逆相系でのアルデヒド及びケトンの2種類の誘導体の保持挙動を,熱力学的に検討した。メタノール-水,アセトニトリル-水の二つの移動相について,移動相組成に対する熱力学的挙動を比較した。メタノール-水系においては,溶質が移動相から固定相へ移動する際の標準エンタルピー変化Δ
H°,その標準エントロピー変化Δ
S°ともメタノール濃度が増加するとともに増加し,その傾向に2種類の誘導体間で違いがみられた。一方,アセトニトリル-水系では,Δ
S°の変化が誘導体の炭素数の増加に伴って減少を示した。この挙動の違いについては固定相の状態を推論しながら考察した。
温度を液体クロマトグラフィーのパラメーターに加えることによりΔ
H°,Δ
S°を求めることができる。この熱力学的関数により多くの情報をクロマトグラフ挙動から得ることができた。しかし,熱力学的な考察が行えるのは,
k'=
Kφにおいて,φが一定という仮定のもとである。つまり,φは温度変化に対して独立であるとして取り扱われている。しかし,まだφが温度変化に対して独立であることは証明されていない。この証明を行うことは,あらかじめ固定相とは何を指すのかを確立することが必要である。固定相の概念の確立は,溶質の保持機構の解明とも関連し,ともに今後の大きな課題である。
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