既報において,従来,分析機器への適用が困難であった分相滴定を,はっ水性の多孔質テフロン分離膜を用いた連続抽出を利用することで,光度滴定への適用を可能にした.既に,陰イオン界面活性剤の中でアルキルスルホン酸塩及びアルキル硫酸塩の定量について報告したが,本報では,更にせっけんへの適用を検討した.試料(せっけん)に一定過剰量の陽イオン界面活性剤(ハイアミン)を加え,生成するイオン対は激しく振り混ぜることでクロロホルムに抽出する.その後,陰イオン界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を標準溶液とし,残存するハイアミンを滴定することで,せっけんを定量する.いわゆる逆滴定法である.終点の検出には,分相指示薬を使用するが,種々検討した結果,陰イオン性色素であるジクロロフルオレセイン(DCF)が優れていた.DCFは,滴定前にハイアミンの一部とイオン対を生成し,クロロホルムに抽出されているが,このイオン対は終点近傍においてSDSによる滴定とともに十分な振り混ぜを繰り返すことで,DCFは水相に遊離する.すなわち,クロロホルム中のDCFを比色することで滴定の終点を検出することができる.本法によれば,炭素鎖長C
12以上の脂肪酸から成るせっけんであれば,ほぼ100%の定量結果を得ることができるが,C
6,C
8及びC
10の比較的鎖長の短いせっけんでは,それぞれ0%,26.3%,85.4%と定量性は悪くなっている.しかし,これらの低級酸を含むせっけんについても,それぞれの定量結果を考慮した補正平均分子量を使用することで,いずれも正確な定量が可能であることを確認した.又,滴定精度も,約1.5mMせっけん溶液で相対標準偏差0.34%と良好であった.なお,本滴定装置による所要時間は,試料1件につき15~20分であり,連続自動分析も可能である.
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