薄層クロマトグラフィーはロ紙クロマトグラフィーと原理的には似た方法であるが,よりデリケートな特性を有し,いわゆる周縁現象や展開前端と経路のわん曲(特に円形の断面をもつ展開そうで著しい)などが観察され,その再現性のためにいっそう厳密な実験条件が要求される.その原因として,薄層表面の蒸発の不均衡(一方の面がガラス板に固着されているのに他表面が開放されているために生ずる)や展開時間が著しく短く,展開剤の蒸発による分離効率の変化および低下の著しいことなどがあげられる.Stah1は展開そうの内壁に同一展開剤をしませたロ紙をはりつけ,展開剤蒸気による飽和を促進する方法を考案してこの問題を一応解決したのであるが,一方,薄層上の蒸発を抑制するより有効な方法として,著者らはおおい板を薄層上にのせて薄層上の空間を小さくする新しい型式を考案した.別に同じ原理に基く展開そうが最近報告または市販され,いわゆる"サンドウィッチ法"と呼ばれる型式が出現した.(これとは逆に展開そうの上部にすき間を設けて溶剤蒸気を逸出する方法が考案されているが,ここでは長時間の展開と留出に主眼がおかれ,展開剤の蒸発による分離効率の低下は避けられない).
この方法は原理的にはすぐれているのであるが,広く一般的に使用されるには至っていない。その理由はおそらく装置の不備にあるものと考えられる.第一に,展開そうが金属二重管から成り,または,そうとプレートとの間がアルミニウムフォイルでおおわれ,薄層の展開剤にはいっている部分が見えないので,展開剤を吸上げる毛管部や展開初期の状況を監視することができないこと,迅速にプレートを展開そうに入れる操作が行ないにくいこと,また液面と薄層の下縁との距離は厳密に一定にする必要があるにかかわらず,その操作がわずらわしいことなどである.さらに別の型式では展開そうの密閉をしないかまたは不完全なため,易揮発性の展開剤には使用できない.そこで今回これらの諸点を改良し,新たな型の装置を設計試作した.その特色は機構がきわめて単純かつ操作が確実,迅速な点にある.著者らの研究室ではこの装置を繁用し,従来の装置より使いやすく,溶媒が節約され,展開剤蒸気の飽和は前処置なしにただちに得られ,展開時間が短縮され,展開中に先端がかすれることなく,長距離,長時間の展開が可能であり,Rf値の再現性が良好であることを確かめえた.以下にその装置と操作法を述べる.
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