみる。I. jurpia va. jurpioidesは東ヒマラヤからタイ北部に分布するI. jurpiaの中で外がく片が大きく卵円形となる群である。I. longilobaはタイ特産であるが、東ヒマラヤからビルマ北部に分布するI. stenanthaに極めて近く、同一種ともみることができる。後者は側がく片が1まわり小さく、唇弁の先が芒状に長くのびることを特徴とする。I. racemosaは、これらより分布域は広くチベット南部に及ぶとみられる。ヒマラヤ産の個体が黄花をもつのに対し、タイ国産のものは花は淡紅紫色である。この群では唇弁の距の有無は変化し易いとみえ、同一個体でも距のある花とない花をみることができる。I. longilobaおよびタイのI. racemosaの染色体数は2n=18であった。キク科:Saussurea deltoidea subsp. deltoideaおよびSubsp. polycephala, S. peguensis, S. venosaの3種に言及した。S. venosaがDoi Chiang Daoの石灰岩地に特産するほかは、中国南部からビルマあるいはネパールにかけて分布する。これら3種はいずれもSect. Elataeに属し、染色体数は2n=34を数えた。京都で種子から育成したどころ、S. venosaは一年草、他は越年草である性質が観察された。
  • 北川 尚史
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 43-
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 近田 文弘
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 44-48
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    サジラン属のシダは東南アジアの熱帯を中心に約40種近く知られている。この属の分類学的位置について異なる様々な考えがなされてきた。その原因のひとつにこの属の葉が、根茎と関節するか否かの評価に相違があることが挙げられる。COPELAND(1947)やHOLTTUM(1955)等は、サジラン属の葉は根茎と関節しないと考えた。一方田川先生(1943)は、関節の存在を示唆された。これらの主張は、いずれも野外での観察または〓葉標本による外部形態にもとずくもので、BASECKE(1908)やPHILLIPSとWHITE(1967)等のように、葉柄の内部構造やその発生にまで立入った観察にもとずくものではないようであった。そこで筆者(1974)は、サジランゾクノサジラン、イワヤナギシダ、ヒメサジラン、Loxogramme lankokiensisに、葉が根茎と関節するといわれるウラボシ科と、サジラン属との類縁が問題とされるヒメウラボシ科の数種を加えて、葉柄の内部構造を詳細に観察した。そして、サジランやイワヤナギシダの葉は、ウラボシ科に見られるものと同様に、根茎と関節するという結果を得た。このとき筆者は、サジランよりはるかに大型の葉を持つ種では葉の関節はどのようなものであろうかという疑問を持った。1982年に、筆者はタイとマレーシアにおける植物調査の一環として、これらの国に分布する大型のサジラン属の葉の関節を調べる資料を得ることに努めた。そして、loxogramme aveniaとL. scolopendrinaの資料を今回観察することができた。観察の要点は、成熟した葉の葉柄基部の構造、極く若い葉の同じ部位の構造、葉を落とした後の根茎の構造の3点である。L. aveniaの成熟葉では、葉柄基部にある葉足は直径が3-4mm、高さ約3mmであった。葉足とその上の葉柄の直径はほぼ同じで、葉足は表面に密な鱗片をつけるという点で葉柄から区別される。放射断面では、葉柄の長方形または長楕円状菱形の細胞群と葉足の短矩形の細胞群の間に、4〜5層から成る小型の短矩形の細胞群が見られた(図1,3)。このような葉柄基部の構造は極く若い葉でも同様のものであった。さらに、葉が落ちた後の葉足では、この小型の細胞群の所で落葉が起ったことが示され、葉足上部にタンニンの沈着が見られた。これらの観察は、サジランやウラボシ科のものと良く一致するものであった。一方、より大型の葉を持つL. scolopendrinaでは様子が違っていた。この種の成熟した葉では、葉足が直径が4-7mm、高さが4-6mmであった。葉柄基部の放射断面では、葉柄と葉足の境に、L. aveniaに見られるような明瞭な小型の細胞群は認められず、葉柄の細胞と葉足の中間的な形にのやや小型の、6〜8層の細胞群が観察された。この細胞群の部位は、顕微鏡を用いずに見ると、タンニンを含まない白いUまたはV字状の筋として良く判別される。そして、落葉はこの部分で起きているようである。L.aveniaの葉柄と葉足の間に見られる小型の細胞群は、サジランの観察で述べたと同じく,PHILLIPSとWHITE(1967)のいう離層であって、これは葉の極く若いときから存在し、この離層の所で落葉が起るのである。L. scolopendrinaでは、離層として明瞭に他と区別できる細胞群はないようであった。しかし、これは、いわゆる離層が存在しないのではなく、L. aveniaのそれよりも、はるかに多層の細胞層から成っていて、葉柄の細胞と葉足の細胞の中間の形をしているものと考えた方が良いように思われた。L. scolopendrinaの葉柄基部の構造は、この種が特に大型の葉を持つことと関係がありそうである。結論として、ヒメサジランやL. lankokiensisのような極端に小型の種は別として、サジラン属の大部分の種の葉は根茎と関節するといえるであろう。
