コケシノブについての研究をそろそろ一段落させるために,これまでの知見を集成して分類体系をまとめてみた.内容は,基本的には,本誌33:149-159.1982に掲載した「コケシノブ科の属について」で概説したとおりである.形質の取り扱い方などについては,その論説と同じ態度で臨んでいる.COPELANDの細分した体系は,34属にまで細分しても個々の属の内容が均一にはなっていないという点を含め,まだ不自然な面が残っている.かといって,コケシノブ科を2属にまとめると自然な体系にはならないというのも今では明らかになっていることである.そこで,コケシノブ科を8属にまとめれば自然な体系となるのではないかというのがこの提唱の内容である.COPELANDの研究を継承して,分類体系を提唱したものにMORTON(1968)がある.新世界に多い狭義のTrichomanes周辺などで,COPELANDよりも進んだ知見が披露されてはいるが,分類学的処理としては同じ視点に基づいたものであるといえる.ここで提唱する8属の分類系は,COPELANDやMORTONをはじめ,多くの植物学者の貢献を得て明らかになってきた事実に基づいている.COPELANDが34属に細分した場合も,MORTONが6属にまとめた際も,種群の範囲づけなどに関しては特別な異論はない.ただ,すでに筆者が指摘しているように,これまでMicrotrichomanesやMacroglenaにいれられていた種の間には必ずしも近い類縁関係があるとは限らず,いくつかに分配して基準種周辺だけにそれを残すことになる.Microtrichomanesのうちでは,辺縁に針毛のあるT. digitatum周辺のものは近縁と判断されるが,その他のものは他の群に関連づけられる.Macroglenaについても,M.meifoliaとそれにごく近縁のものを除けば,裂片が退化していることは類縁の指標となる形質とはいえない.ここで提唱した8属の分類系は,COPELANDの基礎的研究をMORTONが修正した体系によく似てはいるが,Sphaerocioniumの再定義やCephalomanes s. lat.の認識によって,この科を2属に大別することが不可能になってきたという事実をふまえたものになっている.なお,この体系によって邦産種の取り扱かいがどう変わるかについては,現在「東京大学理学部紀要」に印刷中の「東南アジアのコケシノブ科」が公刊された後に,その抄録をかねて紹介したい.
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