分析化学
Print ISSN : 0525-1931
15 巻, 6 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
  • 河淵 計明, 賀谷 美紗子, 大内 慶和
    1966 年 15 巻 6 号 p. 543-547
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    陰イオン交換法を併用して,ホワイトメタル,活字合金中のアンチモン,スズ,銅の同時分析法を検討した.
    約50mgの試料を王水に溶解後,硫酸を加えて白煙を生ずるまで加熱し,水で希釈後,ロ過して硫酸鉛を除去する.チオシアン酸形樹脂(Dowex 1 X-8,100~200メッシュ)で作ったカラムにロ液の一定量を通したこのち,アンチモンは1N硫酸15ml,スズは0.5M塩化ナトリウム-0.5M水酸化ナトリウム溶液15mlで順次溶離する.ついで,3N塩酸30mlでカラムを洗浄後,2M塩化アンモニウム2Mアンモニア溶液50mlで銅を溶強する.溶出液中の金属4オンは,アンチモンはヨード・アスコルビン酸法,スズはジチオール法,銅はジエチルジチオカルバメート法により、それぞれ吸光光度定量する.
  • 鈴木 諄亮
    1966 年 15 巻 6 号 p. 548-552
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    直流ポーラログラフによって,ヒ素(III)の還元を種々の濃度(6.0~14.4M)の硫酸溶液中で検討した.
    6.0~13.0M硫酸中では3段波を示し,第3波は極大をともなうが,Triton X-100により抑制された.一方,14.4M中では第2波,第3波は認められず,1段波を示した.また,これらはいずれも拡散律速であった(ただし,第3波は最終上昇の影響を受け,波形解析は困難である).
    硫酸濃度の増加にともない,半波電位は正側に移行し,拡散電流は徐々に減少した.この拡散電流の減少は支持電解質の粘度に関係し,Stockes-Einstein式に従うこと1が認められた.
  • 福士 忠雄, 柿田 八千代
    1966 年 15 巻 6 号 p. 553-556
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    鉄鋼中の微量ホウ素の定量に際して,多量の試料をとり,主成分の鉄をメチルイソブチルケトン抽出によって除いたのちホウ素を定量してホウ素定量の感度をあげた.数gの試料を硫酸と硝酸を用いて溶解後,濃縮する.ついで最適塩酸濃度でメチルイソブチルケトンで除鉄操作する.水層を加熱濃縮して従来法と同様にメチレン青-BF4-錯体をジクロルエタンで抽出する分析法を適用した.ホウ素錯体の抽出条件についても二,三の検討を行ない,日常分析法として比較的容易な分析操作を確立した.本法により,鉄鋼中の0.0003%のホウ素含量については3gの試料量で定量できた.メチルイソブチルケトンによる除鉄操作はホウ素定量において妨害を及ぼす共存元素の数種のものについての除去を可能にする.
  • 純鉄中の極微量不純物分析法の研究(第14報)
    神森 大彦, 川瀬 平久, 坂井 光一
    1966 年 15 巻 6 号 p. 557-560
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/05/07
    ジャーナル フリー
    純鉄中の極微量不純物分析法の研究の一つとして,ニオブの吸光光度定量法を検討した.すなわち,チタンの酸化トリオクチルホスフィン抽出-チオシアン酸アンモニウム吸光光度法で,ニオブが共存すると高値を与える原因となることから,この方法をはじめてニオブ定量法に応用し,チタンおよびタンタルはルモガリオン抽出分離法であらかじめ分離してその影響を除いた.また鉄,モリブデンおよびタングステンも磁気水銀陰極電解法であらかじめ分離し,その影響を除去した.本法によれば,試料0.1gを用いてニオブ含有率2~50ppmを絶対誤差2ppm以内,所要時間約3時間で定量できた.普通鉄鋼中に混入するおそれのある21元素のうち,モリブデンおよびチタンは約7倍量まで,またタングステン,タンタルおよび銅は約30倍量まで,それ以外の16元素は約300倍量までの共存はそれぞれ影響しない.