  • 小山 博滋
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 49-58
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    ショウジョウハグマ族Tribe Vernonieae はキク科植物で、頭花が両性の筒状花のみから成り、花柱分枝が先端へしだいに細くなり、葯胞の下部付属体が短かく矢じり状となるなどの特徴によって、他の族から区別される。約70属からなるが、大部分の属が熱帯域に生育するため、日本ではなじみの少ないものである。琉球、小笠原、九州南部でショウジョウハグマ属Vernoniaとミスミグサ属Elephantopusのそれぞれ1,2種がこの仲間のものとして見られるにすぎない。熱帯域に位置するタイ国にはこれらの属の他に、Camchaya, Ethulia, Struchiumの3属がある。属の数でいえば、タイ国は日本の2.5倍の属を有するにすぎない。しかし、ショウジョウハグマ属を取り上げると、日本ではムラサキムカシヨモギV. cinerea1種を見るにすぎないのに対し、タイ国には28種も記録されている。しかもこれまでのタイ国における野外調査で得られた資料標本の研究によって、この数はさらに増えそうである。この属の多くは広く東南アジアや中国西南部、さらにはヒマラヤに分布しているので、個々の種の実態を把握するためには近隣地域のものとの対比研究が必要である。しばしば種子植物の種属誌的研究は一通り終わったと云われるが、これは温〜寒帯域に生育するものに関してであって、熱帯産のものについてはやっと手がつけられ始めたというのが実情である。この論文でもCamchayaについて、2新種と2新変種が記載されている。Camchayaはショウジョウハグマ属に近縁で、カンボジア産のC. kampotensisをタイプとして記載された東南アジアの特産属である。冠毛は剛毛状で、1小花あたりせいぜい9本までと少なく、しかも容易に脱落する。また、すべて1年草で、平地の耕作地周辺や山地の路傍に生育する。一方、ショウジョウハグマ属は全世界の熱帯に広く分布する。冠毛は剛毛状で、小花あたり20本以上と多い。また、冠毛が容易に脱落するものもある一方で、短かい剛毛状や鱗片状のものを外側につけて2列性となるものも多い。一年草から樹高が10mを越える本格的な高木まであり、石灰岩地や落葉樹の林床などにも生育する。予備的に調査したタイ国産のショウジョウハグマ属10種余りの染色体数はいずれも2n=18, 36, 54とx=9の倍数であった。これに対し、Camchayaの各種はいずれも2n=20である。この染色体数の差に冠する評価は1000種を越えるとされるショウジョウハグマ属を検討する中で考えて行く必要がある。今得られる情報によると、アフリカ産のショウジョウハグマ属の1節Sect. Stengeliaはn=10の染色体数を持つが、2列性の冠毛を有するとされている。このことから染色体数20を有することと、冠毛を減少させたことに直接の関連はないといえる。ここで新しく記載したCamcnaya pentagonaは5稜形のそう果を持つことで特徴づけられる。これまでCamchayaのそう果は10稜形とされていたが、本種の存在で10稜形と5稜形であることになった。もう1つの新種C. spinuliferaの総苞片は多数からなり、いずれもきわめて細い披針形で、その縁にするどい刺を散生している。この総苞の特徴はC. montanaとよく一致するが、新種は次の点でC. montanaと異なる。すなわち、小花の長さは10mmで、C. montanaの3.5mmに比して倍以上である。また、頭花当りの小花数も約130個で、C. montanaの12から30個に比べて極端に多い。この子花の大きさと数による2型はその間に中間型があって連続するようには考えにくい。C. montanaのタイプ標本を検討していないので問題は残るが、これらの特徴で新種をC. montanaから区別し得ると判断した。ミスミグサ属Elephantopusについては植物研究雑誌57: 50 (1982)で解説している。Ethuliaは10種余りからなる属であるとする意見がある一方で、旧世界の単型属とする意見がある。私は未だ野外で本種に出逢っていない。過去に採集された場所から判断して、特殊な生育地に隔離されているようには考えにくい。一年草で、生える場所や季節によって姿を大きく変える性質があるのかもしれない。この論文では単型属とする意見に従った。Struchiumは単型属である。旧世界の熱帯に広く分布するが、熱帯アメリカ原産と云われている。私の採集した場所は耕作地横の小さな溝の中であった。ここに引用した他の標本も地名から判断すると、人手の加えられたところのようである。最近出版されたFlora Ceylonには比較的最近帰化したもので、最初の採集は1931年に行なわれたと記録されている。
