メンブランフィルターを用いる微量成分の固相抽出-定量法を提案した.水中の疎水的な成分に対して強い親和力を持つ素材から成るフィルターでは,試料を濾過するだけでそれらの成分を捕集することができる.この方法では,まず,目的成分を疎水性のイオンに変換する.次いで,疎水性の強い対イオンを添加して直ちに吸引濾過する.目的物は疎水性のイオン会合体として捕集される.フィルターの素材としては,硝酸セルロース,ポリエーテルスルホン,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が優れている.捕集物を少量の有機溶媒に溶出したり,フィルターごと溶解して高い濃縮率を得ることができる.濃縮後は吸光光度法や原子吸光法,ICP-AESなどによって測定する.フィルター上でそのまま反射吸光光度法で測定することも可能である.この論文では,捕集と定量に及ぼす幾つかの要因,例えば,捕集するときの化学形,フィルターの素材や孔径,溶媒の選択について述べた.ついで,この方法を用いる微量成分の濃縮,定量の代表的な例を述べた.この方法の優れた点として,操作の簡便・迅速性,高い濃縮率が得られること,定量精度が高いことなどを挙げることができる.最後に,化学成分の水/フィルター相間の分配挙動を調べ,イオン対の固相抽出定数を測定した結果を示した.抽出定数の大きさから,フィルター素材の捕集能を評価し,化学種の分配挙動を溶媒抽出の場合と比較することができた.硝酸セルロースはイオン対の抽出に非常に有効であるが,この理由は,イオン対のプラスの荷電部分とマイナスに分極したニトロ基の酸素との相互作用の結果と考えた.溶媒抽出におけるメチレン基1個当たりの抽出定数の対数への寄与は,0.6であるのに対して,固相抽出では約0.4であった.
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