  • 有機試薬による金属の直接溶解に関する研究(第1報)
    神森 大彦, 佐藤 公隆, 滝本 憲一, 荒川 基一
    1966 年 15 巻 6 号 p. 561-569
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    電解法による鋼中析出物介在物分離の難点を解決するため,有機溶媒で直接地鉄を溶解し,析出物を残留物として分離する方法について検討した.
    その結果,アセチルアセトン(以下,acacと略記)に金属鉄を溶解することにしたが,まったく新しい方法であるためその溶解現象や溶解に影響を及ぼす因子について実験を行ない,あらまし次のような結論を得た.
    金属鉄がacacに溶解するのは,まず鉄が酸化してFe2+となりFe(acac)2を形成し,次にFe(acac)3となって安定化する.溶解に作用する因子として,acac中に解離しているプロトン,溶存酸素,含有水分がある.アルミニウム,ベリリウム,カルシウム,セリウム,コバルト,クロム,銅,マグネシウム,マンガン,モリブデン,ニッケル,鉛,ケイ素,チタン,タングステン,亜鉛の各金属についてacacによる溶解性を検討したところ,一般に水素よりもイオン化傾向の大きい金属が溶解するようである.
    さらにacac以外のβ-ジケトンについても実験を行ない,acacと同じく金属をよく溶解することを確かめた.
  • 黒羽 敏明, 榊原 正直, 渋谷 晟二, 小倉 正夫
    1966 年 15 巻 6 号 p. 569-572
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    原子炉用被覆材として用いられるアルミニウム地金(2S相当品)には,ウラン含有量について規定がある.著者らは,Kuznetsov,Savvinらのジフェニルグアニジン共存におけるウラン・アルセナゾIII-ブタノール抽出吸光光度法をアルミニウム地金に応用し,微量ウランを定量した.また,この分離法を利用してケイ光法によるウランの定量を行なった.
    多量のアルミニウムの共存は,ウラン-アルセナゾIIIの抽出を妨害する.そこでアルミニウムの妨害を除くために,マスキング剤としてフッ化ナトリウムを用い,過剰のフッ化ナトリウムをホウ酸でマスクする方法を検討し最適定量条件を確立した.
    本法により,アルミニウム地金中に0.4~1.0ppmのウランが含まれていることを確認した.
  • 定電位クーロメトリーの自動記録液体クロマトグラフィーへの応用(第3報)
    高田 芳矩, 宮下 春男, 津田 博道, 武藤 義一
    1966 年 15 巻 6 号 p. 573-577
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    既報において,定電位クーロメトリーによる検出器を液体クロマトグラフィーに応用して良好な結果が得られたことを報告したが,本報では,おもに二次定電位クーロメトリーを陰イオンの検出に応用する研究を行なった結果を報告する.
    銀を作用電極として用いてハロゲン,シアン,チオシアン,フェリシアン,フェロシアン,チオ硫酸,チオ尿素,イオウなどのイオンの数~数百マイクログラム量を検出した.これらの検量線は,2種類以上の反応が同時に起こっていると推定されるCl-,CN-,S2-を除いて直線となり,この検出法は微量分析および電極反応機構の解析にじゅうぶん役だつことが推定された.
  • 吸光光度試薬としてのカルシクロムに関する研究(第3報)
    石井 一, 永長 久彦
    1966 年 15 巻 6 号 p. 577-581
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    カルシクロムが鉄(II)と錯体を生成することを見いだし,錯体の組成を明らかにするとともに,基礎的な検討を行なって,微最鉄の定量に応用した.
    鉄(II)-カルシクロム錯体はpH6付近で生成し,310および545mμ付近に極大吸収を,またこ477および610mμ付近に等吸収点を有し(いずれも水を対照),その組成は1:2であった.鉄の定量条件としては,pH6.2,波長555mμ付近が適当であり,その場合のモル吸光係数は約22,000,感度は2.5×10-3μg Fe/cm2{log(I0/I)=0.001}であった.アルミニウム,銅,チタン,バナジウム,ジルコニウムなどは鉄の定量を妨害する.
