分析化学
Print ISSN : 0525-1931
44 巻, 7 号
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  • 田口 茂, 笠原 一世, 波多 宣子
    1995 年 44 巻 7 号 p. 505-520
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2010/01/18
    ジャーナル フリー
    メンブランフィルターを用いる微量成分の固相抽出-定量法を提案した.水中の疎水的な成分に対して強い親和力を持つ素材から成るフィルターでは,試料を濾過するだけでそれらの成分を捕集することができる.この方法では,まず,目的成分を疎水性のイオンに変換する.次いで,疎水性の強い対イオンを添加して直ちに吸引濾過する.目的物は疎水性のイオン会合体として捕集される.フィルターの素材としては,硝酸セルロース,ポリエーテルスルホン,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が優れている.捕集物を少量の有機溶媒に溶出したり,フィルターごと溶解して高い濃縮率を得ることができる.濃縮後は吸光光度法や原子吸光法,ICP-AESなどによって測定する.フィルター上でそのまま反射吸光光度法で測定することも可能である.この論文では,捕集と定量に及ぼす幾つかの要因,例えば,捕集するときの化学形,フィルターの素材や孔径,溶媒の選択について述べた.ついで,この方法を用いる微量成分の濃縮,定量の代表的な例を述べた.この方法の優れた点として,操作の簡便・迅速性,高い濃縮率が得られること,定量精度が高いことなどを挙げることができる.最後に,化学成分の水/フィルター相間の分配挙動を調べ,イオン対の固相抽出定数を測定した結果を示した.抽出定数の大きさから,フィルター素材の捕集能を評価し,化学種の分配挙動を溶媒抽出の場合と比較することができた.硝酸セルロースはイオン対の抽出に非常に有効であるが,この理由は,イオン対のプラスの荷電部分とマイナスに分極したニトロ基の酸素との相互作用の結果と考えた.溶媒抽出におけるメチレン基1個当たりの抽出定数の対数への寄与は,0.6であるのに対して,固相抽出では約0.4であった.
  • 平野 義博, 保田 和雄, 広川 吉之助
    1995 年 44 巻 7 号 p. 521-527
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2009/06/19
    ジャーナル フリー
    高温炉原子吸光法の灰化過程において生成される化合物や合金を,二次イオン質量分析法を用いて測定し,灰化段階における物理化学反応,特に合金生成と原子化について,灰化温度-吸光度曲線と合金の状態図を用いて考察した.Inの場合,灰化温度-吸光度曲線において灰化の最高温度(800℃)に至らない600℃でも,合金が生成していることが分かった.又,共存する化学種としては酸化物,炭化物や炭化水素などが認められた.灰化温度が上昇すると,共存する酸化物や炭化物の分解により合金化が進む.初めは分析金属の原子パーセントが高い合金が生成され,温度の上昇とともに合金の組成が変化し,mp.の高い金属間化合物などが生成される.この結果,分析金属の蒸発が抑えられるので,灰化温度を高くすることができた.
  • 三浦 恭之, 堀江 洋二, 康 智三
    1995 年 44 巻 7 号 p. 529-535
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2009/06/19
    ジャーナル フリー
    遊離硫黄と亜硫酸イオンとの反応によって1モルの硫黄原子から1モルのチオ硫酸イオンが化学量論的に生成される条件を確立した.本法ではこの反応が完結した後,未反応の亜硫酸イオンをホルムアルデヒドでマスキングしてから一定量のヨウ素を加え,生成したチオ硫酸イオンに対して過剰量のヨウ素(三ヨウ化物として)の吸光度を測定した.その結果,最高濃度15.Oppm(4.7×10-4M硫黄原子)までの遊離硫黄を定量することができた.8.00ppm硫黄のエタノール試料溶液10mlずつを用いて11回繰り返し実験を行ったところ,平均値は7.98ppmで,標準偏差と相対標準偏差はそれぞれ0.O11ppmと0.14%であった.土壌試料(約200メッシュ)中の遊離硫黄は,セミミクロソックスレー抽出器を用いエタノール(30ml)で60分間以上抽出したところ,完全に抽出することができた.ここで抽出した硫黄を本法で測定することにより,土壌中の遊離硫黄を満足に定量することができた.
