ネコノメソウ属Sinica列のオオイワボタン(和名:Suto, 1935)Chrysosplenium pseudofaurieiは, アジア大陸東北部, および済州島にのみその分布が知られていたが, 最近, 大陸から遠く離れた四国徳島県にも自生していることが明らかとなった。このように隔離されて存在する日本産オオイワボタンがどのような特徴をもっているのかを理解するため, この種の基凖標本を含む多くの乾燥標本や韓国産オオイワボタンとの形態学的, 細胞学的比較検討を行った。その結果, 日本産のものは新変種と認識し, ヒメオオイワボタンvar. nipponenseと命名, 記載した。ヒメオオイワボタン(ヒメ)はオオイワボタン(オオ)と比べると, ロゼット葉が円形に近い広楕円形で大きさもかなり小さく, 種子の大きさもより小さい。花はヒメでは萼が嚢状に著しく膨れ, 花柱は萼片の約半分である。また, 種子表面の微細な突起の形状にも違いが見られ, オオでは突起が円柱状で先端に大きな穴が空いているかまれに切頭形または鈍頭であるのに対して, ヒメでは突起は約2箇所でくびれており先端は球状である。中期染色体の大きさはヒメの方がやや大きい。染色体数はヒメ, オオとも2n=24であり, Sinica列としては初めての報告である。
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