  • 多環式芳香族炭化水素類の薄層クロマトグラフィーの研究(第1報)
    多田 敬三, 滝谷 玲子
    1966 年 15 巻 6 号 p. 581-583
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    7および12位に極性置換基を有する7種のbenz[a]anthracene類の混合物について,けい光指示薬入りのシリカゲルを使用し厚さ0.25mmの薄層をつくり,ベンゼンを展開溶媒として薄層クロマトグラフィーによる分離を行ない良好な結果を得た.なお検出限界は0.1~1μg/1μl.
    吸着の差は極性の大小によるところが大きく,シリカゲルのシラノール基との水素結合の強い置換基を有するものほど,その数を増すほど吸着力は大きくRf値は減少し,また,同一置換基の位置の差によりRf値にかなりの差を生じていることがわかった.
  • 界面活性剤の定量(第9報)
    宇野 豊三, 宮嶋 孝一郎, 中川 照真
    1966 年 15 巻 6 号 p. 584-588
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩(ベンザルコニウム塩)をガラス封管中に250℃で熱分解すると,対応するアルキル炭素鎖を持つアルキルジメチルアミン,n-α-オレフィンおよびベンジルハライドを生成した.しかし,同じ温度によりガスクロマトグラフ試料室で熱分解したときには,n-α-オレフィンはほとんど生成せず,一方的にアルキルジメチルアミンおよびベンジルハライドを生成した.このアルキルジメチルアミンのピークを用いて,ベンザルコニウム塩の親油性基の分析を行なった.
  • 同位体希釈法による核燃料中の希土類元素の定量(第2報)
    小森 卓二, 吉田 博之, 郡司 勝文, 戸井田 公子, 田村 修三
    1966 年 15 巻 6 号 p. 589-594
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    酸化トリウム中のセリウム,ガドリニウム,ジスプロシウム,エルビウムおよびイッテルビウムの濃度を同位体希釈法により測定した.スパイクとして電磁分離で濃縮した同位体(140Ce, 155Gd, 164Dy,167Er, 173Yb)を用いた.試料を溶解したのち,既知量のスパイクの溶液をそれぞれ加えて,希土類元素をチオシアン酸塩-TBP抽出法によりマトリックスから分離し,さらに逆相クロマトグラフィーによりランタンからユーロピウムまでとガドリニウムからルテチウムまでのグループに分離する.前者についてはセリウム,後者についてはガドリニウム,ジスプロシウム,エルビウムおよびイッテルビウムの同位体組成を表面電離型質量分析計(CEC21-702B)を用いて測定し,その結果から各元素の濃度を算出する.この方法は酸化トリウム中のppmからppbまでの濃度範囲のセリウム,ガドリニウム,ジスプロシウム,エルビウムおよびイッテルビウムの定量に満足すべき精度と正確度で適用することができた.
  • 無機薄層クロマトグラフィーの研究(第7報)
    滝谷 昭司, 鈴木 政雄, 藤田 信子, 穂積 和子
    1966 年 15 巻 6 号 p. 595-599
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    デンプンを固着剤として含む精製シリカゲルの薄層プレートを用いて電気泳動法により約20種類の普通無機陰イオンの分離定性を試みた.電解質溶液は検討の結果炭酸ナトリウム溶液を用いることとし,ついで泳動時間と泳動距離,炭酸ナトリウムの濃度と泳動距離,電圧と泳動距離,原点の位置などにつき検討した結果,次の条件で泳動を行なった.試料原点は薄層プレートの中央より〓極へ10cmの位置とし,0.05N炭酸ナトリウム溶液を用い,1000V,20分間の泳動により,シュウ酸,ホウ酸,シアン,亜ヒ酸,ヨウ素酸,リン酸,ヒ酸,臭素酸,チオシアン,塩素酸,クロム酸,硝酸,イオウ,チオ硫酸,塩素,ヨウ素,フェロシアン,臭素,亜硝酸およびフェリシアンの各イオンの検出を行なった.
