1,10-フェナントロリンと鉄(II)の錯体であるフェロインの有機溶媒に対する抽出性を検討し,1,10-フェナントロリンを用いて抽出比色により10ppb前後の微量鉄の定量を行なった.
陰イオン界面活性剤であるナトリウムジオクチルスルホサクシネートはフェロインと結合して電荷を持たない化学種となり,これはクロロホルムに抽出することができる.その結合比は重量分析によりFe(C
12H
8N
2)
3・(C
20H
37O
4SO
3)
2であることを確かめた.
2×10
-7モルの鉄(II)を含む試水200m
lに,1,10-フェナントロリンを加えてフェロインを生成させる.これにナトリウムジオクチルスルホサクシネートの量を変えて加えクロロホルムに対する抽出性を調べたところ,モル数でフェロインの50~150倍のナトリウムジオクチルスルホサクシネートを加えると完全に抽出できることを知った.フェロインの抽出性は本質的には抽出時のpHの影響を受けないが,ナトリウムジオクチルスルホサクシネートの界面活性能力がpHにより変化するため,短時間内に水-クロロホルム相を分離しようとする際には抽出時のpHの影響が大きい.pH2で水-クロロホルムの分離速度が最大となる.1,10-フェナントロリンと鉄(II)はpH2~9で定量的に反応するので,フェロインの抽出を鉄(II)の定量に利用する場合には,pH2.4付近で抽出するとよい,以上のことから微量鉄を定量する場合の分析操作は次のとおりである.
試水200m
lに7
N塩酸4m
lを加え80℃以上の水浴上で30分間加熱する.室温まで冷却後10%塩酸ヒドロキシルアミン溶液4m
lと0.12% 1,10-フェナントロリン溶液10m
lを加える.アンモニア水でpHを5.8に中和後,酢酸ナトリウムと塩酸よりなる緩衝溶液10m
lを加え試水のpHを2.4に調整する.試水を分液ロトに移し,1%ナトリウムジオクチルスルホサクシネート溶液3m
lとクロロホルム10m
lを加えて2分間振とうし抽出する.さらにクロロホルム7m
lを用いて2回同様に抽出する.分離したクロロホルムを25m
lのメスフラスコに移し,3m
lのエタノールを加えて純クロロホルムで刻線までうすめる.純クロロホルムを対照液として波長515mμ,50mmの吸収セルを用いて吸光度を測定する.吸光度をY,鉄濃度をX(ppb)としたときの回帰直線はX=164.112Y+0.219であり,鉄濃度3ppbにおける90%信頼限界値は3士0.67ppbであった.銅(II)が多量共存すると妨害するが鉄濃度が10ppbの場合,銅(II)が500ppb以下であれば妨害しない.
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