  • M. SHIMIZU, H. KOYAMA
    原稿種別: Article
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 58-
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 岩槻 邦男, 加藤 雅啓
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 59-67
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    前2報に引き続き、この項ではメシダ科、マトニア科、ヤブレガサウラボシ科、スジヒトツバ科、ウラボシ科、ヒメウラボシ科を扱った。ナンゴクシケチシダはボルネオでも高地には分布が広い。ヘラシダは東カリマンタンではすべて渓流沿いでみつかり、山地では発見されなかった。東カリマンタンの高地ではふつうの種である。台湾から中国西南部・タイ・ルソンにかけて分布するオオミンゲツシダDryopteris subfluvialis (=Deparia subfluvialis)はふつう汎旧熱帯性のDeoarua boryanaと同種とされるが、オオミンゲツシダの根茎が直立するのに対して、カリマンタンで観察したところ(ジャワ・セラムでも同様)、根茎は短く匍匐している点が著しく異なる。両種は別種である。サラワク・サバに分布するDiplazium hottaeは近年新種として発表された種であるが、カリマンタン側でもやや乾いた山腹斜面に群生しているのを観察した。Diplazium poienseは2回羽状複葉をもち小羽片はノコギリシダに似て、ヒロハノコギリシダの仲間とは近くない。サラワクとセレベスに分布するが、今回カリマンタンでも雲錐林が発達してくる山地の稜線で採集した。マトニアの1種Matonia foxworthyiは根茎が雲霧林床のマット状のコケの中をはって生える。このシダは一見してヤブレガサウワボシに似た掌状の葉をもつが、楯状包膜と毛(鱗片を欠く)の形質の組合せが特異である。ヤブレガサウラボシ属のDipteris quinquefurcataはやや細い葉裂片をもつ点で、ヤブレガサウラボシと渓流沿いの植物のD. lobbianaの中間にくるが、山地林斜面に生える。スジヒトツバは東カリマンタンでは雲霧林にもみられ、雲霧林下の単葉型と低地のふつうの二裂型が類型的には区別できそうである。ミツデウラボシ属のCrypsinus oodesは革質卵形単葉をもつ小型のシダであり、林内を流れる川岸のコケ蒸した岩上・堤上に生える。これも渓流沿い植物の一員に加えてもよいかもしれない。オオクボシダ属のXiphopteris alternidensに仮にあてたシダは、ヒメウラボシ科には珍しく渓流沿いの岩上に生える。Platycerium coronariumとLecanopteris carnose L. Crustaceaは太い根茎中に蟻が巣をつくる「蟻植物」の例である。いずれも高木の高い樹上に着生し、枝が落ちるか木が伐採された現場にでも出くわさないと、指をくわえてただ見上げるだけでなかなか採集できないものである。本稿で東カリマンタンのシダの採集記録を終える。筆者らの3回にわたる現地調査で、東カリマンタンだけでも500種をこえるシダを観察することができた。種まで確実に同定されないものがまだ多いことはリストを一見して明らかなことであるが、これらの問題は、近隣地域の資料ももっと集めて比較検討する要のあることで、早急に結論の出せることではない。しかし、東カリマンタンについては、低地のフタバガキ林から2000mの高地まで、更には、石灰岩地帯も含めて、多様な環境について広く比較調査をすることができたので、もっとよく調べられている近隣との対比は可能になってきた。これまで原生林に手がつけられていなかった低地で急速に開発が進められているところだけに、現時点で調査結果をまとめることに一つの意味がある。1981年夏の調査では東カリマンタン西北の山地を集中的に観察した。ロングバワンという村を中心とするこの地域は、1000〜2000mの山地で、東カリマンタンでは高度の高い地域となっている。ボルネオでは、これまで、キナバル山は固有度が高く、豊富なシダ植物相のみられることが特徴とされていた。先に、南カリマンタンのブサール山で調査をしたとき、ボルネオの北と南でキナバル山と距離的にはずい分離れているブサール山で、それまでキナバルに特有とされていたシダを幾つか発見し、高地ではキナバルに比べられるような植物相がみられるのではないかと示唆していた。