  • 六信 司
    1966 年 15 巻 6 号 p. 600-601
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    A rapid and routine analysis of sulfate in ferrous sulfate and in impure iron oxide was studied. For the samples containing more than 3% sulfate, the following procedure is recommended. Ferric ion is reduced to ferrous with ascorbic acid, and the sulfate is ppted. by adding excess barium chloride. Then, the ferrous ion is masked with excess potassium cyanate, and the excess barium is titrated with EDTA using universal BT indicator.
    For the samples containing less than 3% sulfate, ferric ion is reduced to ferrous with stannous chloride, and sulfate is determined by comparing the turbidity.produced by adding barium chloride. Determination by chelatometric titration could be made in 30 minutes with a 2% relative error, and determinationby the turbidity method could be made in 60 minutes. with a 3% relative error.
  • 石井 大道, 広瀬 陽治, 森 英雄
    1966 年 15 巻 6 号 p. 601-604
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/16
    ジャーナル フリー
    Nondestructive determination of hydrogen in organic solvents was possible by measurement of prompt gamma radiation (2.22 MeV) from the reaction 1H(n, γ)2H.
    For this reaction, the fast neutrons from an Am-Be neutron source were slowed down to thermal energies by the sample itself. The height of the photo-peak obtained by gamma-ray scintillation spectrometrywas found to be directly proportional to the hydrogen content.
    An Am-Be neutron source was suitable for this method because of its low gamma-ray background.
  • 大田 稔
    1966 年 15 巻 6 号 p. 604-608
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    Minute amounts of manganese, cobalt, copper, and zinc in nickel could be separated by a simple paper chromatographic method, and also determined semiquantitatively by means of the dilution method. Various mixed solvents, consisting of acetone and hydrochloric acid, were employed in order to find a suitable mixture for each metal ion. Other conditions, such as the acidity of the sample solution, and the developing time, were also examined, and it was found that the colored spot area was in proportion to the logarithum of the amount of metal ion present in the spot. With the most sensitive coloring agent for each metal ion, the limit of identification of the metal was estimated by the dilution method; a semiquantitative determination of the metal was achieved by diluting the sample solution to the limit. This method could be applied to the determination of impurities in reagent grade nickel metal, and nickel chloride. Particularly good results were obtained in the case of cobalt impurities, as the estimated values agreed well with those obtained by spectrophotometry.
  • 才木 義夫, 鈴木 昭光
    1966 年 15 巻 6 号 p. 608-610
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2010/02/15
    ジャーナル フリー
    Certain anomalies were found in the infra-red spectra of (NH4)2CO3 and NH4HCO3 prepared by the alkali halide pellet technique. The causes of these anomalies found in infra-red spectra are as follows. (1) When NH4HCO3 is mixed with a large amount of NaCl, a double decomposition reaction occures simultaneously, resulting in the formation of NaHCO3 and NH4Cl. However, when NH4HCO3 is mixed with KBr, KCl, and KI, such a reaction does not occur. (2) When NH4HCO3 is mixed with a large amount of KBr, and placed in a high humidity room, double decomposition takes place, but in a low humidity room, self-decomposition occures. (3) When (NH4)2CO3 is mixed witha large amount of KBr, and placed in a variable humidity room, it changes gradually to NH4Br.
  • 池田 早苗, 西田 義郎
    1966 年 15 巻 6 号 p. 610-613
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    チオシアン酸塩は強酸の塩であり,シアン酸塩は弱酸の塩1)であるが,ともに同系統の化合物として共存することが多い.