  • 郡 宗幸, 佐藤 幸一, 井上 嘉則, 井出 邦和, 大河内 春乃
    1995 年 44 巻 7 号 p. 537-542
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2010/01/18
    ジャーナル フリー
    有機スズ化合物の濃縮分離法として,バッチ法による固相抽出法を検討した.形態別定量にはミセル可溶化液体クロマトグラフィー/誘導結合プラズマ質量分析(MLC/ICP-MS)を用いた.海水1000mlを固相抽出容器に移し入れ,塩酸で約pH2に調整する.固相抽出剤500mgをメタノール10mlに懸濁させこの中に入れる.振り混ぜ機で5分間振り混ぜた後,流量50ml min-1で8mlリザーバーに固相抽出剤を集める.有機スズ化合物をメタノールで溶出させ,溶出液を1.Ogまで濃縮し,超純水1.Ogを添加後,その試料溶液100μlを注入しLC/ICP-MSで測定する.本法の回収率はトリブチルスズ化合物(TBT)95%及びトリフェニルスズ化合物(TPT)94%で,検出限界(3σ)はTBTは5ngl-1,TPTは7ngl-1であった.なお,本法は0.25mlまで濃縮が可能であり,最終液量を0.5mlとすると,検出限界は更に低減できる.
  • 白崎 俊浩, 平木 敬三
    1995 年 44 巻 7 号 p. 543-547
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2010/01/18
    ジャーナル フリー
    マイクロ波誘導プラズマ質量分析法(MIP-MS法)を用いた生体試料中のヒ素及びセレンの分析条件について検討を行った.又,試料中に多量に共存するナトリウム,カリウム,カルシウム,硫黄,リンについてスペクトル干渉の検討を行った.ナトリウム,カリウム,リンはヒ素(m/z=75)及びセレン(m/z=80)に対しスペクトル干渉を示さないことが分かった.これに対してカルシウムは,塩素と共存すると40Ca35Cl+を生成し,ヒ素にスペクトル干渉を示した.又,硫黄もm/z=80にSO3+と考えられる分子イオンを生成することが明らかとなった.本法をNIES No.5 頭髪,BCR Hair(CRM397),NIST Bovine Liver(SRM 1577),NIES No.6ムラサキイガイ,NIST Urine(SRM 2670),NRC TORT-1などの生体標準試料の分析に適用したところ,保証値あるいは参照値とよく一致した.本法におけるヒ素及びセレンの3σによる検出下限値は溶液中濃度でそれぞれ0.02,0.06μg/lであった.
  • 宮林 延良
    1995 年 44 巻 7 号 p. 549-554
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2010/01/18
    ジャーナル フリー
    NMRスペクトルは,観測系に起因して,周波数ごとに異なる位相シフトを持つことが知られている.この位相シフトは周波数の多項式となるが,スペクトルを解析して多項式の係数を自動的に決定することは難しい.そこで位相シフトの高次項を“周波数フィルター”,“測定の遅延時間”,“パルス時間内のオフレゾナンス効果”のシミュレーションにより位相補正し,0次項のみをスペクトルの解析により位相補正する方法を試みた.“周波数フィルター”についてはフィルターの設計式を,“測定の遅延時聞”についてはスペクトルの式を,“パルス時間内のオフレゾナンス効果”については核磁気モーメントの動きを,それぞれシミュレーションした、0次項は,スペクトルのベースラインと信号のすそを外積を用いて検出し,その分布状態を解析することで求めた.その結果,スペクトルのどの周波数においても±1度の誤差範囲で自動位相補正することができた.