今回、ボルネオ中心部の高地を調査することによって、キナバルが孤立した山ではないことがますますはっきりしてきた。もちろん、キナバルは4000mを越える山であるし、今回の調査地はその半ばの高度に達するのみだから、同じように、という訳にはいかない。キナバルからは、1934年のクリステンセンとホルタムの有名な研究で,40のシダが新しく記録されたが、そのうち14が私共の今回の調査でキナバル以外から発見された。ボルネオほどの大きな島でも、生態的条件には地域によっていろいろの差はあるとはいえ、全体としてはまとまりのある植物相がみられるようである。東カリマンタンの調査で遭遇したいろいろの事実のうち、渓流沿い植物が型も多く、典型的であることが示唆に富む。シダ植物のうちでも渓流沿いに固有のものが多く、それらのうちには種の階級で分化しているものから、種内分類群の階級で特殊化しているものまでさまざまの例がみられる。ファン・ステーニスはボルネオから渓流沿いのシダを12報
  • 光田 重幸
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 68-74
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 光田 重幸
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 75-83
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    スマトラ島やジャワ島は早くからオランダの植民地となっていた関係から生物相の調査の歴史も古く、BLUMEの「ジャワ植物名彙」などすでに1828年に出版されている。それだけに植物相調査のように時間とともに進展してゆく仕事は大いに進んでいると思われがちであるが、それはそれまでの資料の集積によるモノグラフ等がやっと順調に出はじめた第二次大戦前までの話で、独立運動によってインドネシアを失った後のオランダは、往時の活動は望むべくもないのかもしれない(顕花植物のvan STEENISのような人がいなかったら、それこそ沈滞といってもよい所である)。いっぽう現地のボゴール標本庫に残された標本も研究体制が整わないまま、その大半が放置されているというのが現状である。この地域におけるシダ植物相の調査報告は、今世紀にはいってからかなり乏しい。まとまった報告としては1925年にジャワ植物ハンドブック1が出ていて、ミズワラビ科、ウラジロ科、カニクサ科、リュウビンタイ科、ハナヤスリ科、トクサ科、ヒカゲノカズラ科、マツバラン科などが扱われているが、植物誌としては断片的なものにすぎない。1940年になって、シダ植物全体を扱った植物誌がライデンのリークスハーバリウムで刷られているが、これは標本館向きの私家版で謄写印刷であり、内容も覚書きといった程度のものらしい(筆者はまだ実物を見る機会を得ない)。それ以後では、KRAMERのホングウシダ科やHOLTTUMのヘゴ科等、分類群によっては調査が進んでいるものもあるが、これらの目的もマレーシア全体の調査の一環としてなされたものであって、まだスマトラ・ジャワの植物相全体の固有の性格に言及するというところまでは及んでいない。堀田満博士達の植物相調査は、西スマトラの一部ですでに3年にわたって継続されており、京都大学に集められた標本の数も次第に増えてきている。この報告で扱ったのは1983年夏の採集の分までで、しかも西スマトラの一地域のものにすぎないが、それでも180種をこえる種が明らかになった。中には新種かと思われるものもいくつかあるが、この地域の文献や情報がもう少し揃うまで保留しておいた。スマトラ島やジャワ島は熱帯圏にあるので、その植物相は日本や中国南部のものとは大きく異なっていると想像されがちであるけれども、山地の植物相について言えば、じつはそうではない。van STEENISの書いた「ジャワ山地の植物相」(1972)には316属の顕花植物が収録されているが、そのうち207属ほどは屋久島以北の日本にある属と共通であり、更に26属ほどのものを沖縄諸島に見いだすことができる。単純な計算によれば、山地性の属では、その73.3%、つまり約4分の3が日本と共通しているのである。この本に扱われている植物は、花の美しいものや、調査のゆきとどいた地域から選択されている可能性もあるので、これをもってジャワの山地全体におしひろげることはできないけれども、べつに日本の読者向けに書かれた本ではないので、この数字は調査が進んでも大きくかわることはないと思われる。中国南部の属を加えると、共通の属は80%を越えるのではないかと、筆者は考えている。だが、こういう属の数字上の共通部分が多いからといって、両者が同じ起源による同じ性格の植物相であるということは早計である。熱帯の山地などの植物相では、種間の棲み分け現象がはっきりないことがわかっているが、これらの共通部分も、もとあった異質な植物相をベースにして、大陸側から何度も植物が侵入していった結果として成りたったものかもしれない。こういう問題を調べるには、それぞれの林の構成種が大陸側のもととどの程度置きかわっていて、どの種とどの種が対応しているかといった観点が大切であるが、それは今後の調査にまたなければならない。このレポートでふれたトウゲシバ、クラマゴケ、Osmunda vachellii等は、そういう意味で興味ぶかい種と言えると思うのである。