    著者らは先にチオシアン酸イオンとシアン酸イオンがそれぞれ銀イオンと反応して生成するチオシアン酸銀とシアン酸銀の水に対する溶解度に格段の相違があるため,ほぼ中性の支持電解質中で両者の示差的な定電位電流滴定が可能なことを指摘した2)3).今回はチオシアン酸カリウムとシアン酸カリウムの混合水溶液に回転白金電極-S.C.E.からなる短絡電流滴定法を適用して,基礎的な検討を行なった結果を報告する.
    シアン酸塩単独については先に報告3)したので,まずチオシアン酸塩単独の短絡電流滴定可能な条件と濃度範囲を検討た,引き続き2成分を種々の割合に混合した溶液について滴定条件と滴定誤差を検討した.
  • 阿部 道子, 阿部 史朗, 滝本 いづみ, 渡辺 博信
    1966 年 15 巻 6 号 p. 614
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
  • 防災化学研究発表会特別講演
    清浦 雷作
    1966 年 15 巻 6 号 p. 615-620
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
  • 藤森 利美, 宮津 隆
    1966 年 15 巻 6 号 p. 621-623
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
  • 氷,水および水和イオンの構造
    戸田 盛和
    1966 年 15 巻 6 号 p. 624-631
    発行日: 1966/06/05
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    機器分析の最近の進歩にもかかわらず,湿式分析は今なお標準的分析法の地位を保っている.分析の進歩はこれまでより以上に高純度,高収率の分離や微量物質の取り扱いを要求する.これらの要求はイオン交換や溶媒抽出のように溶解度などの制約を受けない分離法により解決される.一方,EDTAなどによる錯滴定はこれまで扱いえなかった物質にまで容量分析の対象を広げた.これらの分離分析の基礎になる溶液内の錯形成の問題は本誌上でもたびたび講座や解説に掲載された.本号から新たに,錯形成よりももっと弱い結合,イオン会合や水とイオンとの間の相互作用などについて数人の著者による解説を連載する.
    分析化学の理論的基礎は質量作規則であり,このなかにわれわれは活量という量を取り入れている.これがどんな量であるかを知ることは分析化学者に必要な常識であろう.また,湿式分析法は普通,電解質の水溶液を扱っていることから,このシリーズの企画がなされた.
    食塩を水に溶かすと,Na+とCl-に解離することはよく知られている.本号では“これらのイオンが水中でどのような力の場にあるか”についての解説を取り上げる.
    次号では“イオン間の相互作用”について取り上げる予定である.硫酸マグネシウムを水に溶かした場合,たとえ希薄溶液でも,Mg2+とSO2-4の間にクーロン力が働き,種々の物理量は完全解離であると仮定した場合からずれてくる(たとえば電気伝導度が小さくなる).この章は,われわれに解離度の概念をはっきりさせてくれると同時に,われわれがふだん強電解質と考えているものでも,完全解離していないことを教えてくれる.この知識はイオン交換や溶媒抽出などの場合に,特に役だつであろう.硫酸マグネシウムの水溶液の濃度が高くなると,イオンに水和した水の割合が増し,自由な水が連続一様であると仮定した理論(Debye-Hückelの理論)は,近似的にも成立しない.さらに濃度が高まると,イオンふんい気の重なり合いが出てくる.そのような意味から,極端に濃い溶液とみなされる溶融塩の最近の進歩の一端が,さらにまた,水とイオンの間の反応,結合の問題が解説される予定である.
    イオン会合(クーロン力)から錯形成(配位結合)の間は連続的で明確な線は引けない.したがって,この一連の解説をどこまで広げてよいかは今のところ決まっていない.号が進むにつれて多少難解な部分も出てくることと思われるので,あるいは解説の解説が必要になるかも知れない.また,非常に重要なことが欠けているかも知れない.一つのテーマについて,数名の方々による分担執筆という,この新しい試みを実行するに際して,編集委員が各著者の間の連絡に立って調整をはかって読者の期待にそうことができるよう心がけたつもりではあるが,このシリーズのみでなく,このような試みに対してもまた,読者が積極的な注文や建設的な意見を寄せてくださることを期待する.
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