ホストとしてβ-シクロデキストリン(β-CyD)誘導体を,ゲストとしてDL-アラニンβ-ナフチルアミド(DL-AN)を用いて,水と有機溶媒との混合溶媒系での包接現象について
1H-NMR法により検討した.有機溶媒混合系では,水溶液中に比べて包接の強さ(安定度)は著しく減少するが,有機溶媒の混合割合が20~30(v/v)%の系で不斉認識が最も良好である.有機溶媒として重水素置換したアセトン,アセトニトリル,メタノール,エタノール,2-プロパノール,ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルスルホキシド(DMSO),ジオキサンあるいはテトラヒドロフラン(THF)をD
2Oと適宜混合して用いた.未修飾のβ-CyDに比べて疎水性空洞の深い2,6-ジメチル-β-CyDは水溶液中ではこのゲストを強く包接するが,
D体と
L体のプロトンシグナルの化学シフトの分裂はほとんど認められない.しかし,この系に有機溶媒を添加すると,ゲスト化合物のプロトンシグナルが分裂し,不斉認識が観測された.検討した各種有機溶媒の中で,溶媒自身がCyDに包接されやすいと考えられるジオキサンやTHFではゲストの包接能も小さく,認識能も低いことが明らかとなった.一方,水酸基をすべてメチル化した2,3,6-トリメチル-β-CyDでは全く認識されないことより,CyDの二級水酸基とゲストとの水素結合が不斉認識に大きな役割を果たしていると推論される.
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