最近,赤外線吸收スペクトルによる定量を行うに当り特に品位検定を目的とする際は,屡補償法が用いられるようになってきた.この方法は,複光路型の装置において,補償光路側に品位検定を行う純物質を試料光路側と略等濃度入れて試料光路側の純物質の吸收を消去し,含有されている微量の不純物を明瞭に又精度よく検知定量するものである.
しかし,この場合その補償光路側に加えるべき純物質の量を如何に規正するかという事は,従来必ずしも明確にされていなかった.即ち赤外部は可視部,紫外部と異り光源の強度が弱いので,補償光路側の吸收が不当に強くなるとdetectorに達する光量が過少となるため,感度が非常に落ちて,かえって検知限度が低くなるおそれがあるので,補償光路側に入れるべき試料及び溶媒の絶対量(即ち測定溶器の厚さ及び溶液の濃度)に制限があり,又その量を必要以上に少くするのでは補償法の効果が薄くなることになるわけである.又これは種々の赤外線分光器の型によってもdetector,光源等に差異があるので,一定とはいえないと思われる.
そこで,筆者等はBaird型の赤外線分光器について,補償光路側に入れるべき試料の量を如何なる限度に抑えるべきかにつき研究を行い,更にこの結果を用いて有機合成原料を例にとり,どの程度迄の品位検定に用い得るかの実験を行った.
これらの有機合成原料の品位検定法は,従来その殆ど
化学的又は物理的の分析法によっており,その操作が複雑で時間も相当かかる状態であり,一般に多種の不純物が含まれている時は分析困難なものが多く,又時としてはある程度以上微量の不純物は分析出来ず,従ってその定量値の精度も必ずしも高いものばかりではなかった.そこで筆者等は,このような有機合成原料中の不純物を赤外線吸收スペクトル特に補償法によって簡単に迅速に精度よく測定する事を試み,併せてどの程度微量迄検知し得るかを検討してみたわけである.
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