  • 堀田 満, 伊藤 元己, 岡田 いすづ
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 84-93
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
  • 伊藤 元己
    原稿種別: 本文
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. 94-102
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/09/25
    ジャーナル フリー
    スイレン科の植物と単子葉植物との関係についてはよく議論される.一般的には双子葉植物として分類されているが双子葉植物と単子葉植物を結ぶ位置にあるという意見や単子葉植物に入れるべきだという意見も出されている.これはスイレン科の植物が単子葉植物的な特長をいくつか持つとされるからである.単子葉植物的な特徴のなかで胚と実生については以前(分類地理33巻143-148)詳しくは議論したのでそちらを参照にしていただきたい.スイレン属では花の維管束走向は複雑で今までの研究では十分にその基本的構造が理解されたとはいいがたい状況である.今回とりあげた材料のヒツジグサはスイレン属に属する多年生水草で北半球の暖温帯から冷温帯域に広く分布する種である.この種はスイレン属のなかでは小形の植物で花も直径1-2cmで,植物園の温室の水槽によく植えられている熱帯スイレンの仲間の花と比べてはるかに小さい.一般的には花は大きくなるとその中を走る維管束の数は増えそのため維管束走向も複雑になる.(CARLOUIST 1969).それで比較的単純な維管束走向を有するヒツジグサで詳しい観察をおこなった.上記の単子葉植物的特徴のなかで重要な特徴として不斉中心柱的な維管束配列をとりあげて単子葉植物との類縁関係について議論されることが多い.しかしながらスイレン属におけるWEIDLICHによる茎の維管束の観察や前回報告した花の維管束の形態の詳しい観察によると一見,不斉中心柱的と思われるのはスイレン属において維管束が特殊化しているために起因していると思われる.すなわち,維管束が原形成層から分化するとき木部柔組織により分断されサテライト管束と呼ばれる維管束が原生木部から分離された形で形成されるためである. 前回の報告ではこの一本の原生木部から分化する維管束複合体,すなわち1-6個のサテライト管束と原生木部が一般の被子植物と一本の維管束と相同であると結論した.このような特殊な維管束を持つために成熟時の花での観察だけでは維管束系の基本構造は複雑すぎてよくわからない.特にスイレン属では花床下部にreceptacular plexusと呼ばれる維管束が複雑にからみあった構造が存在する.このreceptacular plexusはスイレン亜科の他の属-コウホネ属,オニバス属,オオオニバス属,バルクラヤ属(現在はHydrostemmaという属名が使われる.)なおにもみられる.しかしながらこのような特徴にはジュンサイ亜科のジュンサイ属やフサジュンサイ層ではみられない.またスイレン科に近縁であると推測されるハス科においてもこのような構造はみられない.そこでスイレン科の系統を考える上でもこのreceptacular plexusの構造の理解が重要であると思われる.そこで成熟花の観察に加え維管束系の形成過程を追跡することにより花の基本構造の解明を試みた.花柄からあがってきた維管束はreceptacular plexusと呼ばれる構造を形成する.このplexusからガクへの維管束および花弁とおずいへ維管束を出す子房壁管束が出される.成熟時の花ではこのreeptacular plexusは複雑で構造がよく認識できない.しかし花芽の形成時からの分化過程の追跡によりplexusはgridling bundleと呼ばれるリング状の維管束とこの維管束から内側に向かって分枝される不規則な維管束から形成されていることが明らかになった.花弁,雄ずいへの維管束は子房壁管束から分枝されるがこのときには明確なギャップは形成されない.すなわち基本的にはopen vascular systemで形成されている
  • 原稿種別: 付録等
    1984 年 35 巻 1-3 号 p. App1-
    発行日: 1984/05/29
    公開日: 2017/11/17
    ジャーナル フリー
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