  • 阿部 一智, 石田 淳一, 中村 優, 山口 政俊
    1995 年 44 巻 7 号 p. 555-560
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2009/06/19
    ジャーナル フリー
    生体高分子のポストカラム誘導体化高速液体クロマトグラフィー(HPLC)における検出手段としての蛍光偏光解消法の有用性について,基礎的研究を行った.本研究を遂行するために,ラット肝臓ホモジネート中の脂肪酸結合タンパク質(FABP)のポストカラムHPLC分析法を利用した.ホモジネート中のタンパク質をゲル浸透カラム(TSKgel G2000 SWXL)クロマトグラフィーにより分離し,カラムからの溶出液にポストカラム試薬(脂肪酸残基を有する種々の蛍光プローブ)を導入し,生じた蛍光を通常蛍光法及び蛍光偏光解消法で検出した.蛍光偏光解消法は,通常の蛍光検出器に偏光子及び検光子を装着して行った.その結果,蛍光偏光解消法により,遊離型プローブに基づく蛍光は,タンパク質結合型プローブに基づく蛍光に比べ著しく消光した.更に,タンパク質の分子量が大きいほど消光の度合いが小さく,従って相対的に蛍光が大きくなった.これらの結果は,蛍光偏光解消検出法が通常の蛍光検出法に比べ,生体高分子のポストカラムHPLCにおいて有効になりうることを示している.
  • 佐藤 幸一, 郡 宗幸, 大河内 春乃
    1995 年 44 巻 7 号 p. 561-568
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2010/01/18
    ジャーナル フリー
    形態別分離にミセル可溶化液体クロマトグラフィーを用い,検出器にICP-MSを適用する有機スズ化合物の高感度定量法について検討を行った.分離カラムとしてはYMC-Pack FL-C4(30×4.6mm i.d.)が最大保持時間20~30分と短時間で,かつ分離特性も良好であった.最適移動相は40mMラウリル硫酸トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン,75mM硝酸アンモニウム,3%v/v酢酸を含む20%v/vメタノールであった.サンプルループ容量を検討し,感度及び分離度から最適試料溶液注入量を100μlとした.分析精度(n=5)はトリブチルスズ(TBT),ジブチルスズ(DBT),トリフェニルスズ(TPT)及びジフェニルスズ(DPT)の各化合物を20ng含む混合標準溶液を注入し,RSDを求めたところ2%以下であった.絶対検出限界(3σ)はTBT:27,TPT:25,DBT:35,DPT:52及びMPT:97pgであった.ポリマー系抽出剤を用いた固相抽出法を併用することにより,信頼性の高い海水中有機スズ化合物(TBT及びTPT)のスペシエーションを可能にした.
  • 佐山 恭正, 深谷 忠廣, 久野 義夫
    1995 年 44 巻 7 号 p. 569-573
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2010/01/18
    ジャーナル フリー
    銅電解液中のアンチモン(III)イオンとアンチモン(V)イオンを分別定量するHPLC/ICP-AES分析システムを構築した.試料溶液はチオ尿素を含む移動相に注入し,アンチモン(III)イオンをチオ尿素錯体として陽イオン交換樹脂に吸着させ,アンチモン(V)イオンと分離する.続いて移動相を塩化リチウム溶液に切り替え,アンチモン(III)イオンを溶離する.試料注入以降の流出液をICP-AESに直接導入して,アンチモンの発光強度(波長206.833nm)を測定する.本システムを利用すると銅電解液中のアンチモン(III)及びアンチモン(V)イオンを相対標準偏差(RSD)3.6%及び2.3%(各0.1gl-1レベル,n=5)で定量可能であった.
  • 黒田 大介
    1995 年 44 巻 7 号 p. 575-578
    発行日: 1995/07/05
    公開日: 2009/06/19
    ジャーナル フリー
    クリプトンガス中のフッ素のイオンクロマトグラフィーによる迅速で,高感度な分析法を開発した.アルカリ混合溶液をガス吸収液に用いて,クリプトンガスを通気し,フッ素を捕集した.フッ素はガス吸収液と反応してフッ化物イオンを生成するので,このフッ化物イオンをイオンクロマトグラフ法で定量した.本法の検出下限界は10dm3の試料ガス採取量に対して80ppb(24℃,101.3kPa)であり,これはランタン・アリザリンコンプレクソン吸光光度法の約40倍高い感度であった.本法はクリプトンのような不活性ガス中のフッ素の定量に有効であった.
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